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幸福戦争  作者: 薪槻 暁
第三章~ヒトとヒトとの闘い~
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3、プロローグ

 第三章、本日から始めたいと思います!


 今回の章ははとあるテログループとの対峙がメインとなります。前章は「人とヒト」の違いや内国状況を問い詰めた話しでしたが今回はざっと言えば「ヒトとヒト」の戦いとなると思います。。。


 守るべきものが対立する時、僕たちはどのような行動に走り、そして生きるのか。


 どうか身近なことだ考えて読んでくださると嬉しいです。。


 では。。

 君は自分、自らの居場所に違和感や意義を見いだせていないかと考えることはないだろうか。


 母国で生まれ、育ち、生きる。そんな基本的な機械的事象にそうではないと異論を呈するのは簡単なことだとは言えない。元から、つまり生きる以前から決められた半契約的な事柄によって束縛されている僕たち、人間とは己の外的な身体は制限出来ようとも、内的な変化は避けられようがないのである。例えば物心だ。生まれる時期は曖昧であるのに、「大人」とカテゴリ化するグループに属している時にはすでに持っている。それは周知の事実であり、変えようとは誰も思おうとはしない。それこそが半ば、束縛された生きとし生ける者の宿命であると諦めているのだ。


 そんな講義を幾つか耳にした僕は、後残りが酷いようで頭の中で先の言葉が反芻している。


 まさに講義を聴いている瞬間にはあまり印象深くないとは思っても、段々とその言葉を重ねるうちに重要かつ明瞭な事柄であると理解してくるのはよくあることだ。


 五感で感じるものではないそれは、内から徐々に僕の頭を侵食するかの如く膨らんでいく。


 それこそが数少ないアカデミーにおいてアンドロイドでも代用できない職を手にした主なる理由であるのだと知ったのは彼と出会って会話をするまで分からなかった。


 彼、琴塚徳留(ことづかとくりゅう)|はそんな人間的な事象を固めに固めたような人物としか見えなかった。



 僕は前回の作戦から主な戦線を離れ出来得る限りの情報収集に専念していた。それは単に戦場を恐れたために逃避した結果論ではなくこの国こそが主な戦場であるからだった。この国に対して珍しく反抗するテロ組織に入ったわけでもないが、心の内で考えてしまっていては彼らとは基本的な要素として挙げれば同類なのかもしれない。


 けれど、それに対して非を唱えるように僕には「作戦命令」という僕からではない、上からの命令で動いている名義があるからこそこうやって活動している。


 報道関係からは縁を断ち切っている人物(琴塚)と顔を合わせるには連絡手段を要しないのは鉄則である。ちなみに彼の方はアカデミーに限りなくゼロに近い存在で属し、国内唯一の哲学論を展開している。技術や論理を専攻するいわゆる理系と呼ばれる部類を除き、学問という名のそれはもうすでに荒廃と化した。にもかかわらず、未だに机上で脳に詰めていく作業を行う学生は少ないながらも消滅するには至らない。そのパイオニアであるのが琴塚であり、彼は人間を客観視するこの国には必要不可欠な人間だった。


 重要視される人の数が減少傾向にあるのはそうと理解している人間が少ないからである。目の前で起こる事象に過敏に反応し恐怖を煽られてしまうのは、そもそも僕たち人間が最低限な知識を得ていないためであるということをこんなに長い歳月が経った今でも理解していないのは愚者としか言いようがない。そう言って彼なりの独自の講義を進めていく展開には魅せられたものだった。


 このドアの向こうにこの思考の原因となった人物がいるとなると少しばかり不安に駆られるがそれでも興味の方が勝った。


 木製で丸型のドアノブを握り開くと、そこには小さすぎる部屋に配置されたらしい本棚の中で溢れんばかりの本達が悲鳴を上げているようだった。一方で自分の居所を手放した本達は床に乱雑に横になっている。



 僕は自分の背を丸め、おびただしい数の本の中心で椅子に座る彼に会釈した。


「こんにちは、琴塚さん。この度はお忙しいところ押しかけてしまい申し訳ありません」


 彼は怪訝そうな目ではないようで、穏やかにこちらに話しかけてきた。


「いえいえ、それはお気になさらずどうかゆっくりしてください」


 皺が寄った瞼と口周り、彼は御年80を迎え21世紀初頭を過ごした貴重な人間である。前世紀の日本国は超高齢化社会と呼ばれるほど年老いた人々が人口の殆どを占めていた。解決策も見えず、ひたすらに子供を増やす児童計画を遂行しても財を無駄に浪費した当時の国家政治家は国民から追放される運命をたどった。

 その中で台頭し現れたアンドロイド、いわゆるマザーは国財年齢分与を行った。それはつまり文字通り国の財の数パーセントを年齢分付与し、ゆえに高齢者は裕福層を独占することになった。


 それだけで済めばよかったのだが、彼はその余った金で海外旅行を勧めたのだ。お彼岸旅行と称して全国にかけて海外に行くように奨励しその旅費を国が負担した、というわけである。


 もちろん、なんの躊躇もなく行った人、疑問に思いながらも我が最愛の子供に勧められて行った人などが大方を占め、殆どの高齢者と呼ばれる人々は国外に出ていった。


 一週間、ちょうど母国が恋しくなる頃だろうか、その時期から帰国の準備に取り掛かろうした時。


 『貿易鎖国計画』


 テレビなど、多くの媒体で多国に渡って報道された。


 鎖国、その名の通り国を閉じ帰国を不可能にする言葉、計画。一方的に打ち出した経済計画は他国の政治家に困惑の念を匂わせたのだが、その当事国、日本という国は自国の住民には一切話そうとはしなかった。


 帰国して来ないと不思議に思った親戚などの関係者にはメール、電話、ファックスなどで海外在住証明の文通を行い全てを隠蔽したのだ。


 すでにそこから僕たち日本国の住民は犠牲を伴った「幸福」を味わって来ているということのようだった。



 だからこそ、彼のような長年母国を共にしている人間は貴重な逸材だと理解され始めたのはここ最近のこと。



 僕はどこか深い傷を抉られるかもしれないという恐怖を持ちながら話を始めることにした。

 読んでくださった方々有難うございました!


 プロローグということもあって少々説明が過ぎてしまったのではないかと思っていますが、物語の世界観を掴んでいただけたでしょうか。。


 今後も後書きに話の説明文を付け加えたりなど、分かりやすい注釈を入れようと考えていますのでどうかこれからもよろしくお願いします!


 次は会話が多くなると思いますのでどうかご一読してくださればと……


 では。。

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