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勇者大戦  作者: 千里万里
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第二章その46

 ヒルケの手には奇術のように投擲武器が現われる。短剣、手斧、投げ矢、戦輪、ブーメラン……次々と現われる投擲武器は、それぞれ一直線に、あるいは弧を描き、変幻自在かつ正確無比の軌道でレヴィンに襲いかかる。

 襲い来る無数の投擲武器を、レヴィンは槍一本で迎え撃つ。投擲武器の威力は決して高くない。レヴィンの鎧なら軽く弾き返す。しかしレヴィンは槍による迎撃に執着する。それはまるで鎧に傷ひとつ付けまいとする執念のようであり、先輩格の勇者としての矜持のようにも見える。

 奇術のように投擲武器が跳ね、舞踏のように槍が踊り、飛び散る火花が旋律を奏でると、地に落ちた投擲武器がたちまちレヴィンの足元に積み上がる。

 投擲武器だけでは埒が明かないと察したヒルケは、使い慣れた短剣を両手に踏み込む。すかさずレヴィンは槍の間合いを生かして攻勢に転じ、ヒルケに防戦を強いる。辛うじてヒルケが槍の間合いの中に踏み込むと、今度はレヴィンの体術が迎え撃ち、ヒルケは後退を余儀なくされて再び槍の連撃に身を晒すが、さらに一歩後退して投擲武器による攻撃に切り替える。

 二人の攻防はまさに一進一退。ヒルケの投擲武器、レヴィンの槍、ヒルケの短剣、レヴィンの体術……四層に積み重ねられた互いの間合いは、一歩の踏み込みと一歩の後退によって目まぐるしく攻防を入れ替える。

 もはや対戦開始当初の白けた空気は、闘技場に一片たりとも残っていない。若い二人の勇者が繰り広げる苛烈で鮮烈な言葉なき対話に、居合わせた者は身分も立場も性別も年齢もなく、等しく目を奪われ、息を飲む。

 平原の国の勇者ボロスの侵入を一度たりとも許さなかったレヴィンの領域に何度も足を踏み込みながら、同じ数だけ撃退されてきたヒルケ。そして今も執拗に踏み込みを敢行する。

 交差させた短剣でレヴィンの槍の動きを封じつつ、その下に身体を潜り込ませるヒルケ。レヴィンは槍を縦方向に回転させ、石突きでヒルケの足を止める。

 レヴィンは槍から外した右手をヒルケの胸に押し当てる。

 そして左足を地面に突き立て、右足の踏み込み、腰の旋回、肩の突き出し、肘の伸ばしと、全身の筋力を連動させ、ただ一点、ヒルケの胸に押し当てた右の掌底に集約させる。

 皮鎧の上からの打撃では有効打は与えられない。

 レヴィンが選んだ手段は、言わば皮鎧の内側を使った打撃というべき物だ。

 渾身の力を注ぎ込んだ一撃は一瞬にしてヒルケの肺から空気を叩き出し、その機能を一時的に奪う。

「……かはっ!」

 脱力して倒れ伏すヒルケ。

「………」

「………」

 一瞬の出来事に、観客はそれまでの喧噪も忘れて言葉を失う。

「……しょ、勝者! 竜の国の勇者レヴィン殿!」

 熱戦に気をとられていたのか、少し遅れた審判の声が響く。

 掌底を打ち込んだ姿勢のまましばらく固まっていたレヴィンだったが、勝利を告げる声が耳に届くと、身体の緊張を解く。

「手加減はした。呼吸が戻ればすぐに楽になる」

「すごい……さすがはレヴィンさん……歯が立たなかった……」

 敗北を喫しながら満足そうな笑みを浮かべて、ヒルケは意識を手放す。

 ヒルケを癒やそうと光の神の神官たちが駆け寄り、観客は勝者にも敗者にも等しく惜しみない拍手を送る。

 勇者大戦、第九戦は竜の国の勇者レヴィンが勝利を収め、ここに勇者大戦の全ての対戦カードが終了した。

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