第3話『無理がある』
大分投稿期間空きました。トリテです。
リアルが忙しくなりそうなのでまた空くかも。
それはさておき、テンポの悪い第3話をどうぞ。
前回までのあらすじ
突如起こった火事で命を落としてしまった主人公、降魔極。目を覚ましたら、そこは白い空間だった。自分を神だという老爺からは、自らの死の真実を聞かされ、異世界転生を勧められる。ストイックを目指すキワムはついに異世界に降り立つのだった…
☆
「なんだろうなぁ…これ。」
能力の発動も板についた。ある程度のコントロールもできるようになった。
だが、圧倒的に足りない物がある。
「威力がなぁ…」
あまり攻撃的ではなさそうな能力なのは察しがついていたが、あの弱体化は完全に想定外だった。
俺が選んだ能力は、『金属を操る能力』。
使った感じ、「操る」という部分に語弊があるような…そんな感覚。
そして朝から色々試してみたところ、色々とわかった事がある。
まず、錬金術のように「無」から金属を生み出すのではなく、しっかり素材が必要になる。
金属になるのであればなんでもいいらしいのだが、特に何も持っていない状態では、血中の鉄分が元になるようだ。
そのためか、昨日は妙に寝覚めが悪かった。
…そりゃ、寝起きからだるさと目眩が襲ってくるなんて誰も思わないだろうさ。
完全に貧血の症状だ。鉄分が一時的に足りなくなって起こる貧血の事なんていうんだっけ…鉄欠乏性貧血?
とはいえ、食事をとって数時間大人しくしていれば症状はなくなったので、多分一時的なものなんだろう。
受付嬢が昨日、
『レベルが上がっていけば弱化の効果も気にならなくなるほどにはなるかと…』
なんて言っていた。
そして、今無理をしない程度に金属を作り出そうとすれば、精々デザート用スプーンが一つできるくらいだ。
つまり、後のことを考えると、そんな大量に作り出せるものではないという事。
「こんなものどうしろって言うんだよ…」
ため息混じりにそんな事を呟いていると、
「おめえが噂の転生者かい?」
と、やたらと野太い声で話しかけられた。
「多分、そうだけど…というか、もう噂になってるのか?」
「まぁな。なんたって、弱い転生者が来たって噂で持ちきりだからな。」
「…受付嬢経由か。」
昨日、受付嬢が他の冒険者と親しげに話している様子を見かけた。あの様子なら俺の事を話していてもおかしくはない。多分、嬉々として。
「転生者は向こうの方じゃねぇか、とか言われ始めてるぜ。」
と、親指をさした先には…
…やはりというか、なんというか…女子に囲まれて楽しげに話しているヴィーテがいる…
それはそうだ。俺とは全くもって比較にならないほど飛び抜けたステータスにあの容姿ときた。
同性受けがいいのがよくわからないが…
それとも男からは神格化でもされてるのか?
…まぁ、神だし…違和感はない……
それはそれとして、この世界での転生者の扱いが大凡わかってきた。
まず弱い転生者が来た事が噂になっている。そして、あの受付嬢の反応と併せて考えると、この世界では、
「転生者=ぶっ飛んだ強さ」というのが定石のようだ。
…もろなろう系だなぁ。
「で、どうすんだ?」
「…え?どうする…って?」
色々考え込んでいたせいで突然の問いかけに反応できず、相手の言葉をほぼそのまま返してしまった。
「おめえがこの世界に来たってこたぁ、何かしら目的があってきたんじゃねえのか?」
「そこまで分かるものなのか?」
「おうとも。転生者ってのは自己顕示欲が強いのか、聞かれてもないような事を唐突に話し始める奴も多くてな。」
「…あぁ……うん…。」
そしてこの世界の転生者は、人間として色々ダメな奴らが多いらしい…
「来た目的…か。」
「…とりあえず自分に厳しく、ストイックにやっていきたいだけなんだよな。」
「・・・」
返答に対して驚いたのか、目を丸くしてこちらを見ている。
「…おめえ、本当に転生者か?それとも死んだばかりだから錯乱してるのか?」
「この世界の転生者の認識どうなってるんだよ」
☆
「…はぁ」
今日はため息が多い。
その後も適度に心配されつつも色々な情報をくれた。
まず、ジョブ…所謂ファンタジー職業に関して。
まず冒険者登録をすると、その人の魔力値、筋肉量、知能などが自動的に割り出され、適切にステータスに割り振られる。
そのステータスを元にどの職業に適正があるか、などを通達する。
この『適切に』という部分がミソらしい。
仮に筋骨隆々な男がいたとする。
普通、筋力や体力などのステータスが高く、魔力のステータスは低くなる。
だが、これが逆になったりしたら。
本来適正のないジョブである魔術士に適正があるという処理をされてしまう。
しかも、一度決めたジョブは上位職にランクアップする以外では、変更は難しい。
こうなってしまうと何がまずいかって、冒険者を危険に晒してしまいかねない。
十分に、あるいは全く力を発揮できないジョブで危険なモンスターにでも遭遇したら。
そんな事がないとは言い切れない。
そのため、職業適正に関しては、細心の注意を払いながら行われている。
…の、だが。これが転生者ともなると話は別。
転生者の中には、頭おかしいステータスを引
っさげてくるような連中もいる。
そういうのが来た場合、まぁステータスの割り振りの過程が間違っている可能性が出てくる。
そのステータスが本当なのかを確かめる必要があるというわけだ。
その確認方法がえらく面倒なんだとか。
確認には、魔試晶という魔道具が必要になる。
込められた魔力量によって、少しづつ色が変わっていくかなり貴重な代物らしい。
で、少し魔力を込めてもらって、その魔力量や質からステータスの真偽を判断するのだとか。
転生者の中には、少し魔力を込めただけで水晶を壊してしまう連中もいる。
…ありそうな展開だなぁ
『やっとまともな人が来た』
そりゃ、あんな事も言うって。あの受付嬢。
…で、話が大分それてきているが、話を戻そう。
そんなジョブだが、当然いくつか種類がある。
近接武器を扱う兵士、魔術に長けた魔術士、間合いを取り、飛び道具中心の戦いをする遠離戦士、神に仕える聖職者など、色々。
あとはその中で細かく分かれているのだとか。
で、適正を特に持っていない、もしくは適正のある職にまだついていない冒険者をまとめて術闘士と呼ぶらしい。
多分、俺はラウンダーを貫き通すと思う。
☆
…で、俺が今何をしているかだが、クエストに向かっている。
クエスト名が『厄介者のたたき売り』
…妙なセンスを感じる。
依頼者のコメントがあったが、『たたきにあったから代わりにぶっ叩いて!』と言う感じだった。
"たたき"というのは窃盗や強盗を指す隠語。…らしい。「ぶっ叩く」ともかかっているのだろうか?で、商人が依頼者…「叩き売り」にも…
…これ以上はやめておこう。
この世界の住民は、色々アレな模様。
何にせよ盗まないぞ、俺。
内容は「ゴブリン10体の討伐もしくは撃退」。
撃退でもいいのだが、討伐の方が報酬金が多く出る。なるべく討伐を狙っていきたいところだ。
☆
「えーっと…この辺であってるはず…」
乗ってきた馬車が視界から遠ざかっていく。
で、一方ヴィーテは…
「…」
遠くから傍観かぁ…
「当然といえば当然か…」
それより俺が心配しなければならないのはもっと別の事だ。
俺の能力が実戦において十分使えるものなのか。
そこが最も肝心。
いざという時にはギルドから支給された鉄の剣でどうにかする。
「さぁこい、ならず者!」
一抹の不安を精一杯かき消そうと気合いを入れる
…この時は、思いもしなかった。
昨日の実験から薄々勘付いてはいた。…けど、もっと酷い結果になるなんて。
☆
「…あぁ…うん…わかってた…わかってたよ…」
結論から言うと、まったくもってダメだった。
いや、ダメなんてもんじゃない。あれはもうどうしようもない。
本当にそうとしか言いようがないんだ、これが。
一応何が起こったかと言うと…
──────────────────────
『…!あれか…!』
遠くから複数の小さな影が走ってくる。
腰に布を巻きつけた下っ端を、頭にバンダナを巻いたリーダー格のゴブリンが率いているようだ。
『ヒィャハァーッ!新しいカモだ!身包み全部剥いじまえ!』
『ウイィーッ!』
いかにも盗賊といった内容の会話。最初の敵にしてキャラが濃い!
『へっへっへっ…さぁ、お前がもっているもの全部置いてってもらおうか…』
持っている短剣をこちらに向けながら荷物を寄越せと言ってくる…
『…』
台詞からして三下。
こうして実際に刃物を向けられていると少し怖気付いてしまうが…
『断る!』
こんなもので怯んでいられない。序盤のモンスターに遅れを取っていてはストイックも何もない。
『野郎ども!やっちまえ!』
『ウイィーッ!』
こちらに渡す気は無いというなら奪うのみか…
『よし…!』
出し方も、コントロールも大丈夫だ。
あとは、実戦での強さ…!
『うおぉぉおっ!』
バシャッ!
『……なんだあ?』
『……。』
気合の入った声。固まり切った覚悟。それらをあざ笑うようなショッボい威力に情けない擬音。
…うん。まぁそりゃあそうだろう。
小さいスプーン一個がやっとなのに、大した威力が出るわけがない。
…わかってる。わかってた。みなまで言うな。
せめて何かこう…少しでもいいから殺傷力を…
『…へっ、こんなもんでオレが…って、うぐぉぉぉっ!?』
『頭領ァ!?』
『えっ…?』
『めっ…目があ…!目が…!』
『…』
…運良く目の辺りに命中し、目に入ったようだ。
『…あ、じゃあ動けないうちに…』
すかさず構え、
『撤収ーーッ!』
ヴィーテを呼び、俺達は馬車まで全力で走った…
──────────────────────
…とまぁ、こんなわけだ。
撤収したのは、あのままゴブリンを叩いても倒しきれる気がしなかったし、仮に倒せたとして他のゴブリンが一気に襲いかかってくるかもしれなかったからだ。
「…あの。」
ヴィーテが何か言いたげにしている。
「…なんだ?」
「当たりどころが良くなければ最弱のモンスターすら足止めできないのは流石にどうかと…」
「…わかってる。みなまで言わないでくれ…」
…やっぱりこれじゃ、ストイックも何もあったものじゃない。
これから、どうしようか。
【クエスト:「厄介者の叩き売り」】
《Quest Retired...》
今まで次回予告的なので台詞を並べたものを書いていましたが、思いつかないときはやりません。
次回第4話『解決策』