第三章その14
フローリア、アリアーネ、フォルナの三人は固唾を飲んで上空を見守っていた。
溢れる光の奔流が魔王に向かっていくのは、塔の屋上からでもしっかり見えた。
「レヴィン……リーゼちゃん……」
アリアーネは胸の前で手を握り合わせる。
今のところは上手くいっている。しかし無事な姿を見るまではとても安心できない。
上空で戦っているのは、二人ともアリアーネにとって大切な人だ。もう二度と会えないかもと思うと、気が気ではない。
「でもあの二人なら大丈夫……きっと……」
アリアーネには祈る事しかできない。祈る事しかできない自分がもどかしい。しかしレヴィンならきっとやってくれるはずだ。三年前もそうだったのだから……。
その時、背後から物音が聞こえて振り返る。そして目にしたのは、左手は高く掲げてリーゼに魔力を送りながら、右手に持った杖を取り落とし……いや右の手首が消滅したフローリアの姿だった。
「! ……フローリア!」
「フローリアさん!」
さらにフローリアの身体が倒れていくのを見て、アリアーネとフォルナは慌てて駆け寄ってその身体を支える。
「……やれやれ、もう限界か」
「げ、限界って何よ! “始原の渦”とかって奴の力は無尽蔵じゃなかったの?」
「……確かに“始原の渦”の力は無尽蔵だ。問題は私の身体の方だ」
「身体? それこそ不老不死じゃないの?」
「……それは“始原の渦”の力があってこそだ。ややこしいから不老不死と言っているだけで、この身体は千年前にとっくに死んでいる。死んで朽ち果てていくだけの身体を再生しながら使っているから、見かけは不老不死で生きているように見えるだけだ。
……そんな状態で“始原の渦”の力を限界まで竜騎士槍に振り向けてみろ。身体の再生に回す分がなくなるのは必定ではないか」
「じゃあ魔力を送るのをやめなさいよ! あの二人ならもう大丈夫だから……」
「……そういう訳にはいかない。もし魔力が足りなくて魔王を倒せなければ二人の命が危ないし、魔王を倒す手段が失われれば世界の危機だ。どうするべきかわからないアリアーネではないだろ?」
「そ、それはわかるけど……で、でも!」
「……いいんだ。私はもう千年も生きた。千年前に死んだはずの人間がいつまでも出しゃばり続けるというのはおかしな話だ。
……前からこの方法は試してみたかったんだが、放出した魔力をどこにも被害を出さずに処理する方法がなく、できずにいたのだ。今回、魔王を倒すために使う機会に恵まれて、むしろ好都合だと思っているくらいだ」
「そ、そんな……」
「……唯一の心残りと言えば、夜の国の死病を解決できなかった事だ。しかし勇者大戦で勝ったおかげでフォルナが何とかしてくれる。フォルナに任せておけば安心だ」
「………」
視線を向けられるが、フォルナは唇を噛むだけで何も答えない。
「……それに私が死ねば神聖王国の要求も叶うし、願ったり叶ったりではないか。後の事は頼んだぞ、フォルナ」
「ちょっと! 冗談はやめてよ! フローリア! フローリアァァァァァ!!!!!」
アリアーネの絶叫が響く。
フォルナも口を開きかけて……。
そして溢れ出した光の奔流が屋上を包み込む。
溢れ出す光は大地を純白に染め上げた。
その光は魔王を討つ破魔の光。
その光は人の手で掴み取った勝利の証。
絶望に囚われた者に差し伸べる救済の光。
あらゆる罪を許す贖罪の光。
世界の隅々まで暗闇を打ち消す未来への道標。
全ての人々に知らしめる希望の光。
それが今、山を越え、遥か彼方までを照らし、不安と絶望に打ちのめされ、俯いていた人々の顔を上げさせる力になる……。




