聖剣を売る
「すみませ~~~ん」
ほこりっぽく薄暗い小屋へと入って行くと更に高く槍や剣が束になって詰まれており壁には巨大な盾が所狭しと飾られていた。
剣も槍も、汚れや刃こぼれが酷く、粗悪品交じりであるのがうかがえるのだが、良く見ると少し離れたところには俺の持つ物ほどではないが華美な装飾の美しい剣もある。
部屋の奥には髭の小男がいた。
これはいけそうなのではと一人ほくそ笑む。
「なんだぁおめぇ。奇妙な格好をして。何が入用なんだい」
不審そうな感情を隠すことなくこちらに話しかけてくる髭の小男。だが前の商売が商売だけにこの程度で物怖じすることはない。
「入用ではないんですが相談でね。こちら武器を引き取るとか。具体的には買ってくれたりしないものですかね」
「おめぇそりゃ、見て解らねぇか。こちとらこれだけ武器は余ってるんだ。半端な物じゃお断りだぜ」
「じゃあコイツはどうですかね」
そう言いながら腰に刺した自称聖剣を引き抜き、店主の前の机に置いた。
「おっ、おおおおおっ、おめぇ、こ、これを一体どこで!」
「へへへ。中々のもんでしょ。これだったら気に入ってもらえるのでは?」
「おめぇこれだけの物を手放すって! うっ、売ってくれるのか!?」
「だから相談だって言ってるだろ? これだけの剣だ。中々ないと思うぞこれは」
「も、勿論だ! いくらだったら売ってくれる!」
「そうさなぁ。銅貨……」
二枚でりんご一個だっけ。じゃあ一枚百円くらいとしたら10万円くらいだから……。
「冗談はよしてくれ! 銅貨で払いきれるわけないだろ!」
「あ、そうかぁ。じゃあ」
銅貨の上って言うと……。
「銀貨百枚くらい?」
「銀貨百枚!? そんなっ……」
あれ、高かったかな。
「わっ、解った持ってくる。ちょっと待ってくれ!」
「お、おう……」
そう言うと店主は顔色を変えて店の奥へと飛び込んで行った。
良かった買ってくれるらしい。
「ふぅ~良く寝た寝た。おう資格を持つ物よ。ふふふ現実を見たか。ここはお前のいた世界とは……ん? なんだここは。何だこの鈍ら共は」
「あ、喋った」
「喋ったではない! どこだここはと聞いている。む、これは武器屋ではないか。何故お前はこのようなところに? 我があればこのすべては小枝も同然だぞ? お前には必要あるまい」
「いやぁ必要必要。ようやく役に立ってくれたね聖剣よ」
「何だその不快な呼び名は。我のことはカリブールと呼べ」
「いやぁカリブールちゃん。助かったよ。ふふふふ」
「何だその不気味な笑みは」
そのような会話をしてると血相を変えた店主が店の奥から戻ってきた。
「持ってきた! 銀貨百枚だ! さあ売ってくれ!」
「いいぞ。さあ受け取れ」
「なっ、きっ、貴様っ! まさか!」
「うるさいな黙れよ」
「へ? なんだい兄さん!」
あれ。店主には聞こえてない?
「当たり前だ馬鹿者。我が声は適応者同士か資格を持つ物。あるいはこちらから話しかけるか余程の魔力を持つ物でなくては聴こえることは無い」
あれ、そうなの?
「それより何を考えているのだ! まっ、まさかっ! 貴様っ、この聖剣たる我を!」
「いや悪いね店主さん。はい確かに銀貨百枚で売ったよ!」
「ななななななっ! たったの銀貨百枚で売ったと言うのか! 国一つでも買い取ることが叶わぬと言われる聖剣たる我を!」
「ありがてぇ! また贔屓にしてくれよな!」
「うるせぇなぁ国一つの前に今日の飯が大事だろうが!」
「えっ、何を?」
「あ、いやいや何でもないのですよ店主さん。それじゃあいただきますね」
「馬鹿者! うつけ者! アホ! 粗忽! マヌケ!」
「んん~~~懐があついってのは良いねぇ」
憎たらしかった剣の声も今やBGMの様だ。
「それじゃあお疲れ。あ、手ぶらだと不安だから何かナイフか鉈の様な物貰っていいかな?」
「ああいいぞ。どれでも好きに持ってってくれ」
「大馬鹿者! いらぬだろ我がいれば。よりによって他の鈍らなど! 何を考えている考え直せ後悔するぞ馬鹿者!」
うるせぇ! 切れすぎるし長いし鞘もないし物騒だし不便なんだよロングソードなんて。何より喋る剣なんて頭がおかしくなりそうだ。
「えーっとじゃあ、おっ」
造りは地味だが刃の部分が一際美しいナイフが目についた。すぐ隣には鞘もある。
「じゃあこれで」
「どうぞどうぞ」
「馬鹿者そんな鈍らを……おお、それは中々に悪くない短剣だ。この店一番の当たりだ。では無くて! 我があれば他に何も必要がないのだ。聴け! 考え直せ!」
「それじゃあさよなら~」
そう言いながら罵倒を背中に受けながらも揚々と店から出ていくのだった。