第二章その21
「さあ、全開で行くわよ!」
試合開始と同時に後ろに飛び退くと、アリアーネは弓に矢をつがえ、素早く放つ。クライナーは一歩も退く事なく、剣を一振りして矢を払い落とす。
「風の精霊よ! お願い! 力を貸して!」
アリアーネの呼びかけに風の精霊が応じる。足元に風が渦を巻き、砂埃を巻き上げると、そのまま移動してクライナーの姿を覆い隠してしまう。
一見するとただの風の渦だが、その内側は風の刃が縦横無尽に駆け巡っている。全方位からの攻撃に鎧や盾ごと破壊するような威力はないが、その攻撃を回避する事はまず不可能。鎧に守られていない顔や関節を容赦なく切り裂く。風の渦が収まった時、鎧を身に付けていないクライナーの長身は風の刃にズタズタに切り裂かれている……そのはずだった。
収まりかけた風の渦からクライナーが飛び出す。もちろん月の神の盾に守られたその身は全くの無傷。
唯一の武器である剣を振り抜くが、不意を狙ったはずの一撃は空を切る。アリアーネは風の精霊の力を借りた幻惑と加速魔法を駆使し、一瞬にしてクライナーの背後に回り込む。“不死の女王”フローリアでさえ舌を巻く繊細な魔法の制御は、森の国の勇者アリアーネの真骨頂だ。
すかさず腰のレイピアを抜いて突きかかるアリアーネの攻撃を、クライナーは振り返り様に剣で受け止め、続く二撃、三撃は盾も併用して受け止める。
接近戦では不利と見るや、アリアーネは後ろに飛び退く。
「水の精霊よ! 力を貸して!」
アリアーネの求めに応じ、空中に水の玉が浮かび上がる。空気中にわずかに漂う水分をかき集め、水を生み出したのだ。力の弱い術者には難しい芸当だが、アリアーネは軽々と成し遂げる。
クライナーを取り囲むように七つの水の玉を生み出すと、それは水の槍へと姿を変える。
「……いや恐いなあ。アリアーネさん、本気ですねえ」
そんな言葉とは裏腹に、薄い笑みを浮かべるクライナー。
「七本の水の槍……あなたにかわせるかしら?」
アリアーネが高く掲げた手を振り下ろすと、水の槍は一斉にクライナーに襲いかかる。




