第39話【帰る場所】(後編)
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「……」
少女は高台の崖の上で村を眺めていた。
「ザヴァラム……」
その少女を呼ぶ声がした。
「……」
「ザヴァラム……」
少女はその声に気付き、 振り向いた。
「あっ、 父上! 」
「ここにいたのか、 探したよ」
少女は父親に駆け寄り、 抱きついた。
「父上~♪」
父親は少女の頭を優しく撫でながら崖の向こうを見た。 そこには賑やかな村があった。
かつての覇龍の里である。
そしてその村長は少女のザヴァラムの父、 ヘリュウスである。
「お前もこの景色が好きか? 」
「うん! 大好き! 」
(これは……私……? あれが父上なのか……? )
無意識の中、 ザヴァラムはかつての記憶を見ていた。
すると場面が変わった、 父親と庭で遊ぶザヴァラムの姿があった。
「あはははっ、 父上~こっちこっち♪」
「はははっ! 」
(とても楽しそう……そうだ……父上はいつも遊んでくれていた……楽しかった……)
そしてまた次の場面に変わった、 里の皆がどこかの洞窟に集まっていた。 その集団の先頭には父親とザヴァラム、 そして母親らしき人物がいた。
三人の目の前にはヴォルディルがいた。
「では……この子が……」
『間違いあるまい……』
「あぁ……何てこと……」
両親は深刻そうな顔をしていた。
(父上、 母上……何があった……私が一体……何だと言うんだ……)
また次の場面へ変わった。
いつも通り遊ぶザヴァラムの姿、 それを見ている両親。 二人は寄り添い、 とても悲しそうな顔をしていた。
「ん? 父上、 母上、 どうして泣いてるの? 」
「あぁ……ザヴァラム……」
両親はザヴァラムを抱き締めた。
(温かい……この温もり…………! ! そうだ……思い出した……私は次の覇神龍を継ぐ者として生まれた覇王龍だと伝えられたんだ……戦いを免れぬ使命を背負った私に両親は嘆き、 悲しんだんだ……)
すると場面が変わり、 ザヴァラムの見た夢の景色に変わった。
辺りは火の海、 里の皆が逃げ惑う。 上空にはヴォルディルと翼の生えた人形の影が見えた。
逃げ遅れてしまった父親と母親、 母親は家に入ろうとする黒い影達を押さえ込もうとしている。 父親はザヴァラムを家のたった一つの狭い脱出口に逃がそうとしていた。
「さぁ、 行くんだ……ザヴァラム……」
「嫌だ! 父上も一緒に行こう! 」
「……すまない……それはできない……お前を守れないからな……」
しがみつくザヴァラムの手を引き離そうとする父親にザヴァラムは必死に叫んだ。
「父上! 父上! ! 」
(そうだ……私は……この時に記憶を消されて……父上は私を悲しませないように……)
脱出口に押し込む寸前、 ザヴァラムの父は言った。
「……生きろ……! 」
そして辺りは真っ暗になった。
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『これがお前の封印されし記憶……』
「父上……母上……」
ラムには何が見えたんだ……?
イージス達はザヴァラムに何があったのかは把握できていない。
するとザヴァラムは突然泣き崩れた。
「うぁぁぁぁぁ! ! 父上ぇ……母上ぇ……! 」
ヴォルディルは構わずザヴァラムに質問をした。
『ザヴァラムよ……今だからこそ其方に問おう……其方に課せられた使命、 それは我が力を受け継ぎ、 彼の悪しき者を討ち果たすこと……我が成し得なかったその使命……其方が受け継ぐか? 』
しばらくしてザヴァラムは泣き止み、 立ち上がった。
そして……
「……父上と母上、 そして里の皆の為にも……その悪を討ち果たす! 」
『では……答えは……』
「覇神龍様、 貴方の力を受け継ぎます……! 」
ザヴァラムがそう言うとヴォルディルの体は輝き出した。
『其方の決意、 真なるものと見た……受け取るが良い……我が主、 覇神様の力を……そして討ち果たすのだ……かの世界の敵……ゼンヴァールを……』
それを最後にヴォルディルは光の玉となり、 ザヴァラムの胸の中へと入っていった。
(報告、 ザヴァラム様の個体名が覇王龍から覇神龍へ進化しました。 )
どれどれ……
イージスはザヴァラムの能力値を透視した。
ほぉ……物凄くステータスか上がってる……今までのラムとは桁違いになってる……覇神龍ってすげぇな……
すると今まで真っ暗だった空間が元の荒地へと戻った。
「……もしかすると……覇神龍様は私をここに呼ぶためにあの夢を見せたのかもしれませんね……」
そう言うとザヴァラムは石碑の前で祈った。
「父上……母上……私は今やっと……戻って参りました……」
「……」
「……」
「……」
祈りを済ませるとザヴァラムはイージスの元に来てひざまづいた。
「この世界の悪を討ち果たす為、 このザヴァラム……命を掛けてイージス様をお守り致しますことをここに誓います! 」
「……あぁ、 これからもよろしくな……ラム」
そしてザヴァラムは立ち上がり、 龍の姿に変わった。
『さぁ、 行きましょう! 』
「おう! 」
「俺達の冒険もまだまだこれからだな」
「ち、 ちょっと怖いですが……私はイージスさんにどこまでも着いていきます! 」
イージス達はザヴァラムの背中に乗り、 荒地を後にした。
(……いつか、 彼の悪を討ち果たす時……再びここへ……)
そう心の中で誓うザヴァラムであった。
……それよりも……ゼンヴァールって一体……?
続く……




