異なる場所で
「これが、剣が言ってた、現実……?」
夜が明けてしばらく歩き続けていた頃。森を抜けた俺はそこに広がる「街」の風景に俺は呆然と立ち尽くしていた。
ズタ布のような服を着た老人が牛が荷物を引き舗装されていない泥道を歩く。
その先には石畳の道と二階建て程までの石造りの原始的な建物が続く。歩く人たちもローマ人の様な布を羽織っただけの人から色とりどりの原始的な「洋服」で歩き。
つまりジャケットを羽織って歩いているような俺のような恰好の人間は一人としていない。
服装はやや浅黒い肌の者や色素の薄いコーカソイドの者が多くモンゴロイドの要素の者たちは見当たらない。まるで古代の外国に来たようだ。
通りには見たことも無い文字の看板と道端で売られる色とりどりの野菜や果物。馬に乗って走る騎士のような鎧を着た巨大な盾や槍を持った男たち。
これは、認めたくはないが。
「日本では、ないな」
それどころか地球でもないかもしれない。タイムスリップして遥か過去に行けばこんな世界もあるかもしれないが、それでも文字すら見たことも無いと言うのは異常だ。
剣の言葉が聴こえるだけならば幻聴として納得できるかもしれないが、流石にこれは、そのままの現実として受け止めるしかない。
俺はどこか知らない場所へと来たのだ。
「ならば、どこか他の世界なのか?」
物語などに置いてそんな異世界と呼ばれるところが舞台になると言うのは聞いたことがあるが、自分の身にそれが起こるなんて想像もしたことなかった。
おもわずふらふらと大通りの方へと歩いていく。石畳で舗装された街は意外と活気があり、石造りの街からは高い文明レベルは感じない物のそれでも騎士たちの鎧からは高い鉄の鍛造の技術が見て取れた。
そして何より奇妙なことに。
「文字が読めるだと?」
見たことのない文字だが不思議と読めるのだ。そしてさらに奇妙なことに人々の会話の内容も不思議と理解することができるのだ。
うつろな瞳で一人だけ浮いてしまった服装で歩く俺を街中の人々が不審な物を見るようなもので見る。
だがそんな周りの目線を気にする余裕もなくふらふらと露天の方へと近づいて行った。
店主と客が親しげに話していたのだが俺を見ると怪訝そうな表情で会話をやめる。
「何だぁ、おめぇ?」
「あ、すまない。その、遠くから来たものなのだが」
「ふぅん、旅人ねぇ?」
通じる! なんと普通に言葉を発しても通じるた。
「あ、ああ。そうなのだが。あの、これ、ひとつ。貰えるかな」
そう言いながらりんごのような果物を指差す。
「ああ。それなら銅貨2枚だよ」
「銅貨? え、それって……」
ポケットから財布を取りだし十円玉を二枚渡す。
「これでもいいのか?」
「んんぅ? なんだぁこらぁ。見たことねぇなぁこんなん。どこの旅人かしらねぇがちゃんとここの銅貨持ってきてくれや兄ちゃん!」
「あっ、そ、そうかすまない」
「帰った帰った!」
「うぅ……」
やはりそうか。俺が持ってる金はここでは使えないらしい。となると金を稼ぐか何か手持ちの物を換金しなくてはこのままここで飢え死にか行き倒れだ。
しかし金になりそうなもの。そんなものあるだろうかと、そう思いながら歩いているとふと槍やら剣が乱雑に積まれている小屋が目に入った。
看板には、見たことのない文字なのだが不思議と「武器」と読める看板があった。
そして俺の腰には鞘も無く挿してあるやたらと美しく輝くうるさい(眠ると言ってからは静かになったが)剣がある。
「……くくく、あるじゃないかぁ売れそうな物がぁ!」
ついつい嬉しくなりそんなことを言いながら俺はその小屋へと意気揚々と入って行った。