第三章その13
塔の屋上から飛びたったレヴィンとリーゼは一気に高度を上げ、雲を貫き、魔王と並ぶ高さを維持する。
山のような大きさの球状の巨体を埋め尽くすのは、顔、顔、顔……。
苦悶に歪む顔、憎悪に引きつる顔、慟哭の涙を流す顔、断末魔の悲鳴を上げる顔……そのひとつひとつがレヴィンもリーゼも見知った、砂の国の勇者ヒルケの顔……そして魔王になる前には一度も見せなかった顔だ。
今になって思い出すのは、砂の国の民を案じる真剣な顔と、照れたような、はにかむような笑顔。
「ヒルケ。苦しかっただろうな」
“……ゆーしゃ様?”
地上から見上げていた時には恐れおののくき、嫌悪感を抱くしかなかった、おぞましい存在。
しかし空を舞い、視線の高さを合わせてみれば、それは運命に翻弄され、その身に訪れた不運を嘆き、故国の人々を救えなかった責任に苛まれる、一人の少年に過ぎない。
誰よりも故国の人々の幸せを願い、誰よりも砂の国の勇者に相応しい資質を持ちながら、それ故に道を誤った、哀れな一人の少年……。
「苦しむのは終わりだ」
フローリアから送られる魔力がリーゼの身体を経由して注ぎ込まれ、竜騎士槍が淡い光を放ち始める。光は徐々に輝きを強めて直視できないほどになり、竜騎士槍自体も長さを増していく。
それは神々が地上を去り、人とドラゴンの手に残された地上最強の武器にして最後の希望。
隠されたその真の姿を、三年前に魔王を倒した時と寸分違わぬ勇姿を今、地上に現わす。
「後の事は俺たちに任せろ」
リーゼがひとつ翼を羽ばたかせると、その身体は滑るように魔王に向かっていく。
レヴィンが無数にある魔王の顔のひとつに竜騎士槍を突き立てると、そこから溢れ出す光の奔流と衝撃がレヴィンとリーゼを襲う。
“ゆ、ゆーしゃ様!”
「大丈夫だ! しっかり堪えていろ!」
“は、はい!”
衝撃に全身を揺さぶられ、バランスを崩さないようにリーゼの身体を操りながら、レヴィンはさらに竜騎士槍を押し込んでいく。
やがて光の奔流が視界を真っ白に塗り潰し、そして……。




