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第8話:常識的な範囲

(1)先方の接触を待ちつつ、こちらはあくまでも一般の生徒を演じる。

(2)今日の放課後、三年の九鬼さんと会って本件の情報を共有しておく。


 以上がお昼休みでの話し合いで決まったこと。


 なお、九鬼さんに会うより前に服部が寄ってきても、常識的な範囲でやんわりコミュニケーションを避けておくことにする。もしかしたら、九鬼さん関係のトラブルかもしれないからだ。巻きこまれるのはごめんである。


 九鬼さんには優香さまが、

《こんにちは。西園寺です。校舎を囲っている結界もどきには当然お気づきでしょう? その件についてお話したいと思います。放課後、お会いできますか? 駅前のスターバックスコーヒーで待ってます。》とメールを送っておいた。


 ちなみに、優香さまは九鬼さんに携帯の番号までは教えていない。入学時にメルアド交換したっきりだ。優香さまの秘密に踏み込みかねない者は可能な限り遠ざけておかなければならない。

 東日本亜人協和会の懇親パーティーで知り合って以来、九鬼さんは優香さまのことをかなり気に入っているみたいだが、ハッキリ言って迷惑! 優香さまも「ちょっと苦手かな」って言ってるもん。


 返信はすぐにきた。

《了解した。できれば二人っきりで会いたいんだがなあ。》


 優香さまはあきれてため息。わたしは「黒子邪魔」という裏腹の文意に腹を立てた。


 ★


 ――キインコオンカアンコオオン


 6限終了。すべて世は事も無し、だ。

 さきほど食堂から教室にもどったとき、授業がはじまる前に山田にさり気なく聞いておいたところでは、服部の放課後の予定は剣道部関連の挨拶だか稽古だかで埋まっている。

「清應名所めぐりは明日だねえ」と、いままさに山田が服部に話しかけているのが聞こえてきた。


「うあ……かがくのじかん、おわったの?」


 優香さまのお目覚めだ。


「はい。もう放課後だよ。スタバに行こう」


「……ふたばってなぬの?」


 だめだ。いまの優香さまはかなりダメだ。


「黒子ちゃん」


「へ?」


 突然声をかけられ振り返ると、山田と……服部だ!


「あのさ、服部さんが黒子ちゃんと話したいって」


 な……なに言ってんのこのメガネ? すごく迷惑なんですけど?


「え、ちょ、ほら、わたしさ、お姉ちゃんがこんな具合だからすぐに帰らなきゃ大変!」


 優香さまはカクンと首を横倒しにし、ゆらゆら危うげに身体を揺らしている。睡魔と戦っているのだろうか?


「え、西園寺さんならいつものこムギャ!」


 思わず山田に飛びついて首を極めるわたし。おおやまだよしんでしまうとはなさけない。

 ――余情報。優香さまはみんなに西園寺さんとか優香さんとか呼ばれていて、わたしは黒子とか黒子ちゃんって呼ばれています。いっしょにいるときは西園寺姉妹でひとくくり。


「……わかった。それでは、明日また」


 服部はまったく動じず、無表情にそれだけ言うと、きびすをかえして教室を出て行ってしまった。ポカーン。拍子抜けだ。


「ゲホ、ちょっと! 黒子! いきなりなにするの! 死んだらどうするの!」


 復活した山田が涙ぐんでまくしたてる。


「ごめんごめん。つい、ほら、こう、ね! わかるでしょ?」


「ぜんぜんわかんねえよ!」


 なにはともあれ、うまく切り抜けた。山田のおかげか?


「ありがとう山田!」


「なんだそりゃなめんな!」


 おお、怖い。このメガネ、結構本気で怒ってるぞ。


「ところで服部さん、なんだって? どうしたの? どういうこと?」


「チッ! ごまかしやがって。まあいいわ。あのね、ちょっと気になることがあるって言ってたわ。それだけ。黒子の方では心あたりないの?」


「ないないない。ゼンゼンナイヨー」


 即答。


「ふうん。ところで、お姉さんが掃除の邪魔よ」


 指摘されて優香さまに振り返ると、あらかわいい! 組んだ両手を胸元に添え、小首をかしげるようにして眠っている。おいたわしや。睡魔に負けてしまったんですね。

 写メろうと携帯をごそごそ取り出している掃除当番の男子らを追い払い、優香さまの耳もとに口を寄せた。


「お姉ちゃん、朝ですよお」


「んーん」


「お姉ちゃん、朝ですよお」


「んーん」


「お姉ちゃん、朝ですよお」


「んーん」


 しかたがない。


「お姉ちゃん、朝ですよお。フッ」


 耳に息を吹きかける。


「ん!」


 おおお! と周囲の男子がどよめく。優香さまは驚いてぴょこんと跳ね起きた。


「なに? なに? あれ、あの、どうしたの? あ、わ、私ったら、その、ね、ねむくて……」


 瞬時に状況を把握した優香さま。声はか細くお顔はまっ赤である。

 ちょっといじわるな起こし方だったかもしれないけれど、九鬼さんとの約束があるからいそがないと。


「それじゃ、バイバイ、また明日!」


 強引に挨拶。きゅっと優香さまの手を握る。「さっさと帰りましょう」の合図だ。

 教室を去り際、優香さまが赤面したままみんなに小さく手を振ると、同じく赤面気味の男子らが、おのおのもごもご曖昧にサヨナラを返したのだった。やれやれ。




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