第一章 勇者集結
盗賊のリーダーはほんの一時前の自分の浅慮を後悔していた。
ここのところ手頃な獲物がなくて、生活が苦しかったのは確かにある。
相手は百人規模の外国の一団。こちらも同じ程度の人数だから、不意を打てば充分な勝算があると踏んだのは、決して無謀ではなかったはずだ。
それが今や、襲撃してすぐに馬車から飛び出してきた一人の騎士のために、ほとんど全員がやられて地面を這い蹲っている。
あちこちからうめき声が上がっているところをみると、一人も殺す事なく無力化したらしい。
ドラゴンを模した兜を被った騎士は槍を肩に担いで、息を乱す事もなく平然と佇んでいる。
「き、貴様……何者だ?」
リーダーはうめき声にも似た声を絞り出す。
「俺か? まあ通りすがりの勇者ってとこだな?」
「………」
返事を聞くや否や、リーダーは身を翻して走り出す。
「あっ! お頭!」
「一人だけ逃げようなんてずるいです!」
「待って下さい!」
慌てて数少ない残りの盗賊も逃げ出すが、それを許す騎士ではない。逃げる背中に攻撃をしかけ、たちまち昏倒させる。
その隙にリーダーはかなりの距離を稼いでいた。行く手に女性の人影を見付け、口元が緩む。
あの女を人質にすれば逃げ切れるかも知れねえ!
リーダーの足が自然と速まる。しかし幸運もそこまでだった。
女性は肩にかけた弓を外すと、素早く矢をつがえて射る。矢は狙いを過たずリーダーの足元に刺さり、リーダーは思わず足を止める。
その隙に女性は走り寄ると、腰から抜いたレイピアをリーダーの喉元に突きつける。
ヘナヘナと地面にくずおれるリーダーに、女性は笑いかける。
「残念ね。私も通りすがりの勇者なのよ」
切れ長の目にピンと先の尖った長い耳。薄い色合いの金髪は背中まで届き、そよ風を受けてさらさらと揺れている。陽の光を受けて輝く肌はどこまでも白く、華奢な肢体は完璧な造形美を誇っている。
女性は森の民と呼ばれるエルフだった。