第39話【帰る場所】(前編)
セレン・ディルスの襲撃を解決し、 宴が終わった夜……自室のベッドで寝ていたザヴァラムは夢を見た……
……………………
『キャァアァァァアアァァ! ! ! 』
何が……起きてる……
目の前に燃え盛る火の海が広がっている。
「娘よ……逃げろ……! 」
熱い……皆……燃えている……助けて……イージス……様……
言葉に出せない程の恐怖がザヴァラムを襲う……
「…………! 」
何者かがザヴァラムに話し掛けている……しかし聞き取れない。
誰……だ……
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『…………生きろ……』
……………………
「はっ……! 」
目が覚めたザヴァラムは飛び起きた。 全身に大量の汗をかいていた。
「ハァ……ハァ……今のは……一体……」
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翌日……
「ただいま、 イージスさん! 」
「今帰ったぜ! イージスさん! 」
ミーナとヒューゴが帰省から戻ってきた。
「おっ! お帰り! どうだった、 帰省は? 」
イージスはミーナとヒューゴの話で盛り上がっていた。
「そういえばイージスさんは帰省とかしないんですか? 」
「えっ……」
……帰省……か……俺にはもう帰る場所も無いな……前の世界で実家に帰ったところで……両親はもう……いないしな……
ミーナの質問にイージスは言葉を詰まらせた。
「……」
「あっ……ご、 ごめんなさい……私、 聞いちゃいけないことを聞いてしまいました……? 」
「いや、 いいんだ……」
やべぇ……気まずい雰囲気になっちまったぁ……!
「……なぁ! せっかく集まったし、 また冒険しないか? 」
空気を読んだヒューゴは気分転換させようと冒険に誘った。
「そうだな! よし、 ラム! 」
「承知致しました」
数分後……
イージス達はアルメナルダのギルドにやってきた。
「……」
「……」
「……」
「……」
……今一つ面白そうなクエストが無い……どうするか……受付とかに聞いて何か面白そうな依頼とかが無いかな?
そしてイージスは受付に向かおうとしたとき、 ザヴァラムがイージスを引き止めた。
「あの……イージス様……私、 一つだけ行きたい所があるのですが……よろしいでしょうか? 」
「ん? あぁ、 別に構わないけど」
ラムからお願いするなんて珍しいな……何かあったのか?
そう思いつつもイージス達はザヴァラムに乗せてもらい、 場所を移動した。
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目的地に着いた時には既に夕方になりかけていた。
こんな遠い所まで……ラムはどこに向かってるんだ?
「着きました、 ここです……」
「ここって……」
少し高い丘を越えた先に見えたのは……
「……何だ……ここ……」
「辺り一面が焼け野原……」
黒く焼け焦げた大地だった。 所々に小さく燃える炎が見える。
凄く邪悪な気を感じる……ガインとは違うがそれに匹敵する力だ……いや、 それ以上か……
イージス達がしばらく焼け野原を眺めているとザヴァラムが話し始めた。
「ここは私が生まれ育った地……覇龍の里だった場所です……」
「えっ……! 」
覇龍の里……あそこは元の場所じゃなかったのか……
ザヴァラムは話を続けた。
「今から何千年も前の話です……私達覇龍族はこの地で静かに暮らしていました……そこは自然が豊かで、 平和でした……でも……その幸せは……長くは続きませんでした……」
ザヴァラムは拳を少し強く握った。
「奴らが……私達の前に現れたのです……」
「奴ら……? 」
「ある日……突然里が火の海に呑まれたのです……あれは事故なんかじゃなかった……絶対何者かが私達を襲撃し、 滅ぼそうとした……しかし誰もその襲撃者の姿は見ていなかった……なので私は奴らと呼んでいるんです」
姿を誰も見ていないのか……目撃者は全員殺されたってところか……にしてもそんな強い覇龍族の人達があっさり殺られるなんて……
「私……昨晩、 夢を見たんです……この里が燃えた日の記憶でした……そして誰かが私に呼び掛けていました。 誰なのかは分かりませんでしたが……その者の声を聞くと何故だかとても懐かしい気分になるんです……」
そう言うとザヴァラムは里の方へと降りて行った。 その後をイージス達はついていった。
「その人はラムに何か言ってたのか? 」
「……生きろ……ただそれだけが聞こえました……」
それ絶対両親でしょ……
そしてしばらくイージス達は焼け野原を歩いてるとザヴァラムがある場所で足を止めた。
「……ここが……私が住んでいた家があった場所です……」
そこには焼けた土地が広がっているだけだった。
土地の真ん中には石碑らしきものが立っていた。
ザヴァラムは石碑の前に来るとその場でしゃがんだ。
「思い出せないんです……ここにいた私の両親の事を……家族との思い出を……」
覚えてないやつかぁ……でもここまで覚えてないのも不自然だな……誰かに記憶を消されたのか?
(はい、 ザヴァラム様は一部記憶を改ざんされた形跡があります。 )
仕事が早いなジースさんは……まぁとにかく、 ラムの昔の記憶は消されていると……でも何のために……
イージスがそんなことを考えているとザヴァラムの様子がおかしいのに気が付いた。
「……何故でしょう……いつもここに来ると……」
ザヴァラムの目から涙が溢れていたのだ。
「ラム……」
本当の……帰る場所を失った悲しみが……無意識に彼女の胸を締め付けているんだ……
イージスはザヴァラムの肩に手を置いた。
「……まだここにいるか? 」
「……いいえ、 大丈夫です……お付き合いありがとうございました……」
イージス達がその場から離れようとした瞬間、 どこからか声が聞こえた。
『現れよったか……覇王龍よ……』
「! ? 誰だ! 」
ザヴァラムが叫んだ瞬間、 イージス達の周りの空間が突然真っ暗になった。
すると目の前に赤い光が二つ見えた。
『忘れたか……まぁそれもそうか……お前は記憶を消されていたのだからな……』
まさか、 ラムの記憶を消した張本人か……? 急に現れるなんて……
ザヴァラムは声を荒げて言った。
「記憶を消しただと! 貴様、 何を知っている! ! まさか里を襲撃したのは……」
『……否……いや……それが正しいかもしれんな……』
謎の声がそう言うと今までただの赤い光だと思っていたものは全貌を露にした。
吸い込まれそうな黒い鱗、 おびただしい数の傷が入った翼、 宝石のように煌めき、 太陽の如く力強さを感じさせる赤い瞳……
その姿は明らかにザヴァラムよりも大きい龍だった。
この気迫……ラムより絶対強いぞ……!
『……久しいなぁ……その瞳……あの頃と変わっておらぬ……』
「……何者なんだ……貴様は……」
それに対して龍は少し間をおいて答えた。
『……我が名は覇神龍、 ヴォルディル……かつてこの地を守っていた守り神……』
それを聞いたイージス以外の一同は驚愕した。
「覇神……龍……って……あの神話上にしか存在しないと思われていた……あの……! 」
「本当にいたなんて……」
「すげぇ……」
えっ……有名なのか?
戸惑うイージスの様子を見たヴォルディルはイージスに話し掛けた。
『其方……この世界の者ではないのか……』
「えっ、 はい……まぁ……」
敵意は感じられないな……悪いやつでは無さそうだな……
ヴォルディルは話を続けた。
『異世界の者を見たのは何年ぶりだろうか……しかし前の者は記憶を失っていたが……其方は違うようだ……』
俺の他にも転生者がいたのか……でも記憶は無いのか……もう少し詳しく聞きたいがそれよりも……
「それより……あなたはラムの何を知っているんだ? 」
『……それを知りたいのなら本人の意志が無ければ話せん……忘れさせた記憶を蘇らせるということはそれなりの覚悟が必要だ……』
そう言いながらヴォルディルはザヴァラムの方を見た。
ザヴァラムはひどく悩んだ……過去に自分に何があったのか……それをずっと知りたかった、 しかし知るのも怖かった……知ることによって自分に何をもたらすのか……それは深い悲しみか、 それとも強い怒りか……どっちにしろザヴァラムにとっては過去を知るというのは良いことなのか悪いことなのかも分からず複雑な気持ちだったのだ。
しかしザヴァラムはいつかは過去を知らなければならない時が来るのだと思っていた。 だからザヴァラムは決めた。
「……教えて……私の過去に何があったのかを! 」
『……そうか……覚悟を決めたのだな……』
そう言うとヴォルディルはザヴァラムの額に爪を当てた。
『思い出せ、 其方の家族を……其方の大切だったものを……』
ザヴァラムの過去が今、 紐解かれる。
続く……




