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幸福戦争  作者: 薪槻 暁
第2章~人ならざるもの~
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2、交錯する意志

こんばんは。本日も投稿させていただきます。。


タイトルのとおり、各個人の意志が垣間見える回となっております。。


 そこに至るまでの彼らの苦悩と葛藤が伝われば嬉しいです。。。


では。。

「次はお前の番だ」



 無慈悲に不合理に発せられる宣告に俺は全くと言っていいほど抗えなかった。一人また一人と死に行く友は何も言い残さず散っていったのに異論を提せなかった。



『なぜこんなことをするのか』



 俺は何度もその疑問を問いただしてきた、本当に考えるべき問題なのかそうでないのかと。それでも心の内で反芻するだけで口に出すことは俺にとって難易度が跳ね上がるようなものだったのだ。


 もし、この国に主が消失すれば俺の友人、家族を守ることが出来る。だがその引き換えに全国民の安全に支障をきたしてしまう。国内の内戦や調和などのバランスを取っているのは他でもない彼なのだから。


 そうして優柔不断の俺は友人を失い、ともすれば家族さえも姿を消していた。



「爆薬を持って各一室に待機、人の気配を感じ取ったら爆破しろ」



 生きることにおいて何の希望もなくなった俺は他のメンバーの気遣いなんて出来なかった。そのまま俺もその一員に入り込み使命を果たそうと心に決めた時だった。



「お前はここに残れ、私の警護に当たるんだ」



 爆薬の代用として持たされたものは小銃だった。失い続けた命の重みと比較するまでもなかったからであろうか。上半身ほどの大きさのそれは当然初めは重たく感じたが、持ち歩いているうちに徐々に軽くなっていた。そして不思議とその銃口を覗いて見る姿は彼しか思い描けなかった。


 ようやく掴んだ機会、俺はここで終止符を打つと決めたんだ。






「俺はお前を許さない。死んでも恨み続けるだろう」



 僕が背後を振り返るとそこには数時間前の僕のような人物が立ち尽くしていた。彼が持つ小銃は連射機能が備わっているはず、それなのにただ一発のみ彼――マスターに撃ち込んだのは憎悪に駆られたからなのだろうか。一瞬の間で息の根を止めてしまえば相手側に苦しみを味わわせてやることが出来ない、ならば死にたいが死ぬことが出来ない境地に至らせれば良いと考えたのだろう。


 当の本人、マスターは微弱な笑みをその頬に浮かべガラスにもたれ掛かるだけ。その笑いがさらに警護人の怒りを触発したのだろう。



「なぜ笑う」



 息をすることもままならないような装いを醸し出しながら口にした。



「私は……私はね、今のお前のようになりたかった」



 抗えない、口答えが不可能なような立ち位置に立つ人物に自分のようになりたかったなどと言われたとき、どんな顔をすれば良いのか。彼は内心そう呟いていたのだろうか、僕からはただ呆然としている表情しか見えなかったが。



「私は彼らの言う通り生まれた時から元来孤独だった。身体や感情の成長はいくら長い年月を経ても変わらず、ひたすらに時が過ぎていくだけ。そのうち目の前に存在する人間もいつか消えるならいつ消えても構わないだろうと思い始めたのだ。私がそれを実行すると君たち人間は私を見る目ががらりと変化していった。こんな極悪人などなぜ生きているのかという醜態な目だ」


「私こそ思ったさ、どうすれば感情というものが生まれるのかと。同位置に立ち他者を愛するにはどうすれば良いのか、アガペーではなくフィリアという概念を知りたかった、感じたかった」


「だが植え付けられたシステムには抗えないのが現実だった」


「君たち人間に分かりやすく言うと『誰かを愛せなくなる」ことと同類なんだよ。家族、友人でさえ他の人々と変わらぬ視線でしか捉えること出来ない。まあそもそも私にはそんな人物存在しなかったのだがな」



 全国民の命を守るために主に逆らえない人間と、己の自己構成から逃れられないアンドロイド。


 もしこの場に僕以外の人間がいるのなら彼もまた同じ感想を抱くだろう。



『彼ら二人が同じ人のように見える』と。




 静寂に囲まれたこの一室を打破するように彼ーーマスターは言い放つ。



「だからこそ、この席を立たなければならない。他者に任せるのは私で終わりを迎え、新たな世界を創り直すのだ―」



 ただ独りぽつりと溢した彼の言葉は酷く脆そうなもので、



「ヒトの世界はヒトが執り行うべきであるというのは当たり前であることに何故気付かなかったのだろうな」



 そうして目を瞑りながら彼は息を引き取った。痛みに苦しんでいるのかも分からない表情のままで。





 




「暗殺……ですか?」



 作戦内容を一度で理解が追い付かなかった僕は再び目の前の人物に問う。



「そうだ。拘束ではない、消滅させなければならない」


「他国に干渉するのが僕たちの仕事ですが、やりすぎではありませんか?」



 今までに例を見ない殺害命令に僕は驚きを隠せない。



「それだけ今回は特殊ケースだということだ」


「恐らく訪れれば君たちも痛いほどそれが分かるだろう」


「なぜ、拘束ではなく消滅なのかを」




 僕の脳内に映写される作戦遂行前の僕とマザーとの会議風景。


 今ならなぜ彼がそんな命令を下したのか理解出来る気がする。そして僕にそれを伝えなかったのは自分の罪だということを意識してしまっている為だったのかもしれない。



 お読みくださりありがとうございます!


 登場人物の思いを汲み取っていただけたでしょうか。。


 他者によって、または世界によってと制限をかけてしまうものは無限に広がっていますね。。


 害となることがあれば吉となり幸福をもたらすこともある。。要はバランスが重要だということです……



では、また明日お会いしましょう。。

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