第二章その44
「……短剣の投擲に筋力強化魔法、そんな手を隠していたのか」
フローリアを始め、試合を見守る勇者たちの間に戦慄が走る。すでにヒルケとの対戦で勝利を収めた彼らだが、どちらもその時には使われなかった戦法だ。
ヒルケにとって今までの対戦は前座に過ぎない。全てはレヴィンとの対戦を想定し、レヴィンから勝利を勝ち取るために備えていたのだ。そう直感的に悟る。
「ひょっとしたらがあるかも知れんな……」
ボロスの口からも小さなつぶやきが漏れる。
「え? ど、どういう事ですか?」
リーゼはおろおろしている。
「……槍の最大の利点は相手の間合いの外から一方的に攻撃を仕掛けられる事だ」
フローリアが解説する。
「……しかしヒルケに投擲武器があるなら話は別だ。槍の間合いの外から攻撃を仕掛けられる。投擲武器だけで決定打になるほどレヴィンは甘くないが、投擲武器で揺さぶりをかければ、懐に飛び込む事も容易になるだろう」
「そ、そんな……」
「大丈夫よ、リーゼちゃん」
アリアーネが安心させるようにリーゼの肩を抱く。
「レヴィンならきっと大丈夫よ。私たちの不安なんか軽く吹っ飛ばしてくれる。リーゼちゃんは知らないだろうけど、三年前の魔王との戦いの時もやってくれたもの」
「………」
その視線は揺るぎなく真っ直ぐにレヴィンに向けられる。
「まあ負けたって死ぬ訳じゃないし、肩の力を抜いて対戦を見守ればいいじゃないですか」
「………」
「………」
「え? 僕、何かおかしな事言いました?」
みんなを安心させようとしたクライナーの発言は、ただ顰蹙を買って白い目を向けられる結果になった。




