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第2話:7時20分

 さて、前回の説明で、なんとなくでも状況をのみこんでいただけたでしょうか? こういうふうに、ひとさまにわたくしどもの事情をお教えするのには慣れていませんで、たぶんわかりづらいところもあっただろうと思います。

 でもまあ、みなさんが魔女その他の人外に接する機会はまずありませんので、ごく大雑把な理解で問題ナシですよ。この世のなかには、そういうね、魔女やら吸血鬼やらの超常種がいて、なんとなく人間社会に溶け込んでいる、と。なかには恣意的に人間たちに害悪をもたらそうとするものもいるけれど、そのほとんどは共存派の猛者によってすみやかに排除されています。

 問題は例の敵対派です。魔女の領域のみでなく、他種族においてもそういう連中はうじゃうじゃいます。あいつらは計画的で非常にタチが悪い。共存派もそれぞれの種族で戦団を組織して対応しています。敵対派とて人間に存在をおおやけにされることは望んでいないので、隠蔽に関してはラクなんですけどねえ……。

 あと、そうそう、ときどきあらわれるんですけど、人間のくせに超常種を狩らんとする輩もいます。わたしたちとは異なる仕方で魔術的な攻撃を仕かけてきます。かれらはどうも、なんていうか、こちらの社会性というか、共存派の理念などにはまったくの無知で、しかも「聞く耳持たん!」といったスタンスで襲いかかってくるので本当に困ります。唐突に仕かけられたら、こっちだってつい反撃しちゃいますよ。というか、正当防衛ですからね。


 ……それとあと、ええと、なんだろう、事前に知っておいていただきたいことはこのくらいかなあ。基本的には人間と同じように生活してるわけなのですよ。吸血鬼の人(?)たちだって代替血液で間に合わせていますしね。結局のところ、人間たちが形成している社会にある種の居心地のよさを感じていて、それを尊重していこうと、そういうスタンスです。わたしなんかは、生まれたときから人間社会にどっぷり浸かってしまってますから、テレビとかエアコンとか、自動車とか電車とか飛行機とか、いわゆる文明の利器をあたりまえのように受けいれていて……というか、本当にあたりまえなんですよね、感覚的に。人間の友人だって普通にいますし。

 そう、人間の友人だっているのです。わたしと優香さまは、東京都は港区の私立清應高校に通う、ごく普通の女子高生なのです。今年の春に入学して、いまは夏休みが終わったばかり。残暑の厳しい長月。ああ、夏休みが終わってしまった……

 ちなみに、清應は超名門なんですよ。偏差値すごいですもん。優香さまはともかく、わたしはすっごく苦労しました。京香さまには「もし受からなかったら“優香専属”から降ろすからね!」って笑顔で言われて、もうどうしたらいいかと……。

 でも、優香さまが「いっしょにがんばろうね!」って勉強をみてくれたんですね。ホント優香さまのおかげでグングン成績が伸びていって、中学はなんと次席で卒業することになったのです。あ、もちろん主席は優香さま。卒業式では「いやあ、お姉さんのおかげだなあ!」って先生に言われて、それだけでもすごくうれしかったけれど、そのときそばにいらした優香さまが、

「いいえ、先生、黒子自身の努力のたまものです。私も負けちゃいられないゾ!って、切磋琢磨できましたもの。私ひとりでは、きっと清應には合格できなかったと思います」って(一字一句おぼえてます!)。もー!


 ハッ! 取り乱してしまいましたね、スミマセン。

 現状は要するに、優香さまの妹として清應にもぐりこみ、とりあえず平和な毎日を送っている、といった感じです。いっしょのクラスになるのにちょっといろいろ暗躍させてもらいましたけれど、まあ必要なことなので、優香さまにも怒られませんでした。

 優香さまいわくは、

「私たちが本当に、心から人間と共存しようとするなら、人間にとって脅威である私たちの力を自ら封ずる覚悟が必要でしょう。それが人間として生活するうえでの礼儀だと思う。だから、なるべく力を使わないで、黒子にも人間としての生活を楽しんでほしいの。私には、その……秘密もあるし、あなたにそばにいてほしいから、理想論を貫けない弱さがあるけれど、なるべくなら、ね?」とのこと。私の知るかぎり、優香さまが力を行使するのは性別を秘するときのみ。本格的な魔術を西園寺邸地下の「学習室」以外で行使したことは皆無です。


 あれ、ええと、いま何時かな? ん、7時……20分? あれ? ちょっ、ヤバ! 支度しなくちゃ遅刻しちゃう! ゴメンなさい、次回からは実況中継的にわたしと優香さまの毎日を語っていくので、とにかくいまは、あれ、リボン? どこ? ブラウスはこっちに掛かってるから――



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