第44話【求めるものは……】
夜のティタルの街を散歩していたイージス達はミーナが感じた怪しい人影を追って路地へと入っていった。
「……」
確かにこっちから気配を感じる……街の人達に紛れていて気付かなかったが……かなり怪しいな。
(スキル、 千里眼、 聴覚超強化が発動します。 )
イージスは遠くから怪しい人影の様子を見た。
『おい、 あの女どうなってやがんだ! ? 催眠が全然効いてねぇぞ! 』
『俺にもよく分からねぇ……昼の時に確実に掛かっていると思ってたんだが……』
何だ? 男二人の会話が聞こえる……女って誰のことだ……それに昼の時にって……
しばらくイージスは会話を聞いた。
『名前はミーナって言ったな。 奴はかなり上質な獲物だ、 絶対に逃がすなよ? 』
! ? ……ミーナを狙ってるだと……大方奴隷にするつもりだったんだろうが……俺の仲間に手を出そうとしてるやつなら尚更……!
その時、 イージスはいつも通り相手を倒すことだけを考えた。
そしてイージスはザヴァラムとヒューゴに手で合図を出し、 裏から回り込むように指示した。
「イージスさん……私は……」
「ミーナは俺の側から離れるな……」
(イージス様、 こちらは準備完了です。 )
(俺もいつでも行けるぜ! )
ザヴァラムとヒューゴから通信が入り、 イージスはミーナを連れて建物の陰から出た。
「おい、 お前ら! 」
「なっ、 誰だ! ? 」
イージスの声と同時にザヴァラムとヒューゴが男達を挟む形で出てきた。
……ん? こいつら……まさか!
その男達はイージス達が助けた冒険者達だった。
「何で……」
「あ、 あんたらは……! 」
どうしてこの人達が……一体何をしているんだ……
イージスは男達から目的を聞き出した。
どうやら男達はこの街にいる奴隷商人から質のいい奴隷を持ってきたら多額の金を払うと言われたらしい。
それを聞いたイージスは男達を脅し、 奴隷商人の所まで案内させた。
しばらく路地裏を進んでいくと地下への道を見つけ、 そこへ入っていった。
地下を進んでいくと広い部屋に出た。 そこには高級そうな机と椅子が置いてあり、 周りには豪華な装飾品ばかり置いてあった。
「こ、 ここです……」
「奴隷商人はどこだ! 」
隠れてるな……ジースさん……
(スキル、 超探知が発動します。 )
次の瞬間、 イージスは剣を部屋の何も無い空間に向かって投げつけた。 すると剣は空中で止まり、 そこから血が吹き出た。
「ぎゃぁぁぁぁ! ! ! 」
「隠れても無駄だ」
叫び声と同時に透明化していた奴隷商人が現れた。
イージスは奴隷商人の元へ歩み寄り、 刺さった剣を抜き奴隷商人に突き付けた。
「俺は英雄の名に相応しい人間にならなくてはならないんだ……だからお前らみたいな人の命を粗末に扱う奴らは決して許さない……」
「ま、 待て! どうか命だけは! 」
イージスは冷たい目で奴隷商人を見て言った。
「そんな気持ちをしながら……奴隷達は死んでいくんだよ……」
そしてイージスは奴隷商人の首を一瞬にして跳ね飛ばした。 血しぶきがイージスの顔に降り注ぐ。
次にイージスは男達に歩み寄った。
「あんた達も……金が目的で人の命を……失望したぞ……」
「……仕方ないだろう……」
男達は死を覚悟した様子で話した。
「俺達みたいな弱い冒険者じゃ六に稼げる依頼が見つからないんだよ……それじゃ家族を守れない……生活していくには金が必要だった……だからこういう商売に加担して稼いで生きてるんだよ……弱い冒険者達は皆そうしてる……」
それを聞いたイージスは剣を降ろした。
……俺が今正義を振りかざしたところでこの人達の家族が苦しむだけ……どうすればいい……俺は……何をしたら正解なんだ……
「イージスさん……大丈夫ですか……? 」
ミーナは心配そうにイージスを見た。
「ミーナ……俺は……母さんのなりたかった英雄になれるんだろうか……」
「イージスさん……」
イージスは絶望していた。
ゼンヴァールを倒したとして、 それで終わりなのだろうか……悪意を持つ人間はゼンヴァールがいなくとも自然と現れる。 イージスが求めていたのは苦しむ人々がいない世界、 それを作り出してこそ初めて英雄と呼べる……イージスはそう考えていた。
しかし現状は残酷だった……イージスが男達を殺しても殺さなくても苦しむ家族がいる……その現状にイージスは絶望したのだ。
……母さんの求めた平和って……一体何だったんだ……
そこでイージスは初めて自分の選択に迷った。
しかしその時だった。
「イージス様、 ここは私にお任せを……」
ザヴァラムはそう言うと男達にある提案をした。
「貴様ら、 我らの国メゾロクスへ来ないか。 そこならこの仕事よりもマシな職に就けよう。 家は国から空き家を提供するから心配はいらない……どうする」
「ラム……」
するとザヴァラムはイージスに微笑みかけ、 こう言った。
「たまには頼って下さい……私達は貴方様の守護者なのですから……」
! ……俺は何を考えているんだ……
イージスは我に帰った。
そこでイージスの迷いは断ち切れた。
そうだ、 周りには頼れる仲間がいるじゃないか……
「分かった、 ラム……頼んだよ」
「……はっ! 」
そしてザヴァラムは男達と話をし、 男とその仲間達全員はメゾロクスに送られることとなった。
男達は泣いて喜んでいた。
「……良かったですね」
その様子を見ていたミーナはイージスの側に寄り添った。
「……あぁ……」
ラムがどうにかしていなかったら俺はずっと迷っていたな……
そしてイージス達はシューラの教会に戻った。
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シューラの教会にて……
イージスは中庭で星空を眺めていた。
「……」
「イージスさん……」
ミーナが後ろから声を掛けてきた。
「おぅ、 ミーナか……どうした? 」
「ちょっと眠れなくて……」
二人はしばらく星空を眺めた。
するとミーナが口を開いた。
「イージスさんのあんな顔……初めて見ました……いつも楽しそうに笑っているのに……」
「……俺は……母さんの求めたような英雄になれるのかな……」
「……」
「今回のだってそう……ラムが何とかしてくれなかったら俺は何をしていたか……」
イージスは自分の求める平和が何なのか分からずにいた。
「例えゼンヴァールを倒したとしても……今回みたいな人間達は消える訳ではない……本当の平和って……存在しないのかな……」
するとミーナは言った。
「そうですね……平和なんて……元から無いのかもしれませんね……」
「……」
「……でも……希望はあります……」
そう言うとミーナはイージスの前に立ち、 真っ直ぐとイージスの目を見つめながら言った。
「そんな苦しむ人々がいたとしても……イージスさんみたいな強い人が助けてくれる……そんな希望があるだけでも救いになると思います。 イージスさんは……そんな人達の希望になりたがっていたんじゃないですか? 」
「ミーナ……」
その時イージスは気付いた。
自分の求めていた英雄というのはどういうものなのか……母親がなりたかった英雄とはどんな者なのかを……
そうだ……絶対的な平和は決して訪れることは無いんだ……だけど希望はある……俺は……
「……そうだな……俺は……そうなりたがっていたのに……気付いていなかったのかもな……」
「……フフッ……」
ミーナは優しく微笑んだ。
「だがミーナ、 それは俺だけじゃない……ラムやヒューゴ、 ミーナ……俺達全員で皆の希望になるんだ……シューラさんの教会にある石像にも……そんな思いが込められていたのかもしれない……」
イージスがそう言うとミーナはイージスの手を優しく握った。
「そうですね……皆でゼンヴァールを倒しましょう……そして世界中の人達の……希望になりましょう……」
そのミーナの言葉を聞き、 イージスはミーナの手を優しく握り返した。
絶対にゼンヴァールを倒してみせる……そして母さんのなりたかった英雄……皆の希望に……俺達はなるんだ……
「……さて、 寝るとするか! 最近色々ありすぎて疲れちまったよ! 」
「はい! 」
そしてイージス達は部屋に戻った。
「そういえば……あの人達を襲った奴って……結局誰だったんだろうな? 」
「そうですね……一体何者なんでしょうか……? 」
部屋に戻る途中、 イージスとミーナはその事がふと気になった。
……………………
とある洞窟の中……
「……魔王様……私は……」
魔王に仕えていたあの獣人族の娘が黒い短剣を見つめながら呟いた。
「私は……臆病者です……」
そう言うと獣人族の娘は暗い洞窟の中でうなだれ、 一滴の涙を溢した。
「……師匠……」
……イージス達の旅は続く……
第四章へ続く……
第三章を読んで頂きありがとうございます。
この小説はまだ続きますのでこれからもどうぞよろしくお願い致します。




