第42話【いざ砂漠へ】
前回、 アルメナルダの大図書館にて世界の真実を知ったイージス達は世界の旅をすることにした。
そしてアルメナルダから遠くの東に砂漠の街があるとギルドで情報を聞き、 そこへ向かっていた……
「イージスさん、 転移の魔法は使わないんですか? 」
移動中、 ミーナがイージスに聞いた。
「それも考えたけど……この長旅の途中で何かゼンヴァールに関する情報を得られるかもしれないからな。 転移はなるべく使わないようにしてるんだ」
こういうので横着こくと重要な情報を見逃すからな。
そんな話をしているとイージスは遠くで煙が上がっているのが見えた。
「あれは……何か燃えてるぞ! 」
「行ってみましょう! 」
イージス達は煙の方へ向かった。
するとそこには無惨に破壊された荷車と血を流して倒れる人々の姿があった。
うわ……酷い……魔物にやられたのか?
「……! まだ息があるぞ! 」
「まだ残骸の下にいるかもしれません! 探しましょう! 」
イージス達は倒れている人々を救助した。
数十分後……
「とりあえずこんなもんか……」
倒れていた人達は皆助けたけど……一体何が……
すると気絶していた一人の男が目を覚ました。
男はしばらく混乱していたがイージス達は落ち着かせ、 話を聞いた。
「一体何があったんですか? 」
「……あの女がやったんだ……あの女が……」
女……魔物でも猛獣でもなく女の人がやったのか……だとすればどこかのチンピラ冒険者か……それか狂暴な種族の人間か……
イージスは男に問い詰めた。
「その人はどんな姿をしていた? 」
「……分からない……黒い影しか見えなかった……最後の記憶は女の声しか……」
「声だけじゃそいつがどんなやつだったのか分からねぇなぁ……女がやったっていうのも少し怪しいぜ? 」
イージスは考えた。
……さっき気になってこの人達を能力透視してみたが……どうもこの人達……実力は黒曜か銅等級レベルの人達ばかりだ……人数的にも五人いる……そんな人達を相手してここまで圧倒する人間……もしかしたら……
「……」
「ん? イージスさん? 」
「ん? あぁいや……ちょっとな……見たところこの人達、 相当の実力者ばかりでさ……」
「だとすればこの人数を相手するのは普通では無謀に近いですね……」
イージス達がそんな話をしていると男はイージスの冒険者等級の証を見て驚いた。
「ま、 まさかあんた……そのペンダントは……! ダイヤ等級! ? 」
「あぁ……はい……まぁ……」
あぁ……また面倒くさいやつだ……
すると男は立ち上がり、 興奮した様子でイージスの両肩を掴んだ。
「初めて見た! ダイヤ等級の冒険者に会えるなんて! 」
そうか……ダイヤ等級は世界に俺とラムを含めて七人しかいないからな……
「そうだ! あんたら、 俺達を砂漠の街まで連れていってくれないか? 」
えぇ……いや別にいいんだけどさ……行き先も一緒だし……でもまだ気絶して倒れてる人達を今運んで行くのはなぁ……ここで野宿しかないかぁ……
「……分かった、 でも今は移動するのは危険だ。 この人達が目を覚ますまではここで野宿するしかない」
「おう、 分かった! 」
そしてイージス達はそこで野宿することになった。
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その夜……
イージス達は焚き火を囲み、 鍋を作っていた。
「さぁ、 できましたよ。 特性スープです! 」
「おぉ……」
何気にラムの手料理を食べるの初めてだけど……ラムって料理できるのか?
そして全員に配られた木の皿に入っていたのは美味しそうな野菜スープだった。
すげぇうまそうだな……
「ささっ、 冷めない内にどうぞ! 」
ザヴァラムはニコニコしながらイージスに言った。
「……いただきます……」
全員がそのスープを飲んだ瞬間、 一同は驚いた顔をしながらスープを物凄い勢いで完食してしまった。
「ぷはぁ……美味しかったぁ……」
「家のスープよりうまかったぜ! 」
「驚いた……ラムって料理できたんだな……」
「嬢ちゃん最高だったぜ! 」
凄く美味しかった……意外過ぎる……ラムの普段のイメージから想像もできない位優しい味だった……失礼か……
「昔から母上に教わっていた料理を思い出しまして、 作ってみました」
「なるほど……」
そしてイージス達は食器を片付け、 しばらく話をした。
「なぁあんたら、 一体何のために旅をしてるんだ? 」
「え……うーん……」
偽りの神って言っても信じないよなぁ……どう言えばいいのか……
「……まぁ誰しも話せない何かがあるもんだ……無理に話さなくていいさ」
「そうしてもらえると助かる……」
男は空気を読んでそれ以上何も聞こうとしなかった。
すると男は自分の話をし出した。
「俺達、 砂漠の街で冒険者をしてるんだがな……あまり稼ぎが良くなくてなぁ……」
やっぱり……戦闘力的に冒険者はやっていると思っていたが……
その後、 詳しい話を聞くと男達は砂漠の街から運搬依頼で帰還する途中だったそう。 強さは上の下と言ったところ……
最近ようやく稼ぎのいい依頼が入り、 一同は気合いが入っていたそうだが今はこの有り様、 昔から運が悪かったそうだ。
「まっ、 生きてるだけでも良しとしてるがね……」
「……そうか……」
「死んでは守れないからな……家族も……仲間も……」
男は星空を見上げながら呟いた。
……父親なのか……この人……
「さぁ、 もう遅い……早く寝よう」
「……そうだな」
そしてイージス達は眠りに着いた。
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翌朝、 男の仲間達も丁度意識を取り戻し、 その場を移動することになった。
「しっかしどうする……荷車がこんな有り様じゃ……」
「馬もどっか行っちまったしなぁ……」
男達が頭を抱えているとイージスが前に出た。
「俺に任せてくれ」
……修復魔法……
イージスが荷車の残骸に向かって手をかざすと残骸はみるみる内に集まり、 元の姿に復元された。
(修復完了、 現在の荷車損壊率……0%)
『おぉ~……』
「すげぇなあんちゃん、 やっぱりダイヤ等級は格が違うな! 」
「でも馬がいませんよ? どうするんですか? 」
ミーナがそう言うとイージスは足元に魔方陣を展開した。
「馬がいないなら……」
すると魔方陣から光輝く馬が二頭現れた。
(報告、 聖馬を二体召喚されました。 )
この世界では珍しい神獣だ、 馬車を引かせればとてつもなく速いし揺れもしないらしいからな。
聖馬を見た男達は唖然とした。
「あ、 あんちゃん何者だよ……いくらダイヤ等級でも神獣を召喚できるなんて聞いたこともないぜ……」
「詮索は遠慮してほしい、 さっ、 早く行きましょう」
そしてイージス達は移動した。
道中、 他の仲間達はザヴァラム達と談笑している中イージスと男は話をした。
「あんちゃん……あんた、 相当強いね……」
「……どうしてそう思う? 」
「そりゃ分かるさぁ! あんちゃんのお仲間さん、 装備も見る限り俺達より格上の冒険者だろ? そんな人達のリーダーっつぅことはあんちゃんは一国の軍隊もしのぐ強さはあるね」
魔力も気配も隠蔽してるのに……流石はベテランだ……
すると男はイージスに一つ警告した。
「だが気を付けな、 あんたらの装備……国宝級の価値はある、 いや……それ以上か……俺達の住む街ではそんな高級品を狙う盗人が多いんでな、 周りには注意した方がいいぜ」
「そうか……あんた達は盗ろうとは思わないのか? 」
イージスの質問に男は笑った。
「ハッハッハッ! 冗談よしてくれ、 俺達全員で襲い掛かっても勝てねぇよ。 ダイヤ等級ってのはそういう化け物揃いなのさ」
そんな話をしているとイージス達はいつの間にか砂漠に入っていた。
数分後……
「……あっちぃ~……」
イージス達は汗だくになっていた。
暑い、 暑過ぎる……砂漠って何気に初めてだった……あぁ暑いぃ! !
「よくこんな暑い所を抜けたなぁ……」
「ハッハッハッ! なぁに、 慣れっちまえばどうってこたぁねぇよ! 」
すると荷車の中にいたミーナが突然倒れた。
「ど、 どうした! ? ミーナ! 」
熱中症か……ヤバイな……今は馬の操作で手を離せない……冷やす魔法とかあればいいのに……
(氷結魔法なら行使可能ですが。 )
いや……俺の氷結魔法はこの辺りを凍らせそうだから止めた方がいい……
するとイージスの隣に座っていた男は立ち上がり、 ミーナの様態を確認した。
「こりゃ熱中症だな……ちょっと待ってな」
男はそう言うと荷車の奥に置いてあるバッグの中を漁った。
「あったあった、 これこれ! 」
男が取り出したのは一枚の葉っぱだった。
「ん? 何だその葉っぱ? 」
「これはアイスリーフって言ってな。 氷みたいに冷たい葉っぱなんだ。 暑い所でもその冷たさは消えることがなくてな、 俺達の住む街では高く売れるんだ」
そう言いながら男はミーナの額にアイスリーフを貼り付けた。
高く売れるって……そんな貴重な物を……
「……いいのか? そんないいものを……」
イージスが心配そうに聞くと男は気さくに笑い
「いいんだいいんだ! あんちゃん達は俺達の命の恩人だからな! 」
男の仲間達も頷いていた。
……いい人だな……
「……ありがとう……」
「いいってことよ! それよりそこの嬢ちゃん、 顔色一つも変えないが暑さには強いのかい? 」
男はザヴァラムの方を見て言った。
そういえばラムは全然平気そうだな……まぁ覇神龍って言うくらいだし暑さなんてどうってことはないってことか……
するとザヴァラムは答えた。
「私には暑いも寒いも感じることは無い、 平凡な人間と一緒にされると困る」
「ヘヘッ、 こりゃ失敬」
そんなことをしている内に砂漠の向こうに街が見えてきた。
「おぉっ見えてきたぜあんちゃん! あれが俺達の住む街、 ティタルだ! 」
砂漠の街ティタル……ここにゼンヴァールの情報が少しでもあればいいんだけど……
そしてイージス達はティタルに向けて荷車を走らせた。
……………………
「……来ましたか……名無しの英雄様……」
ティタルの街で何者かがイージス達が来たのを感じ取っていた。
続く……




