第三章その15
光が消え去ると、上空に鎮座していた魔王のおぞましい姿は消え去っていた。
そこかしこに溢れかえっていた眷属も姿を消している。この世ならざる存在は、母体である魔王が消滅した事でこの世にとどまる術を失ったのだ。
「勝った……のでしょうか?」
クライナーの口からつぶやきが漏れる。
「勝った……勝ったのだ! 俺たちが勝ったのだ!」
ボロスの宣言に、五百人の兵士は割れんばかりの歓声で応えた。
平原の国の獣人と竜の国の騎士が互いの勇戦を讃えて肩を組み、大声を上げて笑う。
夜の国の魔法戦士と森の国のエルフが互いの無事を喜んで抱き合い、涙を流す。
神聖王国の光の神の神官は傷を癒やしたばかりの異教徒の手を取り、神に感謝の祈りを捧げている。
生まれた国の違いもなく、国境を越えて互いの勝利と無事を祝い、喜びを分かち合う姿がそこにはあった。
クライナーはそれを嬉しそうに、しかしどこか寂しそうに見やった後、踵を返してその場を離れる……が。
「おい、どこへ行く?」
「ボロスさん……」
その場を離れようとするクライナーにいち早く気付いたボロスがその襟首を掴まえる。その姿は戦っていた時の熊の獣人の姿から人間の姿に戻っている。
クライナーは溜息をついて答える。
「交易の国は自分の国の危機に一兵も出せなかったんです。ここでみなさんと一緒に喜びを分かち合う資格は僕にはありませんよ」
「深刻ぶったところで俺に襟首を掴まれたままではかっこ悪いだけだぞ」
「余計なお世話です」
「なら交易の国を代表して、ここにいるはずだった百人の兵士の分までお前さん一人で喜びを分かち合うのが筋ではないか?」
「………」
「ここにいる五百人はな、まず世界のため故国のために魔王と戦った。しかしそれ以上にお前さんの交易の国のために戦ったのではないか? その気持ちに応えるため、お前さんがここに残るのは資格とか権利ではない。義務であり、責任ではないか?」
「……はあ、わかりました。残ればいいんでしょう?」
「うむ。よく言った」
「……え?」
クライナーが答えるや否や、ボロスは狼の獣人に姿を変えると、片手でクライナーの身体を軽々と放り投げる。
「な、何をするんですか~~~~~っっっっっ!」
哀れなクライナーの抗議の声は待ち受ける五百人の兵士の中に埋もれ、かき消されていった。




