第37話【警告】
死の糸が壊滅してからしばらく、 メゾロクス王都にて……
「はぁ……また暇だぁーーー! ! ! 」
「どうかなさいましたか! ? イージス様! ! 」
イージスが頭を抱えながら叫ぶとザヴァラムがイージスの前に現れた。
「いや……そんなに重大な事件じゃないんだけど……一つ問題が……」
「何か私達の仕事に問題が! ? 」
「いやいやそうじゃなくて……」
相変わらずだな……多分他の守護者達に同じこと言ってもラムと一緒のセリフを言いそう……まぁそれより……
「いやぁ……何て言うか……最近この国で俺……やることが無さ過ぎじゃね? 」
「……と言いますと……? 」
「いやね……君達守護者の仕事ぶりには本当に感謝してるんだよ……でもさ……あまりに優秀過ぎて俺のやることが減ってるって言うか……」
冒険者生活をしようにも最近これと言って面白そうな情報も入ってこないし……ミーナとヒューゴは二人揃って実家に帰っちゃったし……
イージスは異世界に来て初めてとてつもない暇を感じていたのだ。
イージスがそんなことを考えながら頭を抱えているとザヴァラムが口を開いた。
「……ではイージス様、 この国におけるイージス様のイメージを考えてみては? 」
「イメージ? 」
「そうですね……例えば王らしい威厳を出すとか……」
なるほど……威厳ねぇ……確かにラムの意見に一理あるかもな……守護者達とは友達のように接したいって言ったけども、 それじゃこの国の王としてのイメージとかがあまりにもレベルが低すぎる気がするな……国民だって増えてきてるんだ……
「よし、 この際俺の覇王らしさを出してみようじゃないか! ありがとうラム、 また後で! 」
「お役に立てたようで光栄です! 」
まぁちょっとした暇潰しついでにやってみよう……
そしてイージスは自室に入った。
よし、 早速だけど……覇王らしさってどんな感じだろうか……やっぱり……
「我の前にひれ伏すが良い……とか……我が名を知りたいのならこの剣に斬られてからにしろ……この身の程知らずが! ……とか? 」
するとジースが意見した。
(主様の思うままで良いかと思われますが……)
思うままかぁ……でも元からこんなの柄でも無いしなぁ……やったことも無いし……いややったことあったら逆にヤバいやつだけども……
そんなことをしながら数十分後……
「……よし、 こんなもんでいいか……」
そしてイージスは自室から出てゆき、 玉座の間に向かった。
やっぱり覇王って言ったら……
玉座の前に立つとイージスはコートをはためかせながら振り向き、 座った。 そして脚を組み、 肘掛けに右肘を掛け、 頬杖を着いた。
「こーんな感じの座り方だよな……? 」
そして……
「……」
そして…………
「……やべぇ……どうしよう……! 」
守護者達を呼ぼうにも今仕事中だし、 こんな遊びに付き合ってもらうのにも悪い……はぁ……挑戦者とか来てくれないかなぁ……って、 ゲームじゃあるまいし……
そんなことを考えながらしばらくするとイージスの前にロフィヌスが現れた。
「イージス様、 大変でございます! 」
「何だ! ? 」
おっ? フラグ回収か?
「一頭の超位竜がこの城に向かってきております! 」
超位竜が一頭か……丁度いい!
「そいつは今どこに! 」
イージスは玉座から立ち上がり、 城の外に出た。 すると城壁の外から白いドラゴンが飛んでくるのが見えた。
あれか……属性的には……雷とか氷……もしくは光にも見える……よし……
(スキル、 能力透視が発動します。 )
……雷と氷ねぇ……ベタだ……
「よし、 ロフィヌスは守護者達に知らせて街の護衛に回れ! 俺は……」
イージスは飛んでくるドラゴンを見た。
「あの愚か者を灰へと帰してやる……」
「は……はっ! 」
そしてロフィヌスが姿を消してしばらくしてドラゴンがイージスの前に降り立った。
『貴様がイージスか? 』
ドラゴンって相変わらずの態度だな……皆こうなのか? まぁとりあえずここは覇王らしく……
「そうだ……それで? 我が城に攻め込むとは貴様……灰へと帰る覚悟はあるのだろうな……? 」
(スキル、 超威圧が発動します。 )
イージスが威圧をするとドラゴンは少し怖じ気付くが続けて話した。
『わ、 我が名はケヴェル……今ここで─』
ケヴェルが何かを言いかけたがイージスが口を挟んだ。
「小物ごときが我に名乗るな……灰も残さず消し去ってやろうか……! 」
そう言うとイージスは背中の剣を抜き、 もう片方の手に赤黒い炎を出し、 威圧した。 すると……
『ヒッ! ご、 ごめんなひゃい! 許して! 』
あ、 あれ? そこは怒り狂って襲い掛かるところじゃないの? まぁ何か面白そうだしもう少し……
この時、 イージスは異世界に来て初めてゲスい事を考えた。
「許せ? ……そんな言葉で我に許しを貰えるとでも思っているのか……! 」
イージスは更に威圧を掛けた。 するとケヴェルの体が突然輝きだし、 少女の姿になった。 そして……
「申し訳ありません! ! 別にそんなつもりじゃ無かったんですぅぅぅ! ! ! 」
泣き叫びながら深々と土下座してきた。
えぇ女の子ぉぉぉぉ! ! ! ? あれ……これ……結構ヤバくね……? いい年した男がこんなか弱そうな女の子を泣かせてるって……ヤバくねぇ! ?
「あぁいや! ごめん、 ちょっと覇王らしさを出したくって……」
イージスが話そうにもケヴェルは泣き叫んだまま土下座している。
あぁーーーー! ! ! 誰かぁーーーー! ! ! 助けてくれぇーーーーー! ! ! ! !
十分後……
「うぅ……ぐすん……まさかこんなに怖い方だったなんて……里で見た時はあんなに優しそうだったのに……」
イージスは守護者達と共にケヴェルを玉座の間に連れて話を聞こうとした。
「ごめん、 あれはちょっと雰囲気を出そうとしてて……いつもはあんなんじゃないんだ……」
頭を掻きながらイージスがそう言うとザヴァラムも
「その通りです。 元はと言えば私があんな提案をしたせいで誤解を……イージス様、 申し訳ありません……」
「いやいやラムは悪くないって! 俺が調子に乗り過ぎたせいだから……」
こんなことやるんじゃなかった……っと、 本題を忘れていた。
気を取り直してイージスはケヴェルの話を聞くことにした。
「実は……イージス様、 今ここで貴方様に警告しなければいけない事があるんです」
警告……? 凄く嫌な予感がする……
ケヴェルは話を続けた。
「現在……このメゾロクスに謎の巨大な魔物が接近しているのです……」
「巨大な魔物? 巨人とか? 」
イージスがそう言うとケヴェルは静かに首を横に振った。
巨人でもない……超位竜がわざわざ知らせるということはドラゴンでもない可能性も高い……こういう時は……ジースさん。
(はい、 この世界に存在する全長10メートル以上に成長する魔物はドラゴン種、 スライム種、 ジャイアント種、 クラーケン種、 巨蟲種等が挙げられます。 恐らく陸上にて長期活動が可能な魔物はドラゴン種、 スライム種、 ジャイアント種、 巨蟲種等……この国に接近中の魔物はジャイアント種、 巨蟲種等かと思われます。 )
ん? スライム種が入らないのは何でだ?
(はい、 スライム種は長期活動が可能ではありますが、 それは環境によります。 巨大過ぎては日光を避けられる地形が限られておりますので確率は低いかと。 )
なるほど、 大きすぎると干からびるってことか……でもそんな巨大な魔物でも超位竜が束になって掛かれば何とかなるんじゃないか? でもそれほどの相手ということか……
イージスがそんなことを考えているとアルゲルの側にいたメゾルが口を開いた。
「イージス様、 もしかするとその魔物……魔物じゃないかも……」
「魔物じゃない? じゃあ何だって言うんだ? 」
「古代兵器、 竜滅要塞 セレン・ディルス……」
竜滅要塞! ? いかにもヤバそうな名前の兵器だけど……
イージスはメゾルの話を聞いた。
「セレン・ディルスは私達の文明が造り出した最強にして最悪の要塞……私達メゾルポルテの過ち……」
話によるとセレン・ディルスはかつてメゾルポルテの民が造り出した最強の古代兵器であり、 それは超位竜をも退けると言われる脅威的破壊力を持っているらしい。 しかし、 メゾルの手によりその兵器ははるか遠くの海の地下深くに封印されたというそうだ。
それで今はその封印が解けた可能性があると……
「でも……まだそれがセレン・ディルスだっていう確証は無いからなぁ……よし、 ロフィヌス! 」
「は、 はい! 」
「ケヴェルに案内してもらってその魔物を偵察してきてくれないか? 」
「しょ、 承知致しました! ケヴェルさんお願いします! 」
「はい! 」
そしてロフィヌスとケヴェルはイージスの前から姿を消した。
……セレン・ディルス……何か凄く気になる……どんな形なんだろう……やっぱり戦車みたいな形とか? それともドラゴンみたいな?
イージスが想像を膨らませているとアルゲルがこんな話を出した。
「イージス様……こんなことをお願い申し上げるのは……無礼を承知で言いますが……よろしいでしょうか? 」
「ん? 何だ? 」
「今回のその謎の巨大生物の正体がもし……セレン・ディルスでしたら……どうか消滅させずに残して頂きたいのですが……」
そうだな……アルゲルの魔法兵器の研究に使えるしな……あっ……でもメゾルが許すか……
イージスはメゾルの方を見た。 するとメゾルは言った。
「……イージス様ならその技術を悪用しないこと……私は知ってるから……いいよ……」
「メゾル……よし、 分かった! アルゲルの願いを聞こう」
「ありがとうございます……」
そんな事をしているとロフィヌスとケヴェルが戻ってきた。
「イージス様……」
「おぉ、 どうだった? 」
戻ってきたロフィヌスは心なしか怯えているように見えた。
「今すぐ……ここから逃げて下さい……! 」
「……え……? 」
「あれは……この世に勝てる者なんて存在しません! 一目で解りました……あれは……正に怪物です……」
……まさか……セレン・ディルスか!
するとケヴェルが説明してくれた。
「現在、 セレン・ディルスはこの街に向かって接近中……ここに着くまであと……三時間です……」
あと三時間! ? 避難させようにももう遅いし……だからと言ってここを見捨てる訳には……
イージスは悩んだ末に出した結論は……
「……俺がセレン・ディルスと戦う……街のすぐ側で決着を付けよう。 一撃でセレン・ディルスを破壊する! 」
「い、 イージス様……」
「皆は逃げるならそれでも構わない、 俺が勝手に決めたことだ……ロフィヌスの様子を見るに……今回はかなりの強敵だということが分かる。 だから俺から無理を言わない……」
イージスがそう言うと守護者達は跪いたまま頭を下げた。
『至高なる聖剣王に仕えし守護者に、 逃避の言葉はありません! 』
……皆……よし!
「守護者達に告げる! これよりセレン・ディルスの破壊を試みる! 皆俺に力を貸してくれ! 」
『はっ! 』
続く……




