第二章その31
神聖王国の勇者フォルナに宛がわれた部屋には、彼女に与えられた光の神の聖女というふたつ名に相応しく、光の神の祭壇が設えられていた。
翌日の勇者大戦、フローリアとの大事な一戦を控え、フォルナは厚く信仰する光の神に一心に祈りを捧げる。
フォルナがフローリアと出会ったのは三年前、魔王との戦いの折りだ。すでに聖女としての名声を確立しながら、それまで神聖王国から出た事がなかったフォルナに、フローリアは様々な事を教えてくれた。
フローリアが語る、月の神や闇の神、他の国の事や様々な技術や歴史や物語は、どれもフォルナの空想を刺激し、心を躍らせた。
そしてそのひとつひとつが光の神への信仰をより確かな物にした。
月の神や闇の神との比較は、光の神の教義の正しさを明確にした。
他の国の事を聞けば、いつかその国で布教する日を夢見た。
光の神の教義が高らかに歌い上げる秩序と平和が、混沌とした世界で苦しみながら生きる人々に救いをもたらすと信じた。
……しかしフローリアはフォルナの期待を裏切った。
世界を創造したのは三つ柱の神ではなく、“始原の渦”とする説を唱えたのだ。
それは三つ柱の神の権威の寄って立つ基盤を真っ向から否定し、光の神の教義をないがしろにする、罪深き異端の説だ。
光の神の聖女フォルナにとって、到底受け入れられる物ではない。
「……光の神よ……明日の勝利をあなたに捧げます」
フォルナは祈る。明日の対戦は贖罪のための戦い。罪深き迷える子羊、フローリアの罪を濯ぎ、洗い流すための戦い。
その勝利は他の誰でもないフローリアのために、他の誰でもないフォルナの手で成し遂げなければならない。
フォルナは祈る。かつて自分に新しい世界を見せてくれた、大切な人のための勝利を。




