第三章その16
光が収まり、フローリアの目に飛び込んできたのは、魔王が消えた澄み切った青空だった。
身体は仰向けに倒れていて、その上にフォルナが覆い被さっていた。
「……生きて……る?」
フローリアの口からつぶやきが漏れる。つい先ほどにはほとんど消滅していた右手がすでに元通りになっている。
「……君のおかげなのか、フォルナ?」
「死体や生物を腐敗や風化から守る、光の神の奇跡です」
「……なるほど。再生には“始原の渦”の力が必要だが、消滅を止めるのは神の力でもできる、という事か」
「生きて下さい……」
フォルナが言う。
「夜の国の死病は私が何とかします。それが終わったら神聖王国に来て下さい。そして誤った説を流布した事を、大神殿の祭壇の前で謝罪して下さい」
「……私は自分の説を曲げるつもりはないぞ。世界を創ったのは神ではない」
「いいえ、世界を創ったのは神です。私も一生、譲るつもりはありません。だから……」
フォルナは身体を起こす。頬に涙を伝わせて笑っていた。
「だから私が死ぬまで、フローリアさんも死なないで下さい。お願いです。私を残して先に逝かないで下さい」
「……やれやれ。君が死ぬまでとなったら、あと五十年は生きなくてはならないではないか……わかった、約束する。君の葬式には必ず出席しよう」
フローリアは身体を起こす。すぐ近くで正面からフォルナと向き合う。
「こら! 二人だけで仲良くしないの! 私も入れなさい!」
そこにアリアーネが割って入る。フローリアとフォルナの身体をまとめてぎゅっと抱き締める。
「フローリアは私の葬式にも出席しないと許さないわよ!」
「……アリアーネ、君の葬式となると三百年は先になるではないか」
フローリアは苦笑する。
「……まあいい。そうやって友人を見送って生きていたら千年経っていたんだ。この先の千年も同じように生きていくんだろう。それはきっと素敵な人と出会う、素敵な千年なんだろうな」
三人は魔王がいなくなった空を見上げる。
竜騎士を乗せた紅い竜が何度も旋回し、どこかに飛び去っていった。




