第二章その34
試合開始の合図と同時にフォルナが仕掛ける。一気に間合いを詰めると、手にした槌鉾を振り下ろす。
しかしこれはフローリアも予想していた。足元に光り輝く魔法陣が広がったかと思うと、展開した結界によって攻撃を防ぐ。
「光の神よ! 不浄なる力を正したまえ!」
フォルナの祈りの声が神の奇跡を呼び起こす。光を帯びた槌鉾が結界を打つと、結界は音を立てて割れ砕け散る。
続く二撃目、手にした杖で防ごうとするフローリアだったが、槌鉾は腕を痛打し、小柄な身体はもんどり打って倒れる。
フォルナは追撃はせず、槌鉾と盾をかざして油断なく対峙する。
「まさかこれで終わり、なんて事はありませんよね? “不死の女王”?」
「……そうだな。この程度で終わっては私も君も観客も納得しない」
むくりと身体を起こすフローリア。
「……しかし思いっ切り殴ってくれたな。骨が折れたじゃないか」
ローブの袖をまくると、腕が大きく腫れ上がり、曲がってはいけない場所が曲がっている。
「……しかし骨を折ってくれたおかげで手間が省ける」
フローリアは短剣を取り出すと、骨折した場所に突き刺す。そして二度、三度と短剣を動かすと、腕は切断されて地面に落ちる。
「……見せてやる。“不死の女王”の力を」
腕の切断面から煙が立ちのぼったかと思うと、瞬く間にフローリアの腕は再生を果たす。それと同時に切り落とされた腕の方からも煙が立ちのぼって再生が始まり、生まれたままの姿のフローリアがもう一人、増えていた。
死体に低級霊を憑依させて意のままに操る死霊魔術だけなら、誰でもというほどではないにしろ、修業さえ積めばできない事もない。しかし自らの身体の一部を切断し、再生して複製を作るのは“不死の女王”フローリアにしかできない。
「……汚らわしい」
フォルナは嫌悪感も露わに吐き捨てると、また槌鉾と盾を手に間合いを詰める。
襲い来る槌鉾を、フローリアは今度は杖を使って巧みに受け流す。しかしバランスを崩してたたらを踏んだ。
好機と見たフォルナはさらに踏み込んで追撃をかけるが、槌鉾は割って入った複製のフローリアの頭を砕き、脳漿を地面にぶちまけるにとどまる。その間にフローリアはフォルナの間合いから逃れていた。
「所詮は複製です。こんな物を生み出してもムダです」
フォルナはきっぱりと言い切る。しかしフローリアは表情を崩さない。
「……これを見てもまだそんな事が言えるかな?」
フローリアが指を鳴らすと、複製がぶちまけた肉片から煙が立ちのぼり、ひとつひとつが全身を形成するまで再生する。
五体の複製が生まれ、隆起の少ない幼い肢体を衆目に晒していた。
「………」
フォルナは無言で槌鉾を握り直す。




