第三章その18
「レヴィン……様……?」
ついさっきまで誰よりも大きな歓声を上げ、誰よりも大きく手を振り、誰よりも高く飛び上がって喜びを露わにしていた竜の国の王女エミリアだったが、レヴィンとリーゼが飛び去っていくのを見て、呆然とする。
「ク、クレア? レヴィン様はどこへ行ったの?」
エミリアは狼狽えつつ、護衛の女騎士クレアの肩を掴んで揺さぶる。
「し、知りませんよ! 私が知っているはずがないでしょう?」
「そ、そうよね……はっ! まさかあの貧乳エルフ娘のところへ? わ、私、何か嫌われるような事しました? あの時、砂の国のバカ国王を殺すのを止めたのがいけなかったんですか?」
「あのう、エミリア様……すぐ後ろにデストゥート様がいらっしゃるのですが……」
クレアは申し訳なさそうに言う。
「……ちゃんと聞いておるのだが」
そして渋面のデストゥート。それを知っているのかいないのか、エミリアは日頃の優雅さを忘れてヒートアップしていく。
「あの鬼畜で冷酷で非情なバカ国王なんて死んでしまえばいいのです! ああ、私のレヴィン様のために、砂の国ごと滅んでしまえば良かったのに……」
「は、ははは……」
デストゥートの額に冷や汗が伝う。公式の場であれば確実に外交問題に発展するところだが、あまりにも極端すぎる発言だったので、逆に冗談ですまされるだろう。
しかし幼い頃から共に過ごしてきたクレアだけは、竜の国の王女の発言が本音である事を知っていた。普段は決して表に出さないとしても。
「ど、どうしましょう? 私、レヴィン様がいてくれないと生きていけません……」
涙ながらにすがりついてくるエミリア。
「落ち着いて下さい、姫様。大丈夫です。レヴィン様が何の理由もなく、黙っていなくなるような薄情者ではない事は他の誰よりもエミリア様がご存知のはずです」
「そ、そうですよね? レヴィン様は帰ってきますよね?」
「ええ。レヴィン様は必ず帰ってきます。だから私たちはレヴィン様がいない間、しっかり竜の国を守りましょう!」
「クレア、あなたのおかげで迷いが晴れました! ありがとうございます!」
ぐっと拳を握りしめて立ち直るエミリア。クレアはやれやれと苦笑する。
「クレアもレヴィン様の事を信頼してくれて……ま、まさかあなたもレヴィン様の事が……ダメですよ! レヴィン様は私のものですから!」
「違います!」
力の限りにクレアは否定する。
クレアの、少しばかり面倒臭く、とても大切なお姫様と過ごす素敵な毎日は、ようやく再開したばかりだった。




