第二章その28
その日の夜、夜の国の勇者フローリアの元に、夜の国の国王ランスダウンが訪れていた。
見た目は十二歳の少女に過ぎないフローリアに、瀟洒な燕尾服を纏った壮年のランスダウン。立場も夜の国の勇者と国王である二人だ。
しかしその実態は見た目を大きく裏切る。千年を生き、前王家の出身であるフローリアはランスダウンの父が夜の国の王になるよう尽力した、ランスダウンにとっての恩人であり、今も頭の上がらない人物だ。
「明日は神聖王国のフォルナ殿との対戦ですな。生意気な小娘の鼻っ柱を叩き折ってやりましょう」
「………」
ランスダウンの激励に、フローリアはしばし黙ってすぐには答えない。
「……フローリア殿?」
「……もうやめにしないか?」
「やめに……とは?」
「……まずは明日の対戦に勝つ事。そして私が夜の国の政に関わる事を、だ」
「な、何を仰るんですか! 長年、夜の国を支えてきたフローリア殿はこれからも必要な存在です!」
「……そんな事はない。私の見たところ、ランスダウン殿は国王として充分よくやっている。私の助言などもはや必要なかろう」
「いや、それはしかし……」
困惑を隠せないランスダウン。フローリアは畳みかける。
「……フォルナと出会ったのは三年前、魔王との戦いの時だった」
「はあ……」
「……その頃のフォルナはまだ若いが聡明で賢い娘で、光の神の教義については造詣が深いが、それ以外の、教会の外の事は何も知らない箱入り娘だった。私が月の神や闇の神、他の国の事や様々な技術や歴史や物語を話して聞かせると、目を輝かせて聞き入り、瞬く間に吸収して自分の物にしていった。
きっとこういう若い世代がこれからの時代を担っていくのだろう。そう期待したのだ」
「………」
「……ところが三年ぶりに再会してみたらどうだ? 私の考えを否定するのはいい。頑迷に古い光の神の教義にしがみついて、ただ世界を創造したのは神々だと繰り返すだけなのだ。それではいけない。深い考察と活発な議論と実地での実証だけが真実を解き明かす手段なのだ。
昨晩、それがはっきりとわかった。フォルナは私が期待していたような人物ではないのだ」
「………」
「……いや、しかし悪いのはフォルナではない。私は光の神の教義を否定するつもりはない。勝手に期待して、裏切られたと腹を立てる自分が嫌で嫌で仕方がないだけなんだ」
「フローリア殿、そんな事が……」
「……もういいだろう? そもそも私が千年も前から出しゃばっているのが間違いだ。今の時代は、今の時代に生まれた者が担っていくべきだ」
そう言い捨て、フローリアは部屋を出て行く。ランスダウンは呼び止めるが、それがムダだと知ると、小さく首を振って部屋を出て行った。




