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幸福戦争  作者: 薪槻 暁
第2章~人ならざるもの~
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2、地獄の概念

こんばんは。今回は早めの投稿とさせていただきます!


タイトル通りの回となりますが、今回は少し気合を入れた作風となっておりますのでお楽しみに。。。


と言っても今まで気を抜いて書いたつもりはなのですが……


それでは、物語に入り込んでいただけるよう。。


よろしくお願いいたします。。

 汚染された廃棄物の最終処分場のような空気と湿り気、建物は殆ど崩壊の道を辿り、なぜ瓦礫の山に至らないのか不思議に感じる。

 地上に出ても昼夜の区別が不可能であるのにもかかわらず、ここはさらにその地下。ヒエラルキーの最下部に陥った住民が暮らす地。


 僕たちの寝床をこんな陰気で危険が蔓延する地に決めたのは理由があるというのは言うまでもない。母国、日本の真似事を遂行しているこの国を侮ってはならないという警句を自分たちに叩きつけたのだ。地上に身を乗り出し、食料品の買い出しに行くだけでも街頭モニターや排水溝に設置している体温識別式チャンネルから住民層をあぶり出し個人情報を取り出す。

 紛い物の安全性といえども、方法は僕らが行っているものと近い。だからこそ、地上で暗躍するのは地下とくらべれば難易度が数段跳ね上がると計算したのは、皮肉にも彼ら――マザーと他アンドロイドたちだった。


 僕らは地下を散策しながら地上への抜け道を探索した。



「どこを通っても金属音、重機音だらけ。人間の声が聞こえないな」


「生活しているのか判断しかねるね。そもそも人間の営みが破綻しているようにもとれる」



 さっきまで潜伏していたアパートやマンション、とにかく人が住む居住スペースから徒歩10分といったあたりだろうか、周囲一面重機材や廃屋のような工場群が連なっている。道ならざる道を歩いているのでところどころ金属片が群がり、人間の遺骸も片手が埋まっていたりと死地のような場景をさらす。



「破綻というより、そもそもここは人間界なのか?」



 彼の言葉に大袈裟だという意味は含まず、単に心から感じたものだということは隣に歩み寄っている僕は直に感じた。



「英国とはまた別の地獄だね」



 海辺には炎と瓦礫の山が積み重なり、内地に足を踏み入れば人の気配が感じられないほどの静寂に包まれる。僕は荒野と化した地を思い出し呟いたのだが、彼はそうではないようだった。



「いや、違うな」



 僕が詳しく問いただすよりも先に彼は言葉を続けていた。



「地獄の階級が違いすぎる。俺たち、人間としての知能を身に着けた者が判断すればあんな生半可なもんじゃない。生きている場が違いすぎる、そもそも人間的な特徴を剥がされているんだ、対比する方がおかしいほどさ」



 自分の立場さえも理解できない彼らはまさに機械の如く、同モーションを繰り返すのみ。よく彼らを見れば自分たちの存在意義なんてそもそも抱いていない虚無に侵された目をしていた。



「その証明にだ」



 僕は彼よりも先に答える自身がふいに湧き出た。それは積み重なった戦地での経験訓のためなのか、今の僕には理解できなかった。


「塔がない」



 彼は意外そうな眼差しで僕を見つめて語った。



「よく分かったな。そう、人間的希望の建造物がここには存在しない。簡単に言えば人間らしさというか『生きたい』っていう思いが一切感じられない。それにだ」


「人間を装うカモフラージュすら感じられない、アンドロイドが指揮を執ったとしても最低限行うべき事項を実行していないとは…これこそ今までに見たことがないケースだ」



 僕は他国に干渉するこの仕事を快く思ったことはこれが初めてのような気がする。僕の心というか気持ちはただ一つある思い一色に塗られていたのだ。それは、憤りという陳腐なものだった。










 地獄とは様々なものがあるらしい。過剰なほどの熱を浴びさせられるものや、その逆で体が壊死するほどの冷たさ。永遠とループする苦しみや痛みを与えられるものなど、ありとあらゆるもので埋め尽くされる。


 けれどそのどれを取っても人間が考えたという前提は変わらない。頭に浮かぶ苦しむ姿を想像しないのでは本当の地獄とは言えないのかもしれない。彼らにとっては。



 よく地獄に落ちないために宗教を重んじているという人々を耳にする。自分の日頃の行いを改めて他者を傷つけないための抑止力の意味合いをもつそれは、今まで人間社会においてどれほどの重要度を持ち合わせていたのだろうか。



「大丈夫か?」



 ありとあらゆる地獄の断片を一瞥した僕はようやく現実世界に戻ったようだ。どうやら僕は辺りを散策したあと、すぐさま部屋の簡易的なベッドに横たわってしまったらしい。



「軽くうなされていたぞ、悪い夢でもみたのか?」


「ううん……平気。少しだけ考え事をしていただけだよ」


「まあ、ここんところ忙しいことが連続続きだからな。しかもこの国の惨状をこうもむざむざと見せつけられたら気も滅入っちまうのは仕方のないことだ」


「そうだね……だからこそ早くこの作戦を終えたいと願うばかりだよ」


「その件なんだが、今さっき周辺の実際に歩いたデータとマザーからのものを照合したのが終わったぞ。ちょうど地上へのルートも複数発見、危険性を比較したサンプルデータも得られた。探検の準備ならもう整っているような状況だ」



 僕は即座に彼からの提案に回答した。それは僕自身が考え抜いた結論ではなく第三者から押し付けられたような責務のように感じたのだ。



「了解、分かったよ。明日から地上に降り立とう」



 そして僕たちはこの地獄に終止符を打つための戦場へ赴くことになった。









 誰も住んでいないスペース、居住地区であるはずの場所に人の気配が近づいているのが薄々と感じる。マザーからのリソースでは最過疎地域のここは人通りが皆無だった。



『気づいたか?』


『YES』



 僕たちは簡易的な情報交信機具――右手に着用しているデバイスで現状を把握する。



『あれは軍部じゃないな』



 彼の判断は当然勘でもなく想像でもない、彼なりの統計学的に計算つくしたものである。近づいてくる者の歩き方や足音の立て方からどんな人物かある程度予測出来てしまうのだ。



『ただの民間人だ。だが変だ、何か違和感がある』



 僕も彼と同意見だった。今までと違う感覚であるそれは、、



『まずいっ、緊急経路を使用する』



 僕と彼は同時に部屋の窓から飛び出した瞬間だった。空中から見える僕たちの部屋は灼熱の炎が纏わりつき跡形もなくアパートは崩落した。



「完全な人だ。自覚や意識、知能が備わった普通の人間だった。ここの人間ばかり気にしていたから本当の人間の特徴を捉えられなかった。多分それが違和感だ、本当は見えないものがこの場に居続けたせいで強制的に見えるようになったんだ」



 自分の意志でここに赴き僕らを消そうとした、それは変わらぬ事実。



「こりゃあ、行く先真っ暗だぜ。どうする?」



 僕たちが潜入していることが知られてしまった以上、スパイとしての意義も失った。



「どうするもなにも、もう時間がないね」



 僕の半分諦めと決心した思いに気付いたのか邪悪な笑みを浮かべながら、



「ああ、なら強行突破しかないな」



 僕とケリーは即座に住処を離れ地上へと一目散に走っていった。








「PLANα、どうやら失敗したようです」



 人工的と言いつつ、人間らしさという特徴を最大限に醸し出した内装。おびただしいほどの派手な装飾はむしろ人間から離れていると感じさせてしまうのは言うまでもない。


 その中で最も華美な椅子に堂々と座る人物、それは中国当局中央支部の特務長官。


 彼は己の口をさぞ重たそうに弄びながら開いた。



「ははっ、そうみたいだな。そもそもお前たちなどに当てにしたのが失敗した本質なる原因だということだ」



 嘲笑を含むその表情から内心を探るのが困難であるのが余計に不気味に装う。感情を決して開かぬ扉の向こうに置き去りにしているかのような笑み。



「し、しかし、このままでは時間の問題ではないでしょうか。あの二人が既に私たちの居場所を掴んでいるという可能性も拭えないですし……」



「どこからそのような考えが浮かぶのだ」



 重圧と重低音を最大限に高めた声、軽量な嘲笑からはうかがえないだろう調子。彼の真顔に再度平伏する臣下の面はもはや冷静を失う勢い。



「戯言申し訳ございません……可能性の問題であったことをどうかお許しください」


「もういい、下がれ。二度とそのような虚言を口にするな。この国の歯止めが効かない内戦に終止符を打ち安寧を築いたのは我々だ。いや、もしやそもそもお前たちは過去の出来事など忘却の彼方へと置き去りにしたのではなかろうな?」


「何度も心得ている所存でございます。貴方様がその御座にお座りにならなければ私たちも生き延びることはまず不可能でございます」


「ほう……ならもうよい。PLANβを遂行することに専念したまえ、結果を出すのだ」



 下げていた頭をさらに深く傾け、平伏する姿を周囲に示すただ一人の青年は、



「マスターの仰せのままに」



 彼というより彼ら、人間の代表として自らの主に誓いを立てた。


お読みになってくださった方々、ありがとうございました。


地獄とはどんなものか。これは人間特有で長年抱いている問題ですね。死の淵に立たされて本当に地獄に落ちそうになった、そんな体験をした人もいるそうです。


とここからは話の解説とします。。


彼らが味わったように違和感だったものが違和感と感じなくなることはままありますね。。

たとえば海外に行った時はそうですね、その土地の文化、風習に慣れてしまうと帰国したときその行動を行わないことに違和感を覚える。そんな感じです。


そんな麻痺をしたような感覚は肉体的というよりも脳神経的なように思えますね。


と、短くなってしまいましたが解説はここまでにします。


物語はここからさらに展開していきますので、ご期待くださいませ。。。



最後になりますが、この物語についての話や思ったことなど何でもOKなので何か違和感などがありましたらお気軽にお声掛けください。。


それでは、また明日よろしくお願いします。。。

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