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第6話:冷ややかガール

 背丈はわたしより高く、優香さまよりちょっと低い。目算で165センチ程度。ヘアスタイルはいまどきめずらしいポニーだが、高い位置で結んでラフに散らしているのでなかなかオシャレだ。おくれ毛の残り具合が逆三角形のフェイスラインとやや切れ長な“おめめ”によく似合っている。全体的な印象としては「人を寄せつけないタイプの和風美人」ってところかなあ。優香さまのほんわか人を和ませる雰囲気とは真っ向真逆の冷ややかガールだ。あ、制服、セーラー服かあ。一度は着てみたかったなあ。

 ……って! ルックスチェックしてる場合じゃないよ!

 まあ、とりあえず、いきなり襲いかかってくるわけではなさそうだが。


 ダン! と音を立てて教壇を踏みしめる転校生。生徒一同、びくっと身を震わす。


 これは……演出だ!

 結界の力が総じて微弱な場合、回路を確実に形成し浸透させるのには虚仮おどしも有効。被効果者の意識が単線化すればするほど制圧しやすくなるからだ。つまり彼女は、結界の確認と後押しをしている。なんとわかりやすい挙動か。十中八九、こいつはクロだな。しかし……


「ん? んんんん?」


 転校生の全身を眺め見て、わが目を疑った。腰に……カタナ?


「……黒子! 注目しちゃダメ……!」


 小声の注意が背中から飛ぶ。そうだ、知らんぷり――


「――!」


 一瞬、転校生と視線がバチッと衝突してしまったような気がするが……どうだろう? 彼女のあごのあたりに焦点をずらし、漫然と見るともなく見る。腰のカタナは消えていた。なんだろう? 幻術? なんのために?


「……服部忍はっとりしのぶと申します。静岡県は御殿場市より参りました。今しがた鹿波教諭よりご説明いただきましたよう、剣道部に所属し本校に貢献したく存じます。以後、お見知りおきを。なにかご質問は?」


 教壇に立ち、胸を張って睥睨し、朗々と言い放つ。みんな金縛りにでもあったかのように身動きひとつできないでいた。服部は満足げにうなずくと、横目でカナミンをうながした。


「お、ああ、ありがとう。では服部くん、きみの席は一番うしろの真ん中だ。なにかわからんことがあったら……おい、委員長」


「は、はい!」


「クラス委員の山田だ。とりあえず彼女に聞きなさい。山田、よろしくな。時間があったら、校内を案内してあげてくれ」


「はい。わかりました」


 ふむ。山田を間に挟んで情報収集できるかもしれないな。


 ★


 国語総合、

 数学1、

 英語2、

 現代社会。

 ――4限終了。


 淡々といつもどおりに授業がすすんでいった。とくになにごとも起こらない。

 授業と授業の合間で軽薄な男子が服部にいろいろ質問していたが、けんもほろろにあしらわれていた。隣近所の女子が気遣うように声をかけるのには比較的やわらかい調子で応じていたようだけれど、それでも表情は頑固に硬い。あれがデフォルトなのか。

 結界の効果はおそらく「転校生を受け入れるべし」といった感じの、ごくシンプルな想念の植えつけだろう。効果がみんなになじんで、事実として定着すれば結界も取り払われるにちがいない。力の源は結局のところ術者の魔力そのものなので、ただ設置してあるだけでもじわじわ消耗するし、術式構成をたどられると術者の魔力特性や居所が割れてしまうからだ。気になるのはチラッと見えたカタナだが、あれは一体……


「うう……しゃかいのじかん、おわったの?」


 優香さまのお目覚めだ。優香さまは『グルナール』の服薬により、いつでもどこでも5分以内で寝られるほど睡魔となかよくなられているため、生徒を指さない教師の授業はあっさり放棄しがちなのである。それでいて成績は学年トップなのだから、うらやましいと言うかなんと言うべきか……


「はい。お昼休みだよ。学食に行こう」


 外では基本的にこの口調。いつまでたってもなれなくてドキドキしてしまうのだけれど、決していやではない。ある種の“ごっこ遊び”にすぎなくても、きっとやさしい思い出になるだろうから。


「はれえ? きょうはおべんとうじゃあなかったあ?」


 ふにゃふにゃした口調でズレたことを言う優香さま。起きたては意外にダメな人なのだ。それにしても、敵かもしれない奴がすぐ近くにいるっていうのに……大丈夫なんでしょうか?


「お姉ちゃん、お弁当は月水金でしょ。今日は火曜日だよ。席がなくなっちゃうよ」


「それはこまるう」


 ガタタッと音を立てて起立する優香さま。わたしは手を握って歩行をうながす(いつものこと)。クラスのみんなの生温かい視線に、射るような鋭い視線がまじっているのに気がついたが、あえて無視。優香さまがここまでぐにゃぐにゃにリラックスしているということは、いまのところ「警戒しない方がよい!」ということだ。たぶん。


「ねういよお」


 とりあえず、わたしは曖昧な状態にある優香さまの手をひき、地下一階の学食へと向かった。作戦タイム、かなあ?



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