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第11話:B型でしょ!

「放課後、屋上で」


 4限が終わってすぐ、服部が声をかけてきた。

 今朝はまた、わたしのバタバタのせいで本鈴ぎりぎりの登校になってしまっていたし、授業と授業の間の休みは実験的に露骨に避けてみたから、服部もちょっとあせったのだろう。さて、どう答えよう? とりあえず「了解」かな。


「わか――」


 った、と言おうとしたらば、


「いまここでもいいでしょう? いっしょにごはんを食べましょうよ」と、優香さまがわたしをさえぎるように提案した。すると服部は目をぱちくりさせ、片手を口もとに寄せて思案しはじめた。想定外だな、といった感じ。


 沈黙。なんとなくつらい。


「わたしたちは今日はお弁当だけれど……」


 ふぐぁ! なんでわたしが助けぶねを?


「……ああ、そうか。私は食堂だ。放課後ではだめか?」


 服部は腕を組み、ややうつむき加減に視線を落として言った。


「わか――」


 った、と言おうとしたらば、


「でも、屋上は生徒立入禁止ですよ。駅前のスターバックスではだめかしら?」と、優香さまがわたしをさえぎるように提案した。すると服部は目をぱちくりさせ、片手を口もとに寄せて思案しはじめた。想定外だな、といった感じ。


 沈黙。なんとなくつらい。


「なんならわたしのおごりでもいいよ」


 なんで? なに言っちゃってんのわたし? くぅぅ……なぜかつい!


「待ってくれ。すたあばっくすとは……なんだろうか?」


 は?


「は? スタバだよスタバ」


「黒子、ちがうよ。ええっと……あのね服部さん。駅前の喫茶店じゃだめかしら?」


 優香さまがやさしい口調で言いなおした。あ、そうか。そういうことか。いや、でも御殿場市にもあるだろ、スタバ。……服部め、あやしいぞ!


「ん? ああ、喫茶店か。しかし、西園寺優香。優等生のきみが、そんな不良のするようなことをしていいのか?」


「ちょ、おいおい、不良? 放課後に喫茶店に寄って? ありえないありえない」


 わたしはすっかりあきれはて、片手を中空でぶらつかせながら言った。ありえないって。


「しかし」


「服部さん。そういうことなら大丈夫よ。それとも、喫茶店ではいけない理由があるのかしら?」


「……!」


 一瞬、わたしたちと服部の間に冷たい空気が流れる。優香さまは天使の笑顔で小首をかしげているけれど。


「あとね、服部さん。服部さんは妹に“だけ”用事があるみたいだけれど、私も同席させてもらいますからね」


 にっこり。優香さまは魔力をほとんどゼロにまで絞りこんでいる。

 優香さまほどの超大な魔力を持っていると、湧出する魔力を抑えるのにも一苦労なはずなのだけれど、もはや傍らのわたしには検知不可能なほどだ。素質のある一般人の方がよっぽどわかりやすい。

 しかしそういえば、いま目の前に対峙する服部からも、魔力的な気配は感じられない。先日の教壇でカタナを視認したときも感じられなかった。ましていまは結界を張っている真っ最中なわけだから、とらえやすい状況のはず。

 とすると、服部がクロなのを前提として推し量るならば、こいつもかなりの力量の持ち主。力の調節に長けているのだ。


「……わかった。放課後、その喫茶店に連れて行ってくれ」


「ええ。それでは」


 服部は無言でうなづき、きびすをかえして教室を出て行った。空気がやわらぐ。すると遠巻きに見ていたのだろう山田が小走りに寄ってきた。


「ねえ、どうしたの? なんだって?」


「べっつにい。血液型を聞かれただけだよ。そういうの好きなんじゃないの?」


 われながらテキトーなことを言う。優香さまは「やれやれ」といった感じでこまったような微笑を浮かべた。


「血液型? そういえば、西園寺さんと黒子ちゃんの血液型って? あ! 待って、当ててみるから」


 なんだ、山田もそういうの好きなのか。――ちなみに、魔女の血液型は人間と同じように峻別されます。使い魔の場合はいろいろですが、すくなくともわたしは人間と同じです。つくづく、超常種は不可思議な生き物だなと思いますね。


「はいはい。当ててみ」


「黒子ちゃんはB型でしょ! いや、むしろ《ドB》って感じね。気分屋で落ちつきなくて感情的でドジでマヌケだもん」


 こいつ……


「西園寺さんはAB型ね! 繊細でやさしくて、それでいて客観的で、なにより天才肌! あと、おとなしいようでいて自分の考えをはっきり主張できる人!」


 優香さまはこまり顔で、ほんのり頬を赤らめた。


「どうよ」


 なぜか見下すような視点で山田は言いくさった。


「ちぇ! 合ってるよ」


「へっへえん!」


 鼻高々だ。


「……山田は絶対B型だろ」


「よくわかったわね! 意外じゃない?」


 こいつ……


「まあまあ、ごはんを食べる時間がなくなってしまうわ。山田さんも私たちといっしょに食べませんか。お弁当でしょう?」


「そうね! いま持ってくるからちょっと待っててね!」


 そう言ってドタバタ自分の席へ走っていく山田は、まったく学級委員らしからぬ落ちつきのなさをかもし出している。しかしあいつ、ダメな子っぽいのに成績優秀なんだよなあ。まあ、優香さまの方が上だけどな!


「山田さんには、今日の放課後も服部さんは用事あるって言っておかなくてはね」


 優香さまは学生鞄からお弁当を取り出しながら、つぶやくように言った。




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