第二章その8
翌日、闘技場ではアリアーネとヒルケとの対戦が行われた。
加速魔法で接近を図るヒルケに対し、アリアーネは風の精霊の力を借りた幻術で対処。
ヒルケの攻撃はアリアーネの影を捕らえる事さえできず、逆に一瞬の隙をつかれて喉元にレイピアを突きつけられ、あっさりと勝敗は決した。
勇者大戦二戦目は森の国の勇者アリアーネの勝利に終わり、砂の国の勇者ヒルケは初戦に続き二戦目も敗北を喫した。
その日の晩、「紅玉と翡翠の夕べ」亭に集まった勇者たちの元に、珍しい来客の姿があった。
「まずは初戦での勝利をお祝いしますわ、美しいエルフのお嬢さん」
「セラフィナ……様……」
アリアーネが驚きを隠せないのも無理はない。交易の国の女王セラフィナが立っているのだから。
場末とまではいかないまでも庶民のための酒場に、頭のてっぺんからドレスの裾まで真っ白な姿は似つかわしくない。首から提げた大きな紅玉を飾り付けた豪華なペンダントが、白いシルエットの中で浮かび上がる。
護衛に連れているのは自分の国の勇者クライナーだけだが、それだけで一万の軍勢よりも頼りになるだろう。
「……私に何かご用ですか?」
「そんな恐い顔しなくていいのよ。うちのクライナーと戦う相手にあいさつに伺っただけですわ……それとこれはお近付きの印に」
セラフィナは首から提げていたペンダントを外し、アリアーネの首にかける。
「何を企んでいる? 女狐」
不快感も露わに、ボロスが割って入る。
「その悪口は言われ慣れてますけど、あなたに言われるのは不快ですわ、獣人の族長」
「悪口ではない。狼には狼の、女狐には女狐の生き方があるだけだ」
ボロスはふんっと鼻を鳴らす。アリアーネが言う。
「これで私に負けろという事ですか?」
「そんなつもりはありませんわ。あなたが勝てば森の国は私たちから宝石をせしめるし、負ければ交易が始まってやはり宝石を手に入れる……これはいわば前渡しのようなものです」
「………」
「あなたにはわかっているのではなくて? 他国との交易を断ち、閉鎖された森に閉じ籠もったエルフは緩やかに滅びの道を……」
「せっかくですが、セラフィナ様」
やや強い口調で、アリアーネはセラフィナの言葉を遮る。
「このペンダントは私には派手すぎるようです」
「そう……」
セラフィナは一瞬だけ表情を歪めたが、すぐに平静を取り戻す。
「まあいいでしょう。いずれ戦いの末に、あなたはあなたに相応しいものを手に入れるのでしょうから……行きますわよ。クライナー」
「はいはい、女王様……申し訳ありません。アリアーネさん」
クライナーはおどけた笑顔でアリアーネに謝罪の言葉をかけて、セラフィナを追って去っていく。
「あの人、なんかいけ好かない感じですよね、アリアーネさん!」
「こらこら。仮にも相手は一国の女王様なんだから、そんな風に言うなよ」
「………」
自分の事でもないのにぷりぷり怒るリーゼに、それをたしなめるレヴィン。
アリアーネは黙って視線を落としていた。




