第三章その12
たとえ本人がどんなに恐がっていても、ドラゴンが地上最強の生物である事に変わりはない。まして今は竜騎士レヴィンが身体をコントロールしているのだ。魔王の生み出す眷属如き相手ではない。
リーゼが口から吐き出した炎の息が眷属を焼き払い、道を切り開く。残りは前足と後ろ足のかぎ爪で切り裂き、あるいは尻尾で叩き落とす。
進んで行く内に、見下ろす先に塔が見えた。フローリアたちが塔に登るのを察知したのか、たまたまなのか、塔の屋上には十体ほどの眷属が待ち構えている。
「ちょっと寄ってくか」
“ア、アイアイサー!”
「……どこでそんな言葉覚えた?」
何はともあれ、レヴィンとリーゼは滑り下りるように塔の屋上に降りる。気付いた眷属たちが襲いかかってくるが、リーゼは容易く蹴散らし、踏み潰す。
階段を上ってきたアリアーネが姿を現わしたのは、ちょうど全ての眷属を倒した時だった。
「……え?」
「……あ!」
目が合い、レヴィンとアリアーネは短く驚きの声を上げる。
「え、えっとその……さっきはごめん……」
「いや……怒ってない……うん、怒ってない」
二人は頬を真っ赤に染めて、視線を逸らす。
「アリアーネさん、イチャイチャするのはそのくらいにしてもらえますか?」
「イ、イチャイチャなんてしてないわよ!」
フォルナの指摘に、アリアーネは大声を上げる。
「若いっていいですね。お二人が羨ましいです」
「あんただって若いでしょーが!」
「だってほら、私は神に仕える身ですし」
「知ってるわよ!」
「……もう少し見て……いや、そっとしてやりたいところだが、そのくらいにしてもらえないか? 急いでいるのだが」
「え? ……あ、うん」
遅れて現われたフローリアの声に、アリアーネは慌てて場所を譲る。
「フローリア、準備はいいか?」
「……いつでも構わない」
レヴィンの問いに、フローリアは静かに答える。
「じゃあ行くか、リーゼ」
“は、はい!”
そしてレヴィンとリーゼは再び空に舞い上がる。螺旋を描き、急速に高度を上げていく。
竜騎士とドラゴンが去ると、塔の屋上にはまた魔王が生み出した眷属が降り始める。
「風の精霊よ! 渦を巻いて私たちを守って!」
アリアーネが片手を挙げて呼びかけると、屋上全体を取り囲むように風が渦を巻き始める。ただの風ではない。触れるもの全てを切り裂く風の刃だ。
降ってきた眷属はたちまち風の洗礼を受け、ズタズタに切り裂かれる。
「……大技だな。保つのか?」
「保たせるわよ。それに数が多いなら、ひとつひとつ小技で潰すより、大技を使った方が楽でしょ?」
風の結界を維持しながら、アリアーネは弓を構え、結界が仕留め損ねた眷属に矢を放っていく。矢でも仕留め損ねた眷属はフォルナが駆け寄り、槌鉾で一体一体倒していく。
「フローリア、早く!」
「……わかっている」
フローリアは何もない虚空に手を伸ばすと、何かを握るように手を閉じ、捻る。
「開け、“始原の渦”」
その静かな声に応えるように、暴風が巻き起こる。
それは十二歳で命を落とした少女を生き返らせ、千年の時を生きる不老不死の賢者“不死の女王”たらしめる力。
神々にさえ不可能な無から有を生み出す事を成し遂げ、ありとあらゆる存在を定義する概念。
フローリアはそれを“始原の渦”と名付けた。
その力を今、解き放つ!
「……受け取れ。レヴィン殿、リーゼ殿」
高く掲げた掌から魔力が奔流となって溢れ出す。それは真っ直ぐに上空に舞う紅いドラゴンへと届いた。




