表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2話『ストイックで生き始めたい』

味を占めていないので初投稿です。

異世界ストイックの二話目になります。一話見てない方がいたらそっち見てからのがいいかも。(ステマ)


前回のあらすじ


突如起こった火事で命を落としてしまった主人公、降魔極。目を覚ましたら、そこは白い空間だった。自分を神だという老爺からは、自らの死の真実を聞かされ、異世界転生を勧められる。

ストイックを目指すキワムはついに異世界に降り立つのだった…






「っ!」



強い光に包まれ、思わず目を腕で覆った。



そして段々と光は弱まり、徐々に視界が戻ってきた。



「ついに…異世界に…!」



そして、完全に光がなくなった。



最初に見えたものは、果てしなく広がる草原だった。



柔らかな草がそよ風に靡き、陽の光が当たって、緑と白のグラデーションを醸し出す。



草食動物らしきものも遠くにちらほらといて、草を食んでいた。



「…モンゴルってこういう感じなんだろうな」



いかにも「のどかな平原」といった雰囲気だが…



「…あれ?何もないし誰もいない…」



近くには建物も人も見当たらない。町らしきものも皆無だ。



そして、神が言っていたナビゲーターも当然見当たらない。



「…なんか…思ってたのと、違う。」



てっきり街中にテレポートされて、そこから始まるのかと思っていた。



が、どうやら違う様子。いきなりわけのわからない草原に立たされている。



さっきまで平和な草原だと思っていたこの場所が、どこまでも同じ風景が続く樹海のように見えてきた。



「…そこまでストイックにやれ、と?」



まず拠点にする場所を探さなければならない

…のだが、そもそも何も知らない土地で街を探せなんていう事自体がまず物凄く大変だ。



その上、ここはどこまで続いているのかわからないような平原。このまま歩くと遭難まっしぐらというのは自明の理というやつだ。



「場合によっては今夜中にあの場所に戻る事になるぞこれ…」



『転生して1日経たずに死にました』なんてラノベのネタにもならないし、笑い話にもならない。



…騙されたか?と、思った時だった。



天から一筋の光が差し、目の前を照らす。



「今度はなんだ…!」



そして差し込んだ光の中に、人影が見えた。その人影は徐々に降りてきている様子だった。



「…なんてベタな…」



神というより、宇宙人な登場方法だ…



そして、人影が地面に完全に降り立った。すると差し込んだ光がなくなり、人影の正体がはっきり見えるようになった。



「…ナビゲーターってこんな登場するのか?」





「…」



そこにいたのは、ホライゾンブルーの長い髪の女性だった。

雰囲気には荘厳さや偉大さが感じられる。



まさしく『神』といった感じだが…こちらを見つめる視線に慈悲などなく、氷のような瞳で射抜くような感じ。



イメージの中にある女神とは大分違うような…



女神って全てを受け入れ、抱擁してくれるようなオーラがあって、博愛の具現化という感じじゃ…



…そんな女神、鉄板すぎて逆に見た事ないけど。



「…あなたが、ゴウマ・キワムさんですか?」



こちらが口を開く前に向こうが質問してきた。



ハープの奏でる美しい音色を思い出させる、透き通った声。…やはり、女神のようだ。



「降魔極…は俺だけど…」



「そうですか。…既にご存知かと思いますが、私があなたの異世界での活動を補助する、という事になっております。」



「…はぁ。」



「…あ、そうだ。名前を教えて欲しいんだが…」



「わざわざ転生者に教えるような名前はありません」



「ええ…」



…なんか、冷たくない?



ナビゲーターってもっとこう…接客業の従事者みたいなのを想像してたんだが…



愛想がないというか…事務的というか…



…いや愛想とかそういうのの問題じゃないな。

これ単純に転生者毛嫌いしててそれが出てるだけだな。



私情ぶつけられてるな。



(…神さまとでも呼べばいいのか?)



呼び名に困っていた時、



『これディアーナ。そんな態度をとるでない。』



突然、声が聞こえてきた。



『お主、すまんのう。彼女は人が苦手なんじゃ』



「…まぁ、それは別にいいんだけど…」



「この女神様、ディアーナって名前なのか?」



『昔の名前じゃよ。今の名前で呼ぶと嫌がるんでのう…』



どうやら名前が二つあるらしい。



「…デウス様、口を挟まないでいただけますか」



と、目の前の女神が不服そうに割り込んできた。



『そういうな。気持ちはわかるが、不満を他人にぶつけちゃいかん。ましてや案内の対象じゃ。』



「…ですが…」



『仕事に私怨を挟むなと前から言っているじゃろう。少し静かにしてなさい。』



「…はい。」



これまた不服そうに頷いた。



『…ところでお主よ。』



「なんだ?」



『ディアーナの呼び名じゃが…神の名前で呼ぶわけにはいかん。』



「なんかまずいのか?」



『まぁそういう戒律があってな。神での名前を呼んじゃならんのじゃ。』



「…へぇ」



『まぁそんなわけでお主の好きなように呼んでやってくれ。新しく名前を創っても構わん。』



「…俺が神の名前をつけるのか?」



『そういうことじゃ』



「…」



責任重大というか…荷が重いというか…そんな気軽な物でもないような…



『ディアーナ、自己紹介くらいしてやりなさい』



「…わかりました。」



俺の要望に答えるつもりはさらさらないようだが、あの神のいう事には渋々ながら従うらしい。



「申し遅れました。私は命と祝福の女神…ディアーナと申します。」



「降魔極だ。よろしく頼む。」



とりあえず親しみの第一歩として握手を求める。



「…神以前に、女性の体に気安く触るものではありませんよ。」



「…」



ど正論で返されました…



「あ…それはごめん」



『ディアーナ…』



「…あーいいよ。易々と握手なんて求めた俺の方が悪かったんだから。」



『…そうか。とりあえずディアーナの呼び名を決めてやってくれ。』



「そうだな…」



これからずっと呼んでいく、ましてや神の名前だ。安っぽいものは避けた方がいい。



と考えて、あるアイデアが浮かんだ。



「なぁ、ラテン語ってわかるか?」



『…ラテン語?わからんことはないが…』



「よし。じゃあ俺とだけ繋がるようにしてくれ」



『承知じゃ。』



と、一旦目の前の女神に聞かれないようにしてもらった。



本人は、変なネーミングをされないかという心配が少し顔に出ているが…



「それで…」



『ふむ…』



と、しばらく名前を二人で考えた。





『悪くない…いや、良い感じじゃ。』



「…よし、これでいこう」



『では、また何かあれば連絡しよう。細かい事はディアーナに聞くのじゃ。』



「…答えてくれる…よな?」



『流石に業務くらいはまじめにこなしてくれる…と思うが』



「じゃ、ありがとう」



「…ふう」



通信が途切れ、俺は改めて女神の方を向いた。



「…それで、どんな名前なのですか?」



「あぁ。少し率直というか、直球だが…」



「『ヴィーテ・ベネディクトス』でどうだ?」



さっきまで神と話し合って決めた名前を提案。



『ヴィーテ』はラテン語で「命」、『ベネディクトス』も同じくラテン語で「祝福」という意味の言葉だ。命と祝福の女神だから、という理由で。



「…」



開いた口が塞がらないのか、困惑しているのか…



「…とりあえず何か言ってほしいんだけど」



返事がないのがきつい。



「そうですね…まぁ悪くはないと思います」



決まりだ。



「じゃ、改めて…よろしく、ヴィーテ。」



「…はい」





「ところで周りに何もないんだけど…」



兼ねてからの質問をしてみる。転生していきなりこんか草原とは思っていなかった。



あのデウスという老神はこの世界の事を

『いわゆるファンタジー』と表現していた。

だからいかにもRPGに出てきそうな街に転送されるのかと思っていたのだが、この通り。



俺の幻想はいずこへ消えてしまったのやら。



「…あなたが単純な発想すら思いつかない人ということは理解しました。」



「…え?」



物凄く呆れた風にヴィーテがストレートに言い放った。



「後ろです。後ろ。」



「後ろ…あっ」



言われるままに後ろを振り向くと、そこには



「…城壁?」



「外壁と言った方が正しいかと。」



「この辺り、特に危険そうな雰囲気はないんだが…過剰防衛気味じゃないか?」



「あぁでもしないと市民から苦情が来るようで…今だとあれが世界基準です」



「…」



なんで所々生々しいんだよ…



「…とはいえ、大したモンスターもいないこの近辺では、あなたのいう通り過剰防衛なんでしょうね。」



…やっぱりなぁ。あと…



「なんか…かなり態度冷たかった割には、色々答えてくれるんだな」



最初の方に最悪な第一印象を持たれたにしては、ちょっと親切なような…あれ?それとも俺、感覚麻痺してる?



最初がアレすぎたせいで、今の感じを親切に思ってるのか?



「…一応、仕事ですし。」



「これ以上私情を持ち込むとまたデウス様に怒られてしまいます。」



まぁ予想はできてた。そんなところだろうとは思ったが。



「決して、あなたに優しくしようと思ったわけではありませんので、悪しからず…」



「…」



そこまでストレートに言われると清々しい…



…そして、後ろを振り向くという至極単純な思考に辿り着かなかった自分が情けない…



「では、案内を開始します。」



「…頼んます。」





「この近辺は取り立て危険なモンスターもいませんし、武具素材も豊富にあります。なので、駆け出しの冒険者が集まるのです。」



煉瓦に似た赤い色の石タイルが敷き詰められた道を歩きながらバスガイドのような説明を受ける。



「やたらと武器屋や道具店が多いのはそれでか…」



観光地の土産店か、と思うほどぎゅうぎゅうに立ち並ぶ店。



そして、その影響か人の通りも相当なものだ。説明の通り、見たところ装備が揃っていなさそうな冒険者が大半、残りは市民か商人といったところだ。



そのせいか、視線がやたらと集まる。

…ヴィーテに。



「おい…あの子めちゃくちゃ可愛くねーか?」


「本当だ…あんな綺麗な子今まで見た事ないぞ…」


「心なしか輝いて見えるな…」


「まるで女神のようだ…」




「…」



本 物 だ け ど な。



今すぐ声を大にして言いたい。本物だ、と。



…だが、あの神が言うように、この世界で神の名や関連する事を言う事には少し特殊な事情が伴うのかもしれない。



…あー、言いたい。



「冒険者に必要なものはこの辺りで大体揃います。種類も豊富にあるので、色々のぞいてみるのもいいかもしれませんね。」



視線より何より、俺はこいつが気になる。



何って…こいつ…


声 に 感 情 が 全 く 籠 っ て な い ん だ よ 。



普通だったら嬉々とした表情と声で紹介するところ、本当に無機質で無感情な感じで淡々とやってるんだよ…!



…どんだけ嫌いなの。俺のこと。



「着きました。」



なんて事を考えてたら、いつのまにか着いていたようだった。



(…どこに?)



目の前にあるのは、大きな建造物。

前面に盾と剣の紋章…いや、そういった形のステンドグラスが確認できた。



「ここが冒険者ギルドです。」



「これが…」



この街の冒険者が所属し、冒険者稼業を統括している、ギルド。



どんな冒険者がいるのか。自分が冒険者としてどうなっていくのか。楽しみだ。



「…一つ、いいですか?」



説明をあらかた終えた後、向き直って尋ねてきた。



「なんだ?」



「ずっと気になっていたのですが、その前髪は何ですか?」



「…前髪?」



と言われて、前髪を触るが、特に違和感らしい違和感はない。



「前髪、一部だけ私の髪と同じような色になっているの、すごく気になるんですが。」



「えっ」



思い切り上を見てみると…



「…白っぽい?」



確かに変色している。白というよりも、薄いアイスグリーンという感じだが…



「…染めてます?それ」



「染めてない。おかしいな…」



染めた覚えも脱色した覚えもない…



まぁ異世界のデメリットのようなものだろう。うん。何に作用するかは知らん。



それはさておき、とにかくここはギルドの真正面。目の前の扉の向こうには、修羅場をくぐり抜けてきた者達の仕事場だ。



ここを開ければ、俺の新しい人生がスタートする…!



俺は扉を押した。



ギギッ...!



重々しい音が鳴り、徐々に開いていく扉は建物の内部を俺たちの目に映さんとしていた。



「おお…」





ギルドの中は、大衆食堂や酒場に近いもので、

大体の部分が木材で構築されているようだ。

先程のステンドグラスや天窓から光が差し込み、明るさは十分。

探せば俺のいた世界にもありそうだ。



「レトロだな…」



感想を述べていると、



「おい、そこのあんた!」



と、声を掛けられた。



「ん?」



「あんた見ない顔だな。…まさか、転生者か?」



「転生者…多分そうだと思う…」



転生者…というのは、おそらく俺のように別の世界からやってきた者のことだろう。



「…あぁ…そうか…またか…」



…なぜか、目が死んでいる。

俺が転生者と確定した途端、目が死んだ。



「?なぁ、それってどういう…」



「…あぁ…また転生者が…」



俺の質問がそもそも聞こえていないのか、それとも答える気がないのか…



ともかく、穏やかではなさそうだ。



「あっ、新規参入のご希望でしたら右奥へどうぞ〜!ご注文でしたらフードコートのテーブルにお掛けください!」



と思っていたら給仕らしき女性が親切にも色々と教えてくれた。



「右奥ね…」



言われた通りに右奥の方に行ってみると、なにやら窓口のような物が。

そこで作業している受付嬢の人がこちらに気づいた様子。



「何かお困りでしょうか?」



「あ、新規参入をしたいんですが…」



「新規参入の方ですね。でしたら…」



窓口の下の方に潜り込んで紙を二枚渡してきた。



「こちらの書類に必要事項を記入して下さい。」





「詳しい事はそちらの受付の方からお聞き下さい。では私はこれで失礼します。」



踵を返して帰ろうとした。



「ヴィーテ。」



「なんでし…」



有無を言わせず一枚の書類を押し付ける。



「…これは?」



「お前にも書いてもらう必要がある。」



「?付添人の証明が必要なんて聞いた事…」



『冒険者新規加入申込書』



「…あの、これは…」



「俺をサポートしてくれる、ってこういう事だろ?それにまだ俺はわからない事だらけだ。」



「だからと言って…」



「そんな事言わずに…わかってきたらもうヴィーテは帰っていいから…」



「そういう問題では…」



「そういう事だから、頼んだ」



「…」



説き伏せられる自信がなかったため、無理やり押し付けることにした。

流石に戦力的に俺一人では無理がある。多いに越したことはない。



「…」



不服そうな顔をしながら書き込んでいく。

向こうからすれば理不尽極まりないだろうが…



さて、必要事項の内容は…



『転生者ですか? ◽︎はい ◽︎いいえ』



「…」



初っ端から何これ。いきなり転生者か否かを聞いてくるのか…



「爆発的に増えたんだな…」



そう思うことにしよう。



その後、名前や出身地などを記入して提出した。



「…あの、ひょっとして転生者の方ですか?」



また聞かれた。この世界は転生者にトラウマでもあるのだろうか。



「…そう…ですけど…」



「…あぁ…また…めちゃくちゃな…」



「え…?」



「…あ、いえ。では魔力素質を調査します…」



と言うと、横に取り付けてあった出入口から出てきた。



「では失礼します…」



そう言って手をかざす。

すると、自分の体が軽く光り出した。



「…?」



と、受付嬢が何か納得いかない感じで首を傾げている。



その状態のまま、ヴィーテの魔力素質の調査を始めた。



「???」



するとさらに納得のいかない感じになり、再度首を傾げた。



「…?」



「では少々お待ちください。」



気を取り直した様子でそう告げた。





10分は経っただろうか。二人とも思い思いに時間を潰していたところ、



「ライセンス発行、ステータス判明、終了しました!」



と受付嬢が声を掛けてきた。



「ライセンス…?」



「冒険者である、という事を証明する物になります。このライセンスがなければクエストの受注ができないといった仕組みになっています。」



「では、ステータスを読み上げさせていただきます…まずはゴウマキワムさん…全ステータスが…平均…平均!?」



完全に素の反応で驚かれた。



「えっ、あの、本当に転生者の方なんですか?」



「そうですけど…」



「本当ですか?」



「…はい…」



転生者…平均的なステータスで驚かれる…

うん。なんとなくよめてきたぞ。



と思案していたところ…



「うぅ…よかった…」



「やっとまともな人が来てくれた…」



と言いながら膝から崩れ落ち、安堵しきった顔をしていた。



「…あの、どういう…」



「あぁ、すみません…」



「少し昔から、転生者が増えてきてて…それでステータスがぶっ壊れレベルの人が本当に多くて…能力もチートクラスで…本当に無茶苦茶な人が多かったんです。そういった人たちに来られるとこちらも難儀して…」



「だから今回みたいなまともな人は久しぶりで…そう思ったら…安心感で…力が…」



「…」



素晴らしく苦労してきたらしい。



「じゃあ、転生者って言ったら冒険者の目が死んでたのは…」



「そういう事です…自分たちの出る幕がなくなって、普通の冒険者の立場が食われてるので、皆さんもそういう態度なんです。」



「…」




それでか…



「取り乱してしまい、申し訳ありません…ではステータスの読み上げを再開します。」



「先程も少し申し上げたように、全ステータスは平均的で、バランスが取れています。魔力容量がやや高めですが、他に突出した能力は見当たりません。…転生者特有の能力持ちですが、強すぎるわけではありません。」



「へぇ…」



「今お渡ししたライセンスから自身のステータスは確認できますので、お確かめ下さい。」



全体的に平均的、魔力が高め…まぁ及第点と言ったところだろうか。



「続いて、ヴィーテ・ベネディクトスさんですが…」



きた。俺が今一番気になっているのは、こいつのステータスだ。女神のステータスはどうなるのやら…



「全体的に…高すぎます…というか、転生者の方でもこんなステータスそうそういません…」



「全てのステータスに…ケチのつけようもない…とんでもない数値です…」



「そうですか…」



「あ、それと…」



「?」



「転生者の方には、ペナルティというか…ハンデとして能力やステータスを弱体化させる決まりがありまして…」



「弱体化…」



…大したことない俺が弱体化されたらシャレにならない



「ですが…キワムさんはステータスは平均的で、能力もそこまで強いわけではありません。」



「…って、事は…。」



「でもごめんなさい!弱化!」



「嘘ぉ!?」



かざされた手から青色の光が放たれ、体にまとわりついた。



「あぁ…敢えて強すぎない物を選んだのに…」



後悔もつかの間に、ある事が気になった。高すぎると言われたヴィーテのステータスだ。



ヴィーテが受け取ったライセンスを横から覗き込み、その異常なステータスを確認してみた。



…その瞬間、心が折れ掛けた。





「…」



俺は今、心が折れそうだ。



だってそうだろう。俺のステータスは、高いと言われた魔力が大体100くらいだ(平均は70前後)。他は20〜30程度。極めて標準的だ。



だが覗き込んだヴィーテのステータスはというと

全ステータスが3桁後半。モノによっては4桁。



こんなん心折れますて。



…まぁもうしょうがない。弱くなった能力でどうにかしよう。



受付嬢によれば、レベルを上げれば能力も相応に強くなるらしい。



長い目で見れば大した事はない。



で、ヴィーテの方は…



「あんた、すごいんだな!」


「どうやったらこんなステータスを!?」


「憧れちゃいます〜!」



と、そんな風にちやほやされている。しかもまんざらでもない感じだ。



…あれはあれで放っておくとしよう。



さて、クエストに行く前にやらなければならない事がある。



一応、ヴィーテがいた方がいいかもしれない…のだが…



あれにどうやって取り入るかが問題だな…





「…クエストにはいかないのですね。」



先程とは打って変わって、転生した時に送られた草原にやってきている。



「まずは確かめたい事があるんだ。…それにしても、わざわざついてこなくても良かったのに。」



「あぁ、それは…あなたを死なせない理由ができたからですが。」



「…ロクでもない事はわかるけど、一応聞いておこうか」



「この世界での生活が楽しくなりそうな事が

予想されました。」



「ですが私はあくまであなたのナビゲーターとしてこの世界に降り立ったわけです。」



「あなたに死なれてしまっては、この世界で生活できません。なのであなたに死なれるのはとても困るのです。」



「予想以上にくだらなかった…」



「あと一つ言っておく事があります。」



「何だ?」



「私はあなたの戦闘に加担しません。」



「…戦ってくれないのか?」



「そういう事になりますね。」



「なんでだ?」



「私は命と祝福の女神です。冒険者というのは、モンスターを倒して生計を立てる職業でしょう」



「そんな私が、モンスターを次々倒していったらそれはそれで問題になります。」



「命を管理する立場上、生き物を間引きする事はありますが…それはあくまで世界の釣り合いを保たせるためです。」



「不要なまでに命を倒す職業に加担するわけにはいきません。」



「…なるほどね」



「それに私はナビゲーターですから。」



「あくまでもナビゲーター、って立場か…」



「…よし、この辺でいいだろう。」



適当な場所で足を止める。



「…特に何もないようですが」



「そもそも何を?」



「練習だよ。能力を使うためのな。」



いくら弱体化を食らったとはいえ、序盤からずっと使っていく予定の能力だ。そもそも使えないのでは話にならない。



「まずは能力を出す感覚を掴まないと…」



「…」



(しばらく私は暇になりそうですね…)





「・・・」



俺はいま、困惑している。



能力を出す感覚は掴めた。この様子ならコントロールも難しくはないだろう。



だが…



シュルルル パシュッ



規模がショボすぎる…



さっきから俺が飛ばしているのはとんがりコーンくらいの大きさの流体金属だ。



俺が選んだのは、「金属を操る能力」だ。

名前を聞けば強そうだが、あたりは草原。金属など微塵もない。



おまけに弱体化している。先の事も考えると、この規模が限界だ。



かなり場所を選んでしまう。



さらにいえば、さっきからめまいがする。消耗する、と言っていたのはこういうことか…この症状は撃てば撃つほど酷くなる。



流石にもう立っていられなくなり、そのまま倒れこむ。



『ストイック、やるか』程度に考えていたこの異世界ライフ。



こんな調子で大丈夫だろうか。

次回予告


「…まさかザコ敵も倒せないのか」


「流石にこれはどうかと思いますよ…」


「ますます不安が…」


「ストイック…過ぎる…」


「しばらくレベル上げに専念するぞ。」



第3話『無理がある事しか証明できない』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ