大蛇
最近おもしろい本を買いました。亀の甲羅は肋骨ってヤツです。糸井重里さんがべた褒めしてました。
確証はない、根拠もない。
ただ、何故か荒れている大広間を見渡して、直感的に何か例外的な事が発生したと感じた。
パンサーの1件でイレギュラーに嫌気が差してた私は、皆んなの意見を聞かずに行動に移した。
大広間の奥へと駆け込み、通路に入り込む。
ゴブリンがいるだろう。いや、いなければおかしい筈の通路には、何の姿もなく、私は更に歩を進める。
暗い巣の中で歩いて歩いて、最も奥にある一部屋に向かおうと踏み出した――
その瞬間、私は腕の腕に青白い光が瞬いた。
「ギヤャァァン!」
鋭い金属音が洞窟内に鳴り響く。
金属音に青白い光――魔力障壁が作動した。
その情報一つ、私は音が鳴った場所。右手を見詰めた。
蛇がいた。
そして、私は腕を噛まれていた。
「――っシシ!」
僅かに残る光が、私の身長をゆうに超す大蛇を映し出した。
「ッゥウアアァァァ!」
驚きが電の様に駆け巡り、それに呼応して私は情けない悲鳴を上げた。
そんな私を見て、蛇はその牙に入れる力を更に上げる。
ギギギギギ、と金物が擦れる音を立てながら、顎の力を強める。
「ゥ――ンッ、ぬぅ!」
私は腕を取り戻そうと必死に力を入れて引くが、肘を中心に上手に咬んでて、抜け出せない。
「デヤッア!」
掛け声と風切り音を鳴らした杖の一撃が、私の後ろから蛇に下ろされる。
「さぁ、逃げましょうソラさん!」
私のピンチを察した掛け声の主、セレナさんは蛇の口の隙間に素早く杖を突っ込み、テコの原理で口を開ける。
「ありがとうございます、セレナさん」
「そんな事言ってる場合じゃありませんよ。まさか、こんな大物がいるだなんて、、、、」
「一旦引きましょう。この狭い通路じゃ戦い辛いです。ソラさんは――見た所怪我はありませんが、先に引いて待ってて下さい」
杖を改めて構え、私を庇う様にセレナさんは前に立って、逃げてくれと私にそう言う。
しかし、「何言ってるんですか。こんなちっちゃい女の子を盾にして、私は逃げれませんよ」
別に怪我はない。蛇の牙程度では私は私は多分に怪我をしない。
例え怪我をするにしても、それなんかよりもセレナさんが怪我をする事が重要だ。
「舐めないで下さい。あっしはこんな蛇に遅れは取りませんよ」
「じゃあ――一緒にって事で」
「、、、、好きにして下さい」
いざ、二人で撤退戦を始める、丁度その時。
「空ちゃ~ん!大丈夫!?」
と、松明を両手に持った先輩がやって来た。
「大丈夫です、先輩。それよりも、一本松明を下さい」
「ッ――、うん。分かったよ」
目の前のものを見て、状況を把握した先輩は、私に一本松明を渡してくれる。
渡された松明で見る蛇は、闇で見るよりも更に大きく、通路を塞ぐ様な大きさだった。
「、、、、ありがとうございます先輩。あとは後ろで待ってて――ッッ!」
「ッッゥフウゥ、シャアアァァ!!」
言い終える直前、突然と蛇が牙を剥き出しに飛び出した。
「フンッン!」
殺意と、牙を剥き出しに襲いかかる蛇に、セレナさんは素早く反応して杖を横にして口に突っ込んだ。
「フルルルゥッ、シュ――ッッ!!」
ガチガチと、杖に阻まれて噛めないセレナさんに憎悪の瞳を焚きつける蛇。
(その目をっ、やめろ!)
剣を抜き放ち、私はその憎悪に燃える瞳に剣を突き刺す。
水晶体を突き破り、潰れた瞳から血液が吹き出す。
「ッッ!――シィ!」
苦痛に、蛇は叫び口を開くが。
「逃げれは、しやせんよ!」
逃げようとする蛇を、セレナさんは力ずくに杖を地面に垂直に押し付け、蛇の顎を地面に倒す。
「ソラさんッ!」
「分かってますよ!」
抜き取った剣を、私は即座に逆手に待ち変え、押し付けられた蛇の口めがけて両腕に魔力をありったけ込めて一気に振り下ろした。
声にならない叫びを、蛇は喉の奥で鳴らして、私はその口を剣で上顎下顎を一緒に貫く。
「よし、一旦引きましょうソラさん!」
目に見える大打撃。その戦果に、私は胸を僅かに高鳴らせるも、セレナさんの一言で素直に後ろへ下がる。
「あれは、どうでしょうか?まだ戦うつもりですかね?」
「口は抑えましたが、弾みがよければ取れるでしょう。でも、もう十分に勝ちは見えますよ」
冷静ながらも、少し高揚とした口調でセレナさんは語る。
しかし油断は大敵と、セレナさんはここ一番で口を真一文字に締め直す。
「このまま大広間へ誘導したら、ハリィさんの武器で止めを刺して貰いましょうか。あっしの杖も、今口の中に入ってますし」
「いや、カナー達が来るのを待ちましょう。ドクなら、確実に殺してくれる筈です」
と、短い作戦会議は大広間に出る事によって幕が下りる。
「大丈夫かハリィ!そっちには、何にもないよなっ、と」
「うん、大丈夫、大丈夫。ハリィは、大丈夫、だから、お姉ちゃんは、大丈夫?」
滑り込んだ私に、ハリィも滑り込む様に抱きついて聞く。
「大丈夫、今は怪我もなにもない。それよりも、ハリィはこのまま反対方向に向かってカナーと合流してくれるか?」
蛇がいた通路の反対方向、そこは方角としてカナーが今戦闘をしているだろう場所に当たる。
ハリィに後ろからゴブリンを叩いてカナーとの合流を早めると一緒に、元言われた目的を果たそうと頼み込む。
「頼んだぞ、ハリィ」
「、、、、うん。分かったよ」
ハリィも私の気持ちが分かったのか、頷くと素直にカナーのいる方向に向かう。
「――さて、では私達は時間稼ぎとしましょうか。セレナさんは、隠し持っているナイフとか使ってもいいんですよ?」
「その話しは蒸し返さないで下さいよ、、、、」
と言いつつ、セレナさんは隠し持っているナイフを取り出して蛇を睨む。
ズルズルと、口に剣と杖を生やした蛇がゆっくりと大広間に侵入する。
大きく怪我を負った蛇は、幾分弱々しく地を這う。
これならいっそ自分達でも倒せそうな気もするが、焦らずジッと待つ。
(大丈夫、大丈夫。焦るな、勝てる)
自分に言い聞かせ、心を押し静めてたその時。
「――ウギャア!」
喉を締める様な声と、飛び出す音。
蛇に殺されてたと思わしきゴブリンが、今唐突に私へと襲いかかる。
「くっ」
唐突な襲撃。だが、私は翼を展開してゴブリンの奇襲を受け止める。
非常に大した事のない攻撃、だがその攻撃は私の集中を奪った。
「ゥッシャアアア!」
ゴブリンに意識を向けた私に、蛇はその巨体をもって突進する。
しなる筋肉、肉体が、私の肢体を打ちつけられ、体が飛んで地面に倒れ落ちる。
(くそ、やられた。早く立ち直らなきゃ、、、、)
また魔力障壁が作動したのか、さして痛くはない。
(大丈夫、大丈夫。痛くは――――)
スルリと、蛇が私の後ろに回り込んだ。
潰された目と、私達によってズタボロにされた顔を向けて。
(っ!ヤバイ、コレは――)
記憶が告げた。殆ど直感に近い形で。
「ソラさんッ!今すぐ逃げ――」
セレナさんが言い切る直前、激痛が私を襲う。
「フシィ――――ッ!」
「うああァァあ!!」
ミシミシと、骨が悲鳴を上げる。
蛇はその巨体を私の上半身に巻きつけ、締め上げる。
魔力障壁によって守られていた体が、初めてとも言える苦痛を味わう。
「ソラさんを、離せっ!」
私に巻きつく蛇に、セレナさんは小さなナイフで斬りつける、が。
小さなナイフは、蛇を皮に受け止められて蛇を離すに至らない。
「うぐぅッ、、、、!ッカ――――――、、、、」
セレナさんが私を開放する努力虚しく、蛇は更なる力をもって私を締める。
そして、その苦痛は骨の痛みから、内部的な苦しみへと変異する。
「――――っ、――――っ」
苦しい。心臓の音が低く聞こえて、死をも覚悟する最中。
男の声が耳に入る。
「おい。俺を誰だと思う、蛇公」
多分次でこの章は終わります