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勇者大戦  作者: 千里万里
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第二章その45

 筋力強化魔法を使ったヒルケに一時は翻弄されたレヴィンだったが、ぐっと腰を落として揺さぶりに抵抗する。

「筋力強化魔法といっても、骨や筋肉への負荷を考えれば強化できる量には限界がある」

 レヴィンは静かに告げる。

「それに筋力を強化しても、体重を増やす事はできない。ちょっと重心を低くすれば、軽いヒルケには俺は揺さぶれない」

「………」

 ヒルケはわずかに眉を寄せると、槍から手を放して飛び退く。レヴィンはすかさず槍で追撃をかけるが、ヒルケはそれより早く槍の間合いの外へと退く。

「三年前の魔王との戦いで、砂の国はレヴィンさんたち六人の勇者に救われました。その事にはいくら感謝しても感謝しきれません」

 ヒルケは淡々と告げる。

「ですが自らの手で自らの国を守れなかった砂の国は、徹底的に破壊された状況から復興する気力を失いました」

「………」

「六人の勇者……中でも魔王にとどめを刺したレヴィンさんは砂の国にとっての恩人であり、僕にとっては憧れの存在です。あなたという存在を乗り越え、初めて砂の国は新しい一歩を踏み出す事ができます。あなたを倒し、僕は砂の国の希望になります。本当の意味で砂の国の勇者になります!」

 ヒルケは手品のような手際で隠し持った短剣を取り出し、両手に構える。

「……なるほど、その心がけはもう立派な勇者だな」

 レヴィンは口の端を笑いの形に釣り上げる。

「ならばそれに相応しい力を見せろ。その正義を貫き通す力を示してみろ!」

「いきます!」

 ヒルケは素早く両手の短剣を投げ付け、レヴィンは槍でそれを弾く。その時すでにヒルケは次の短剣を引き抜いて、レヴィンに詰め寄っている。しかし今度はレヴィンも余裕を持って対処する。後退しつつ槍一本で二本の短剣の攻撃を捌き、決してヒルケの侵入を許さない。

 逆に反撃に転じ、素早い連撃でヒルケを追い詰めていく。槍と短剣が激しい火花を散らし、時に槍の穂先がヒルケの服の端を切り裂き、ついには左手の短剣を弾き飛ばす。

 しかしそれはヒルケの誘いだった。片方の短剣を犠牲にしつつ身を低くし、槍の下に身体を滑り込ませて残った短剣を繰り出す。

 だがこれもまたレヴィンの術中だった。ヒルケの乾坤一擲の踏み込みに対し、槍から放した腕を跳ね上げて短剣を弾き飛ばす。そのままの流れで踏み込んでヒルケに肘打ちを見舞う。ヒルケは咄嗟に飛び退くが、それは遅きに失した。レヴィンの肘打ちは確かにヒルケの胸を捉える。

 しかしレヴィンの肘に伝わってきた感触は人体の感触ではなかった。ダメージらしいダメージを受けた様子もなくヒルケは間合いを開け、二人は再び対峙する。

「……今のは……体術ですか?」

 驚愕しつつ、平静を装いながらヒルケは問う。

「槍の弱点は懐に飛び込まれると対処できない事……その弱点を補う唯一の方法が、槍を持ち替える事なく使える体術だ」

「なるほど……そう簡単には勝たせてはもらえないようですね」

「俺だって勇者だからな」

 軽口を叩きつつも、レヴィンは頭の中で思考を巡らせる。

 さっきの肘打ちは、本気で勝つために放った一撃だった。阻んだのは恐らく皮鎧。剣や槍を防ぐには心許ないが、素手の攻撃に対してはほとんど万全の備えと言える。動きを阻害しない範囲で最大限の防御を考えた結果なのだろうが、槍で貫いて命を奪うわけにはいかないし、体術は防がれてしまう。

 砂の国特有の白い厚手の衣服の下には、レヴィンにとってなかなか厄介な相手が潜んでいるようだった。

 想像もしていなかった苦境だが、レヴィンの口元は自然に笑みを形作る。布で隠されたヒルケの口元にも、同じ笑みが浮かんでいるのだろうか……?


「……体術……レヴィン殿はそんな物まで使えるのか?」

「し、知りませんよ……私だってそんなに付き合いが長いわけじゃないんですから」

 フローリアが熱い視線を向けてくるが、リーゼは困り顔だ。

「ヒルケの投擲武器、レヴィンの槍、ヒルケの短剣、レヴィンの体術……それぞれの間合いが少しずつズレながら重なり合っている……面白くなってきたな」

 ボロスの声も興奮を抑えきれない。

 そして対戦は最終局面を迎える……。

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