第一章その2
「レヴィン! 久しぶりね!」
「よう。アリアーネか!」
三年前の魔王との戦いの時、竜の国の勇者として戦ったレヴィンと、森の国の勇者として戦ったアリアーネの再会だった。
「ちょっと会わない内に背も高くなったし……その……かっ、かっこよくなったわね……」
「そうか? まあ三年も経てば背だって伸びるさ」
「たった三年じゃない」
「まあお前らエルフからすれば『たった』なんだろうけど」
長命で知られるエルフは人間の十倍の寿命がある。エルフにとっての三年は人間にとっての三ヶ月程度でしかない。
「う、うん……でもあんたに会えない三年間は……その、結構長かったわよ?」
頬を染めてもじもじするアリアーネ。
「ゆ~~~しゃ様~~~!」
その時、レヴィンを追いかけて一人の少女が駆けてきた。
赤い髪を短く切った幼げな少女は、途中で何度もつまずいて転びそうになりながらレヴィンに走り寄り、最後には転びかけたところをレヴィンに受け止められる。
「ゆーしゃ様! 置いてくなんてヒドイですよっ!」
子供っぽく頬を膨らませて抗議する少女。
「無理して付いてくることなかったんだぞ」
「そーいうわけにはいきません! ぶーっ!」
「あのー。その娘は?」
遠慮がちにアリアーネ。
「ああ、こいつはリーゼ。じーさんの孫娘だ」
「よろしくです~」
人懐っこくにこにこと笑って、リーゼはアリアーネと握手する。
「じーさん……? もしかして金色の竜王ウォルトの……?」
「そうだ。こいつに世の中の事を見せてきてくれって、じーさんに頼まれてな」
レヴィンにぐりぐりと乱暴に頭を撫でられて目を細めるリーゼ。
「ふーん、お孫さんいたんだ」
アリアーネがにこにこ笑うリーゼをしげしげと見ていると、その後ろから複数の馬蹄の音が近付いてきた。
「あ、兄さん……」
先頭で馬を走らせる男の姿を確認して、アリアーネは小さく声を上げる。
アリアーネとよく似た長い金髪を風になびかせて、エルフ男性は三人のすぐ近くで馬を止めると、腰のレイピアを抜いてレヴィンに突き付ける。
「貴様! 人間風情が誰に口を利いてると思っている?」
「兄さん、やめて! この人は竜の国の勇者レヴィンよ!」
「む、そうか……これは失礼した、竜騎士殿。私はアリアーネの兄で、エルフの族長を務めるハーミッシュだ」
妹に一喝されて、ハーミッシュは馬を下りてレヴィンに握手を求める。連れていた供の者もそれに倣って下馬する。
「レヴィンです。よろしく。それとこっちが金色の竜王ウォルトの孫でリーゼです」
「よ、よろしくです~」
不快な表情は見せないが、にこりともしないレヴィンに、苦手意識を隠せないリーゼ。
「人間はみな下賤な生き物だが、竜の国の勇者である君と、金色の竜王の孫娘は別だ」
二人の態度に苦笑いしながら握手を交わすハーミッシュ。
「族長殿、ひとつお願いがあります」
「なんだね?」
「族長殿の妹君は三年前の魔王との戦いで戦場を共にした仲間です。積もる話もありますので、交易の国の首都まで妹君を我々の馬車でお連れしたいのですが」
「……アリアーネもそう望んでいるのか?」
レヴィンの突然の提案に固まっていたアリアーネは、兄に視線で問いかけられて、ぶんぶんと勢い良く首を縦に振る。
「そうか……では妹をよろしく頼む」
ハーミッシュと供の者は再び馬上の人になると、馬首を返して走り去っていった。
やがて竜の国の騎士がやってきて盗賊全員を捕まえた事を報告すると、レヴィンら三人は馬車の方に戻る。
「……気を悪くした?」
「ん?」
「兄さんの事……兄さん、人間が嫌いだから」
アリアーネは寂しげにうつむく。
「エルフはずっと昔から森にこもって、人間との交わりを断って暮らしてきた……これからもずっとそんな暮らしを続けていく事しか考えていない。でも……」
「お前はそう思わないんだろ?」
レヴィンが口を挟む。
「だったらそれでいいじゃないか。人それぞれ考え方があるんだから」
「うん……そうかもね」
そして三人は馬車の所にたどり着いた。