第41話【もう一人の英雄】
前回からの続き
「『もし誰かがこの手紙を読んでいるなら伝えて欲しい、 私の次に現れるかの剣を持つ英雄に……この世界には魔王以外に強大な悪が存在する。 天使の住む国、 天界にそれはいる……その名はゼンヴァール、 元々人だった者が闇に堕ち、 世界を滅ぼす存在となった偽りの神だ……奴は初めに勇者を弱くした。 勇者は力を奪われ、 第12代目で魔王の戦いに初めて敗れた。 魔王に敗れた勇者は滅び、 剣も行方が途絶えた……それ以来勇者は生まれ続けたが同じ魔王に何度も敗れる始末……奴の狙いは恐らく世界の破壊……まずは世界を守る存在である勇者を始末し、 魔王に世界を支配させた後全てを破壊し尽くすつもりだ……このままでは全て奴の思い通りになってしまう……だが、 この世界を創った女神は見ていた。 そして私、 もう一人の英雄をこの世界に呼び出した。 しかし、 私でもゼンヴァールに勝つことはできないだろう……かの剣を手にした時、 私は世界と自身の未来を見た……だが……まだ希望はある……私が死んだ後、 かの剣を受け継ぐ英雄が再び現れる……その英雄の為に今ここにできる限りの役立つ情報を書き残すとする………………』」
その下には手紙の持ち主が扱っていたであろう魔法術式の情報が羅列されていた。
それはどれもイージスが知らなかった知識ばかりであり、 その中には今までの魔法の威力を格段に引き上げる事ができるような情報まで書かれていた。
一通りそれらを見たイージスは一呼吸置いて最後の文を読んだ。
「『どうか……私が愛したこの世界に……平和を……』」
女神様は……もう一人呼んでいた……? この人も日本人だったのか……
それに……かの剣……って……まさか俺の……
そう思いながらイージスは黙って手紙を封筒に戻そうとしたその時、 イージスは手紙の裏に小さく文字が書いてあるのに気が付いた。
「ん? 何か書いてある……」
それを見たイージスは衝撃が走った。
「嘘だろ……御門屋……鏡花……って……」
「イージスさん? どうしたんですか? 」
「……母さんの名前だ……! 」
手紙の持ち主はイージス(御門屋 龍人)の母親、 御門屋 鏡花だったのだ。
まさか……母さんもこの世界に来ていたってことかよ……
「イージス様の母上が……」
「まさか伝説に残る英雄だったなんて……」
イージスは困惑した。 元の世界では母親は幼い時に病で死んでしまい、 もう何年も会っていなかったからだ。
母さん……英雄が母さんだったなんて……
「……母さん……」
「イージスさん……」
イージス達が沈黙しているとカルミスが話し始めた。
「……これで全てが繋がった……貴方とダイヤ様が似ていた理由……」
「えっ! ? 母さんと会ったことがあるのか! ? 」
イージス達は驚愕した。 カルミスはイージスの母親の知り合いだったのだ。
カルミスは静かに頷き、 話を続けた。
「……私はダイヤ様のかつての仲間……カルミス・モロクノーム・メルフェローラ……ダイヤ様とは300年前に会った……私はダイヤ様に救われ、 共に旅をすることにした……その時、 私は世界の真実を知った……」
300年前って……一体いくつなんだよ……まぁそれよりも……
「……それってどんな……? 」
「覇神の伝説……見てたでしょ……? ……偽りの神が存在する……そいつがこの世界にとって最も邪悪な存在……ダイヤ様は奴を止めようとした……」
ゼンヴァールと母さんが……戦ったのか……だとしたらあの本に書いてあった英雄は母さんの事になるはず……でもこの手紙は……
「……でも……ダイヤ様は選ばれなかった……」
「誰に……? 」
「……覇神……」
覇神……何なんだ……一体……覇神の伝説も謎の英雄の伝説も……カルミスさんは一体何を知ってるんだ……
「覇神は神話には存在しない……この世の全てにとって絶対なる存在……かつては覇神によってこの世の様々な世界の均衡は保たれていた……でも……覇神はある時突然姿を消した……その行方も……生きているのか死んでいるのかも……何もかも情報が途絶えた……だけど……覇神は選ばれし者に剣を授けた……それだけは伝承されていた……」
なるほど……情報が少ないのはそのせいか……もしかするとその覇神がいなくなったせいでゼンヴァールが生まれたのか?
いや……それは無いか……もしそうだとしたら色んな世界が滅んでいる……そしたら宇宙が崩壊する……現に何も起こっていないということはゼンヴァールが生まれたのは偶然と言うわけか……
イージスが色々考えている中でカルミスは話を続ける。
「そして覇神が授けた剣はそこにある……」
「それって……」
そう言うとカルミスはイージスの背中の剣を指さした。
「! ……まさか……」
この剣が……!
「……ダイヤ様もその剣を持っていた……でもゼンヴァールとの戦い以降……忽然と私達の前から姿を消した……」
女神様が持っていたんだ……再び力を授かる資格がある者が現れるまで……でも……どうして覇神はこの剣を……ゼンヴァールが生まれたのがこの世界にとって偶然だとしたら……この剣が作られた理由がわからない……
様々な疑問が彼の中に渦巻く。
「……イージス……だっけ……」
「あ、 あぁ」
するとカルミスはイージスの胸元に歩み寄り、 手をイージスの胸に当てた。
「……お願い……奴を止めて……ダイヤ様の無念を……晴らして……」
「……言われずとも……絶対に救ってみせる……」
母さんが救おうとしたこの世界……俺が救ってやる!
分からない事はまだある、 しかし今の彼にはそれ以上に為さねばならない目的が生まれた。
そしてイージス達は部屋から出て図書館を後にすることにした。
図書館を出る時、 カルミスが見送りに来た。
「色々と教えてくれてありがとう、 カルミスさん」
「大丈夫……これが私の使命だったから……貴方ならその剣の……真の力を引き出せるって信じてる……」
「……あぁ……」
……そういえばカルミスさん……300年も前に母さんと会ったって言ってたけど……時間的にはこっちの世界の方が俺の住んでいた世界よりも進むのが速いっていうことはもう分かってるけど……結局カルミスさんって何歳なんだ……?
「……千は優に超えてるよ……」
「あ……心読める人なんだ……何か……ごめんなさい……」
「いいよ……私には感情が無いから……悪魔の契約で私は力と引き換えに感情を失ってしまったの……」
うわぁ……めっちゃ悲しい過去……
「……本当に……ごめん……」
「気にしないで……知らなかったんだから……世界を救ってくれるなら……それでいい……」
「わかった……絶対に救ってみせるよ……」
そしてイージス達はカルミスと別れ、 図書館を後にした。
……………………
その頃、 魔王の城にて……
「……知ったか……イージスよ……」
魔王は玉座の間で一人寂しく窓の外を眺めている。
あの獣人族の娘は姿を現さなかった。
「……あとは勇者次第……というところか……」
魔王はそう呟くと玉座に座り、 そのまま眠りに着いた。
……………………
「さぁて、 それじゃあこれからギルドに行くか! 」
「えっ、 いいんですか? ゼンヴァールを倒しに行くんじゃ……」
「今はまだゼンヴァールの情報が少ない……まずは世界中を旅してゼンヴァールの情報を集めないと。 それに……」
イージスはカルミスから譲り受けた母親の手紙を手に取り、 見つめた。
「……もう……負けられないからな……」
イージスがそう呟くとザヴァラム達は微笑み、 静かに頷いた。
「……よし、 行くぞ! いざ世界の果てまで! 」
『おーー! ! ! 』
そして母さんが求めた世界の平和を……母さんがなれなかった英雄に……俺がなってみせる……!
続く……




