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キミトボク

作者: 港町凍留

短いので読んで頂けると幸いです



私の世界は狭い。学校にも家庭にも居場所はない。このたったひとつのケータイが世界との接点。

ある日、見覚えのない業者からメールが入った。出会い系サイトだった。出会い系の男の人はすぐに写メを求めてくる。すぐに会おうと言ってくる。何度メル友に裏切られたことだろう。

でも、そんな中、互いに写メを送ることもなく続いているメル友がたったひとり居る。ハンドルネームはネルケン。

ネルケンは私に何も質問しない。でも私に関心がない訳ではなく、私が送ったメールの内容に律儀にコメントを返してくれる。短いけど。クスッと笑わせてくれるのだ。

私たちは互いに相手の素性を尋ねることはなかった。とるに足らない薄い内容のメールのやりとりが心地よかった。

天気の話、ゴハンの話、趣味の話。心地良いバランスで私たちの交信は続いた。

薄い関係でもネルケンは私と社会との唯一の接点だった。私とネルケンとの間にあるモノを大切にしたく壊したくなかったから私は私やネルケンの深い処まで踏み込むことはなかった。

でもコップの水があふれるように、ある日、私は将来に対する不安や過去のトラウマの苦しみを書いたメールを送ってしまった。

━━失敗したって良いじゃないかボクは毎日失敗してるよ失敗は謙虚にさせてくれる━━

そう書かれたネルケンの返信に私は救われた。失敗を乗り越えて失敗を怖れないこと。

私は少し外に出れるようになった。散歩中に撮った写メを送信したりする。段々と私の世界は広がっていった。

そのうち私はバイトをするようになった。徐々に自分に自信がつき始め、ネルケンの写メを送って欲しいと頼むと

━━自己紹介、まだだったね笑 http…━━

と前略プロフィールのURLを教えてくれた。アクセスすると先頭にネルケンの写メが載っている。

長髪で黒の革ジャンを着たメタルバンドのギタリストみたいでスゴく格好良くドキドキした。

私も前略プロフィールのURLを返信した。

ネルケンは私の写メを見て

━━カワイイよ!すごくカワイイなー━━

とすぐ返してくれた。私は

━━電話番号を教えて。声を聴きたい。話したい━━

と頼んだ。一週間ほど電話を掛けたり掛けられたりして気が合う感じが私はした。ネルケンの低いけど落ち着いたやさしい声。

ほとんど私が一方的に話して(うんうん そうなんだ 知らなかった スゴイ)とネルケンは受け入れてくれていた。

我慢出来なくなって『ネルケン逢ってみない?逢って話したい』と言うと、ネルケンは少し間を置き承諾してくれた。

約束の日時に約束の場所へ出向くとネルケンは待っていた。

「はじめましてかな?笑」と話しかけてきてくれたネルケンは(昨夜から喉風邪を引いてるんだ)とマスクをしていて少し苦しそうだった。

ほとんど私が一方的にしゃべり続けて三時間ぐらいデートした。

別れ際に『また出掛けよう』とネルケンに伝えるとネルケンは、じっと私を見つめ両手で私の手を取った


(?)


「…ごめんなさい。実は、実はね…私はネルケンの姉なの。」


(!…)


「…弟は三日前に病状が急変して…亡くなったの。あなたのこと凄く気にかけていた。おしゃべりでウソをつけないカワイイ子なんだって嬉しそうにあなたのこと話していた。そんなあなたを騙してごめんなさい」


ネルケンと一卵性の双子だというその女性がポロポロと涙を落とすのを眺めながら私は茫然としていた。

ネルケンは体力が次第に奪われてゆく難病で毎日リハビリに取り組み、私と普通にデート出来るよう励んでいたそうだ。


私はまったく気付けなかった。電話口で何かしらサインとかあった筈なのにネルケンを想いやれなかった。

ネルケンのおかげで私は一歩を踏み出せたのに


ネルケンに恩返ししたかった…




━━失敗しても良いじゃないか ボクは毎日失敗してるよ 失敗は謙虚にさせてくれる━━




ガラケーが主流であった一昔前の話です ケータイ小説が流行っていました

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