第40話【伝えられる伝説達】
ザヴァラムの故郷を後にしたイージス達はアルメナルダに戻っていた。
「うーん……」
街を歩きながらイージスはあることを考えていた。
「どうかしたんですか? イージスさん」
「いやぁ……考えてみれば俺ってこの世界の歴史についてとか殆ど知らないんだよねぇ……」
前会った覇神龍も俺だけ知らなかったし……今後周りの人に変だと思われたくないしなぁ……メゾロクスの書斎にあるのは魔法書とか魔物の図鑑とかそういうのばかりだし……何か情報を手に入れられる場所とかあればいいんだけど……それと……ゼンヴァールについて調べてみないとな……
するとミーナが思い出したように言った。
「そういえばこの街にはこの世界の事なら何でも知ることができる大図書館があるって聞いたことがありますよ」
「えっ、 マジで! 行こう行こう! 」
そしてイージス達はアルメナルダの大図書館へ向かった。
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「うぉー……でっけぇ……」
そこには巨大な白い建物があった。
大図書館って言われるだけあるなぁ……中はどうなってるんだ?
するとミーナはイージスの手を引っ張り
「早く入りましょう! 」
イージスを急かした。
あぁ……ミーナってこういうの好きそうだもんな……
そして中へ入るとイージス達はその景色に圧倒された。
立ち並ぶ無数の巨大な本棚が城と変わらない程広い部屋に敷き詰められていた。
部屋の天井中央に宇宙を象ったような巨大な物体が浮いている。
「一つの村がすっぽり入るとぞこれ……」
「凄い……」
「こんな沢山の本見たこと無いぜ……」
イージス達がそんなことを呟いているとミーナが
「皆さん早く! もう待ちきれません! ! 」
そう言うとミーナはどこかへ走って行ってしまった。
すげぇ興奮してるな……まぁ後で会えばいいか……
「ま、 まぁとりあえず歴史の本とか探そう」
そしてイージス達は手分けして本を探した。
数分後……
「とりあえず歴史っぽい本を粗方探してみたが……見つからねぇな……」
イージスが目的の本を見つけられずに困っていると本棚の陰から一人の少女が現れた。
「どの本……探してるの……」
「えっ……? 君は……」
その少女は全身白い服で纏い、 頭には黄金の装飾品を着けている。
不思議な目と髪……琥珀みたいに綺麗に透き通ってる……
イージスが不思議そうに少女を見つめていると少女は話し出した。
「私はカルミス……この図書館の管理者よ……」
「あぁ、 管理人さんだったのか……丁度良かった、 この世界にまつわる歴史の本を探してるんだけど……」
するとカルミスは黙ってイージスを案内し始めた。
……何だろう……まるで人形みたいな子だな……
そんなことを考えながらイージスはカルミスについていくとある本棚の前に着いた。
「ここに貴方の探すものがある……」
そう言うとカルミスはイージスの目をじっと見つめてきた。
な、 何だ……? めっちゃこっち見てる……なに考えてるか分からない……
しばらくするとカルミスが口を開いた。
「貴方……この世界の人間じゃない……」
「えっ……! どうして……」
カルミスはイージスが転生者だと気付いたのだ。
「何となく……雰囲気が私達と違うから……」
するとカルミスは本棚から一冊の本を取り出した。 その本は辞書より分厚く、 縦30センチ程の巨大な本だ。
表紙には何も書かれてない……何だろうこの本……
カルミスはイージスに本を渡すと
「世界の伝説が載ってる本……今の貴方にピッタリだと思うよ……それじゃ……私は本棚の整理があるから……」
そう言い残し立ち去った。
「あっ……行っちゃった……」
イージスは本を見つめながら、 側にあった机の席に座った。
一ページ目をめくるとそこには『伝えられし伝説達』と書かれていた。
イージスは黙って本を読み始めた。
……………………
数十分後……
色んな伝説があるんだな……
イージスが世界の様々な伝説を読んでいるとある項目に目が留まった。
「……覇神の伝承……? 」
覇神って……あの覇神龍がチラッと言ってたな……覇神って何だ?
イージスはページをめくった……そこにはいくつかの短い文と大きな絵が描かれていた。
『覇なる神……資格ありし黒龍に伝承す……』
資格ありし黒龍って覇神龍のことか……
絵にはひざまづくヴォルディルと謎の人影が描かれている。
この影が覇神……どんな人だったんだ……?
そんなことを考えながらイージスは次のページをめくった。 そこには……
『偽りの神、 天より地を滅ぼす……世界の盾なる英雄、 覇なる神魂を呼び起こさん……』
何だこれ……天使みたいな人物が空から降りてきて……地上が焼けている……この天使みたいなやつがヴォルディルが言っていたゼンヴァールという存在だというのは何となく分かるが……
イージスはそのページの絵に何故か引き付けられた。 天使のような人影が空から降りてきている絵図の下には燃え盛る街らしき絵が描かれている。
「……ん? 」
イージスは火の海の中に人影が描かれているのを見つけた。
……この影……何だか俺と似てる気が……いや気のせいか……でも盾なる英雄って言ったら……
不思議な人影を見つめながら考えているとミーナが話し掛けてきた。
「何を見てるんですか? 」
「おぅ、 ミーナか……この絵がちょっと気になってね」
するとミーナは本の絵を見た。
「……これって名も無き覇神の伝説じゃないですか。 この世界じゃ有名ですよ? 」
「えっ、 そうなのか? 」
「はい、 もしかして知らなかったんですか? 」
何せ15年も戦っていてまともに他の情報が耳に入らなかったしなぁ……
「知らなかった……」
「まぁイージスさんは元はこの世界の人じゃないみたいですからね」
「えっ……知ってたのか? 」
あ……覇神龍の時に言われてたからか……まぁ何となくは察するか……
するとミーナは再び絵に目をやった。
「……盾なる英雄……かぁ……どんな人なんでしょうか……? 」
「まぁ勇者とかそこら辺の人とかじゃないか? 」
この世界じゃイージスは盾の意味を持つことを知ってる人はいないからな……正直俺だとはあまり思いたくないし……
「うーん……まぁ、 深く考えても仕方ないですね……それよりイージスさん! 」
ミーナは手元にあった本をイージスに見せた。
その本には勇者の伝承と書かれていた。
勇者の本か……何かゲームとかで良くありそうなやつだな……
そう思いつつイージスとミーナは本を開いた。
「何々……数ある伝説の勇者の記憶をここに記す」
「一代目の勇者……シーラ……」
イージスとミーナは本を読み進めた。
勇者って沢山いるんだな……何十代も続いてる……
そして最後のページをめくった。 しかしそこには何も書かれておらず、 ただ勇者の名前だけが書かれていた。
「……バアル……」
バアルまで載ってるのかよ……でも何も書かれていないのは何故だ?
「それはまだ終わってないからよ……」
イージス達の背後からカルミスが話し掛けてきた。
「うぉ! びっくりしたぁ! 」
俺の気配感知に引っ掛からなかった! この人実は凄い人なんじゃ……
カルミスは話を続けた。
「その本は今まで世界を救った勇者達の冒険記録が刻まれている……」
冒険の書的な感じか……じゃあバアルはまだ冒険が終わっていないから何も書かれていないのか……
するとカルミスは本を手に取り、 最後のページをめくった。 そこには謎の剣の絵が描かれていた。
「……これは……まだ見つかってない……先代の勇者から行方が途絶えた……」
「行方が途絶えたって……これって伝説の剣とかだよな! ? ヤバいんじゃないか? 」
カルミスは首を横に振った。
「この剣は勇者を引き寄せる……放っておいても自と見つかる……」
「そ、 そうなのか……」
そうだよな……見つかってないとか普通どっかの国も慌てるよな……じゃあ本当ならバアルがこの剣を手にして魔王を倒すのか……その四天王を俺が倒してるけどいいのかな……
そんなことを考えいるとカルミスはある話をし始めた。
「そういえば……これとは別の英雄伝説がある……貴方に見て欲しいものがある……」
「別の英雄伝説? 」
あの盾なる英雄のことか?
するとカルミスはイージス達を連れて場所を移動した。
着いた先には本棚の壁があるだけだった。
「おっ、 イージスさんとミーナじゃん。 どうしたんだ? 」
「イージス様、 その者は? 」
着いた先で丁度ザヴァラムとヒューゴに合流した。 イージスは事情を説明し、 全員でカルミスについていくことにした。
「……Ъяюшд……」
カルミスは本棚に向かって謎の言語を呟き、 手をかざした。
すると本棚は二つに割れ、 奥から階段が現れた。
カルミスは黙ったままイージス達についてくるよう促し、 地下へ降りていった。
こんな所に地下があるなんて……何か重要な書物があるのか?
しばらく階段を降りていくと……
「……ここ……」
「ここは……」
辺りは草木が生い茂り、 置いてある何もかも古びた狭い部屋に出た。 その部屋の中央に一通の手紙が神々しく立て掛けられていた。
カルミスはその本を手に取るとイージスに渡してきた。
「……読んで……」
「えっ……」
読んでって言われても……絶対謎の文字とか書かれてて読めないパターンのやつじゃん……
イージスはそう思いつつ封筒を開けた。
すると手紙には何とイージスが元住んでいた世界の言語、 日本語が書いてあったのだ。
「これって……! 」
「その文字は私でも解読ができなかった……今まで何にんもの学者も解読しようと頑張ったけど……一文字も読めなかった……」
そうか、 この世界の言語は俺の住んでいた世界とは起源が全く異なるから……
「でもそれはもう一人の英雄が書いたのは確か……それで貴方なら読めると思った……読めなければそれでいい……」
「いや……読めるよ」
そう言うとイージスは手紙を読み始めた。
続く……




