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第二の力 ─瞬間移動─ 第三の力 ─透明化─

「ハァ、ハァ……」


 ずきずきと痛む身体を抑えながら石の地面転がる。今の俺は牢屋の中にいた。

 何があったのかは良く解らない。だがこうなってしまったのだ。



 朝、屋外の喧騒で目が覚めたのだ。その時はまだ宿の一室であった。ベッドでゴロゴロとしながら考えていた。

 もしも生きていくならば金と仕事が必要だが金は銀貨が九十五枚もある。しばらくは何もしないでも生きていけそうだ。

 だから今日は聖剣に残りのふたつの力を聴こうと思っていたのだ。そう思っていたのだが。


 不意に廊下がガタガタとうるさくなり突然扉がぶち破られて、鉄の鎧と剣で武装した騎士たちが数人入ってきた。

 何事かを理解する時間もなく腕が立つ可能性があるとか気をつけろとか言われながらも叩きのめされて気絶させられた。


 気が付いたら見知らぬ石造りの薄暗い部屋にいた。上着と上半身の服と昨日手に入れた銀貨とナイフを机の上に広げられていて、俺はと言うと椅子に縛り付けられていた。

 そこでなんだかお前が浣腸?だとか人殺しなのか? とか訳の解らないことを言われながらも木の棒でずっと殴りまわされた。

 確かに人は三日、ではない。もう四日前……に一人殺したが日本の警察やら奴等に尋問されるならまだしもこんなファンタジーな騎士に言われる筋合いはない。

 しかしまあこの拷問も、奴らに捕まったことを考えればぬるま湯のようなものだよなと思ってしまい思わず笑いが漏れてしまった。

 それが気に食わなかったらしく周りの男たちはより激昂して俺を殴り回し、そして向かいにはそれをいやらしくニヤニヤと笑いながら眺めるムカつく顔をした髭の生えた男がいた。

 どれくらい殴られ続けただろうか。何を聴かれてもそもそもまったく意味が解らないのだから答えようがないのだが、そんな俺に業を煮やしたのか隊長と呼ばれた髭の生えた男が牢にぶち込んでおけと言い、そのまま牢屋に連れていかれて今に至る


と、まあそんな感じだ。


「ハァ、ハァ……ふ、ふふふ、人殺しか」


 痛みを感じながらもその言葉に思わず自嘲気味な笑いが漏れる。

 人殺し。人殺しか……。確かにそうだ。俺は遂に、遂に奴を殺すことが出来たのだ。あんな奴であろうとそれが罪だというのならば償うのも悪くない。

 ここがどこだかはしらないが、違う国か、違う時間、違う世界へ来たとしても自らの罪からは逃れられないのかもしれないと思うと不思議とおかしく思えた。

 だが後悔しているかと言われるとそれは違うと言い切れる。奴は、死ぬべきだった。ほおっておけば俺と同じような思いをする奴がどれほどでたことか。奴もまた自分の罪から逃れることが出来なかったからこそ俺に殺されたのだ。

 しかし目的を達成しても長くは生きて居られないかもしれないとは思っていたが、まさかこんなことになるとはね。流石に想像ができるものでは無いな。

 人生なにがあるか解らない。そう思うとますますおかしく感じられた。


「ふ、ふふふ、おもしろい。おもしろいな」

「どうした。遂に頭がおかしくなったか」


 一人笑っているとふとそんな声が聴こえた。


「ん?」

「おーおー。中々に愉快な格好ではないか。一体お前、何をしたと言うのだ」


 そんな声に誘われて石の床をみると、そこには見覚えのある剣が落ちていた。


「お、お前! どうやって!」

「昨日と同じだ。またも次元を飛んで再々構成したのだ。ふふふ。今回はお前が所有者の資格を手放さなかったので易いものであった。しかしこれはまた愉快な状況であるな。良い恰好であるぞ」

「うるせぇ。大きなお世話だ」

「いやぁ愉快愉快。これほどまでに我を手にして多く手放す男がいるとはな。しかしこれはいったいどういう状況なのだ」

「解らねぇよ。こっちが聴きたい。何が何だか訳が分からない事ばっかりさ」

「ふーむ。まあいい。さっさと出ようではないか」

「出ようつったってこの鉄格子じゃなぁ。時を止めたところで鉄格子が開く訳じゃないだろう」

「ふむ。確かに」

「はぁ。なーにが聖剣だよ。巨大な三つの力って言ったって……」

 

 あれ、三つの力?


「む、待てよそう言えば聖剣よ」

「我が名はカリブールだと何度言わせれば」

「解ったよカリブール。それでさ。そう言えば後のふたつの力って何なのさ」

「ああ。そう言えばまだ言っていなかったな。我が身を持て。説明しよう」

「ああ」


 聖剣を拾い上げて昨日のように構えてみる。


「二つ目の力は、瞬間的な移動だ」

「なっ! 瞬間移動だと! これまた凄いじゃないか! どうやればいいんだ。額に指を当てて行きたい場所に念じれば行けるのか?」

「何を訳の解らないことを。そんな力なぞある訳は無かろう。やり方を教えるからやってみろ」

「ああ」

「まずは我が切っ先を行きたい場所。そうだなまずはこの牢の端の当たり。あそこを指し示してみよ」

「了解っと」


 そう言って剣を前に出す。


「ふむ、すると切っ先とその行きたい場所に目の焦点をあわせるのだ。やや広い牢屋だがそれくらいはできるだろう}

「うーん。剣先と行先のピントを合わせろってことか? まあ。でも俺は目が余り良くないのだ。それにここは薄暗いからなかなか」

「ええい。なんと劣った肉体なのだ。ごちゃごちゃと言わずに早くやらぬか」

「はいはいっと。あっ、片目にしたら合ってきた」

「そしたらそこに立っている自分を想見しろ。そしたらそれが成るはずなのだ」

「俺が、あそこに、うわっ!」


 気が付いたら目の前に牢屋の石壁があった。


「フハハハハハ、どうだ凄かろう! これぞ第二の力だ!」

「えっ、なにこれは。す、すごいけど。なんか凄いけど何もわからない」

「良いのだ良いのだ。お前の如き矮小な生物の理解の及ぶ範囲では無い。だが我を讃えるの権利をやろう。フハハ、フハハハハハ!」

「確かに凄いけど、これってその、行きたい場所に自由に行ける訳じゃないの?」

「む? そんな訳なかろう。我の様に次元を渡ることが出来る身であればそれも可能であろうがお前の身体でそれをやれば粉々の血肉になり二度と戻ることはできまい」

「えぇ……なんか微妙。俺は目が余り良くないから遠くへはいけないし。十メートルでも難しそうだな。まあでもいいか凄いのには変わりないし身体の負担も時間停止程ないし。じゃあ早速鉄格子の向こう側を剣で指し示してっと」

「おっ、言い忘れたがな。間に障害物があってはダメだぞ。お前の肉体がそこで別れて二度と戻らぬであろうからなフハハ」

「えっ、何それは。じゃあ牢屋からは出れないじゃん」

「ああ。それから我の身を誰かに突き刺す場所などに移動することなども不可能だ。行先は何もない先に限る」

「……そしたら仮に誰かと闘うとしてもこんな構えて目のピントを合わせてってやってるうちに相手に斬り殺されて終わらないか?」

「ふむ、確かにお前の虚弱な肉体ではそうなる公算が高いな」

「ダメじゃねーか! なんじゃそれ。ああもう良い。じゃあ三つ目の力を教えろ!」

「むむむ。尊敬の心が見えぬやつよ。だが使い手がそう言うならば仕方あるまい。良いだろう教えてやろう。三つ目の力は透明化だ」

「ななっ! 透明人間!」


 これまた凄い。男のロマンの詰まった能力ではないか。


「それは凄い! 本当にそんなことが可能なのか」

「ああ。お前に開いた魔力回路とそこの魔力の表状化から向こう側の魔素とこちら側を相手の視覚と光の屈折を調整する超絶的な機構により持ち主まで含めてそれを可能とする方法で」

「いや相変わらず何を言ってるかは解らないがやり方を教えてくれ」

「教えがいのない奴よ。良いか。まずは我を構えて大きく息を吸い込め」

「ああ」


 すううぅぅぅっと息を深く吸い込む。


「そのまま息を止めて、自らの存在を消すイメージをしろ」

「む、むむむ……」


 息を止めて存在を。

 そう思うと同時に手元を見ると色が消えていくのを感じる。凄い! これは本物だ。

 みるみるうちに身体が透明になっていく。これで夢の透明人間だ。あれ、だけどこれ……。


「フハハハハこれが透明化だ凄かろう!」

「……ぶっはぁ!」


 我慢できなくなって息が漏れてしまう。すると同時に身体に色が戻り透明では無くなった。


「コラ何をしている。息を止め続けよ。呼吸をすればそこから魔素が漏れる上にその部分が見えてしまい一瞬で解除されてしまうのだ!」

「ええっ、なんだそれ。聴いてないし。それじゃあ息が持つ間しか透明になれないじゃないか」

「そうだと言っているであろう。ほら。早く息を止めよ。あんな短い時間で何故息をした」

「いや限界だし」

「な、ななななな! 嘘であろう! あれほどしか息が持たないなぞどうなっているのだ。何故そのように貧弱なのだ!」

「うるせぇ。喫煙者の肺活量舐めるな! これもあんまり使えそうにないなぁ。息を止めて長く行動何て俺の身体では難しいし。やはり牢屋が開くわけでもない。と言うか聴きたかったのだけど」

「む?」

「確かに手とか色々透明になったよ。でも下半身の履いてるズボンとかは見えたままだったんだけど」

「当たり前であろう。お前が透明になったところでお前の身に着けてるものが透明になる訳なかろう常識的に考えて」

「じょ、常識。喋る剣に常識を説かれた……」

「何をショックを受けておる。それよりどうだ凄かろう。もっと我を讃えよフハハハハハ」

「うるせぇ。使えねぇ剣ですねぇこの棍棒が!」


 そう言って剣を地面に投げつける。恐ろしいほど滑らかに剣先がサクッと音を立てて地面に刺さる。


「ぬわっ! なっ、何をするのだ!」

「うるせぇバカにしやがって。いちいち透明になるたびにフルチンになれって言うのかよ! しかも息を止めてる間しかもたないんじゃすぐに戻って変質者として笑いものになっちまうだろーが!」

「いたし方あるまい。確かにこの力は古代の英雄もあまりつかわなかったとは伝えられているが。息が持たぬのはお前の責任であろう」

「それはそうだが。凄いは凄いがそれにしてもどれも微妙に使い勝手が悪い。牢が開きそうな力もないしやってられんわ。寝る!」

「む。物の価値の解らぬ男よ。そうやってまた我を売り渡すのか」

「売り渡す場所にすら辿りつけねえよ。ハァ。一体何が何だか。ここはどこで言ったいなんでこんなことになってるのか。訳がわからん」

「眠る、か。確かにお前の今の肉体は休息が必要だ。次に機会がある時まで眠るのも悪くあるまい」

「あーそうだよ。そうするよ。じゃあな」

「ああ。休め。それが良い」


 その言葉を聴くとふわりと光の粒子が降り注ぎ意識を保てない程の眠気が襲ってきた。


「む、ぐっ、ぐぅ……」


 意識が落ちていく耳元で何かが聴こえる。 


「担い手よ。確かに休息は必要であろう。別に慌てる必要は無い。出る気になれば力なぞ使わずとも鉄格子だろうと石壁だろうと我で切り付ければたやすく出れる訳だしな」


 そんな非常にムカつく言葉が聴こえた気がした。そう言うことは早く言ってほしい。


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