第一章その4
交易の国の首都に着き、城に向かうエミリアら竜の国一行と別れたレヴィンとリーゼ、アリアーネの三人は、大通りを歩いて闘技場に向かっていた。
商業の盛んな交易の国らしく、通りの両脇には商店が軒を連ね、様々な商品が並んでいた。商品は交易の国の物が多いが、外国から持ち込まれた物も少なくない。
「見て下さい見て下さい! あのアクセサリー素敵ですよ!」
「こら! リーゼちゃん! 勝手に走り回らないの! ……あら本当にキレイね」
「これなんかアリアーネさんに似合いますよ!」
「そうかしら? あ、リーゼちゃんにはこれがいいんじゃない?」
「いいですね!」
アクセサリーや食べ物の露店を見付ける度に歓声を上げて走っていくリーゼとアリアーネ。仲良くなったのは良い事……なのだが。
「……お前ら、何してるんだ?」
そして一人取り残されるレヴィンが渋面で溜息をつく。
「リーゼはともかく、アリアーネまで子供みたいにはしゃいで……」
「は、はしゃいでなんかないわよ!」
「そうですよ! 私ならともかく、アリアーネさんまで! ぷんぷん!」
「お前が言うな」
げし! とレヴィンのチョップが頭に炸裂して、リーゼは涙目になる。
「ううっ、痛いです~ひどいです~」
「バカやってないで行くぞ」
そしてさっさと歩き始めるレヴィン。仕方なくリーゼとアリアーネも慌てて追いかける。
「ね、ねえレヴィン」
足の長さの差でリーゼより先に追い付いたアリアーネが声をかける。
「ん? どうした?」
「レヴィンはあのお姫様と婚約しているの?」
「いや、してないな」
「そうなの?」
「陛下の一人娘だから、あいつと結婚すると跡継ぎっていう事になるんだ。それで勇者の俺が相応しいんじゃないかってムードなんだよなあ」
「ふ~ん……じゃあ結婚するって決まったわけじゃないんだ」
なら私にもまだチャンスが……という呟きはレヴィンの耳までは届かない。
「まあそういう事になるな……ってなんでにやにやしてるんだ?」
「に、にやにやなんてしてないわよ!」
「でも結婚する事になるんじゃないか?」
「え?」
「あいつ気が利くし、しっかりしてるし……結婚しない理由が見つからない」
「美人だし……」
「そうだな」
「胸も大きいし……」
「確かに……いやでもそこは必須じゃないぞ?」
「胸のせいなの? 私に胸が足りないからなの!」
「誰もそんな事言ってないし、それはそれで好みの奴はいるから自棄になるな!」
「フォローになってないわよ!」
などとよく解らない言い合いをしていると、ようやくリーゼが追い付いてくる。三人並んで歩いていると、闘技場の前に着いた。
それは巨大な円形の建造物だった。竜の国にも森の国にもこれだけ巨大な建物はない。娯楽施設としては世界最大を誇る。
「これが……」
漏れた言葉は誰の口からか?
普段は金で買われた剣闘士奴隷が明日の命をかけて戦い、交易の国の民を狂乱に酔わせる流血の宴席。
それが数日後からは各国を代表する選りすぐりの勇者たちが国の威信と国益をかけて激闘を繰り広げる、死者のない戦場になる。
そこにいる懐かしい強敵が見えるように、レヴィンは闘技場を見据えた。