第二章その16
森の国の勇者アリアーネは、兄ハーミッシュに呼び出されていた。
「明日はいよいよクライナーとの対戦だな」
「……そうね、兄さん」
「わかっているだろうな。明日の対戦には我々エルフの未来がかかっている。決して負ける事は許されないぞ」
「………」
「もしお前が負けるような事になれば、森の国に多くの人間……その中でも特に下劣な商人どもが大挙して押し寄せてくるだろう。美しい森は切り開かれ、清らかな泉はたちまち汚される。それは何としてでも防がなくてはならん」
「……本当にそうなの?」
アリアーネが兄に問いかける。
「兄さん、本当にそうなの? 三年前の魔王との戦いで初めて森の国を出て、私はたくさんの人と出会った。みんな大陸の平和を考える素敵な人ばかりだったわ。私はみんなとお話がしたい。森の国にも来てもらいたい。きっとそれは森の国のために……」
「黙れ!」
ハーミッシュは声を荒げる。
「我々エルフは神代の昔から下劣な人間との交わりを断ち、エルフだけで森と共に生きてきた。それが我々のあるべき姿なのだ! 永遠に続けていかなければ森は守れないのだ!」
そこまで言って、ハーミッシュは声を潜める。
「アリアーネ、お前まさか子供の頃の事を気にしているのか? 我々エルフと人間は寿命が違いすぎる。同じ時を生きれば不幸になるに決まっている……」
「………」
気遣うような優しさを帯びたハーミッシュの声に耳を貸す事なく、アリアーネは部屋を出て行く。ハーミッシュは呼び止めるが、アリアーネが足を止める事はなかった。




