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勇者大戦  作者: 千里万里
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第三章その9

 勇者たちは人影のない街路を行く。

 住民はすでに一人残らず避難しているらしい。この点において、交易の国の傭兵部隊はきちんと自分たちの仕事を果たしたという事だ。

 いつもは露店と買い物客で溢れかえる目抜き通りだが、今は人っ子一人、犬一匹姿を見せる事はない。いつもの喧噪を知っている一同は寂しい気持ちが胸をよぎるのを禁じ得ない。

 それでも足を止める事は許されない。この街にいつもの何気ない日常を取り戻すためには、突き進むしかないのだ。

 一同の前に立ち塞がる物があった。粘液にぬめる触手の塊、そして半透明で不定形の塊……およそ生物のなり損ないとしか思えないモノが石畳の街路を埋め尽くして蠢いている。

 それはこの世界に普通に産み落とされた生物ではない。魔王だけが生み出す“眷属”と呼ばれる異形の魔物だ。

「皆の者! 続け!」

 先陣を切るのは平原の国の勇者ボロスだ。走りながらその姿は白銀の狼の獣人へと姿を変える。自慢の爪が閃くと、異形の魔物は緑の体液らしきモノを撒き散らして息絶える。

「ボロス様に続け!」

 平原の国の獣人の戦士たちが続く。その姿はボロスのような狼もあれば、熊や狐などの獣から鷹などの鳥、蛇や蜥蜴といった爬虫類まで様々だ。それぞれの身体を武器として駆使して眷属に噛み付き、力任せに引き裂く。

「獣人に後れをとるな! 竜の国の名に懸けて進め!」

 いつもは馬に乗って騎兵槍を使う竜の国の騎士たちだが、今回は混戦が予想されたために徒歩で、武器には剣を選んでいる。獣人たちに引けをとらない勇猛さで眷属に襲いかかり、狩っていく。

「指揮官が自ら先頭に立って突っ込んでいってどうするんですかねえ」

 ボロスたちの奮戦を後方で見守りつつ、クライナーが嘆息する。

「……それがボロス殿のスタイルなんだろう。それに獣人たちも竜の国の騎士たちも、ボロスに遅れまいと奮戦しているではないか」

「いや、フローリアさん、それはわかっていますよ」

「だったらクライナーさんがボロスさんより前に出て、指揮官に余裕を持たせてあげてはいかがですか?」

「フォルナさんまで……」

 クライナーはさらに深く嘆息する。

 その時だ。頭上からさらなる眷属が降ってきた。しかし目の前の眷属を相手にしている獣人たちや騎士たちはそれに気が付かない。

「光の矢よ!」

 頭上を光の軌跡が走る。魔法で生み出された光の矢は狙いを過たず、眷属が地面に触れる前に仕留める。

 夜の国が誇る魔法戦士部隊だ。一人一人が魔術師としても戦士としても高い実力を持ち、接近戦から遠距離まで幅広い間合いをカバーする、オールラウンドの部隊だ。

「風の精霊よ! 奴らを運べ!」

 光の矢で仕留めた眷属が落下する前に、風の精霊が吹き飛ばし、建物の壁にぶつけたり屋根の上に落としていく。

 森の国のエルフたちは全員が弓矢の名手であり、精霊魔法の使い手でもある。

「……あまり張り切りすぎるなよ。まだ先は長いからな」

「そんな事言ってる場合じゃないんじゃない?」

 苦言を呈するフローリアに、アリアーネが反論する。

「異形の魔物め! 滅びろ!」

 前衛が撃ち漏らした眷属から魔法戦士部隊とエルフたちを守るのは、神聖王国の神官戦士たちの役目だ。光の神の法と秩序を守る彼らが、正義を代行するために戦闘技術を磨いているのはあまりにも当然すぎる事だ。手にした槌鉾で眷属を打ち倒すのと並行して、神に奇跡を祈り、負傷者の傷を癒やして再び戦場に送り出すのも忘れはしない。

 少数の兵力で戦いに臨まざるを得ない勇者たちにとって、まさに要となる戦力だ。

「でかい眷属には三人ひと組で当たれ! 周りをよく見ろ!」

 そして自ら最前線に立ち、誰よりも多くの眷属を屠りながら、周囲にも的確な指示を飛ばすボロス。勇者大戦では目立った戦績を上げられなかったボロスだが、集団戦は狩猟民族である獣人にとっては真骨頂といえる。

 勇者大戦での憂さを晴らすように、ボロスは眷属と眷属の死体で埋め尽くされた街路を切り開きながら突き進んでいく。

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