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空に舞う蒼い風  作者: サワキ マツリ
3/3

~第一章~ 恋愛模様 その3

 無数の本が整然と並んでいるフロアを、翔子は檻の中にいる小動物を観察するようにしてゆっくりと眺めて回る。真新しいカバーを巻かれた本が港に荷揚げされたコンテナさながらに整然と並ぶ様はいつ見ても壮観だった。それをいつまでも飽きもせず眺めていられるのは単純に、いや純粋にこの光景が好きな証拠なんだろうな、とつくづく思う。翔子自身の意思とは別に、新刊本が平積みにされているコーナーにある人気作家の推理小説を手に取ってページを繰っていた。プロローグを読み終える頃になって初めて我に返る。買ったものかどうかしばらく思案してから、翔子は手に持っていたそれを布団のように積まれている本の山の天辺に置いた。別に買いたいものが他にあるといった訳でもないのだが、衝動買い同然にそのままレジに持ち込むのは些か気が引けた。そういう一目惚れに近い感覚は大切にしたいものの、もう少し吟味する余裕があってもいいはずだ。

 視界の右端にいる巽を顎を上げた格好でチラリと盗み見た。暑くないのか、夏の陽が差し込んでいる窓際でスポーツ雑誌を熱心に読み耽っている。何もデート中にそんなものをわざわざ読まなくてもいいのにと思う向きもあるかも知れないけど、何かに夢中になっている姿にはいつも純粋に惹かれるものを感じる。部活が終わって、自転車置き場の隅で時間を潰すのに飽きた時は大抵グラウンドに行く事にしている。さっきまで翔子達がいたテニスコートとは違い、グラウンドには巽を含めたその他大勢の汗臭い男子が白と黒のマダラのボールを泥塗れになりながら追いかけている。

「今年こそはレギュラーになりたいな」

 帰る道々、巽は暮れかけた夏の夕焼け空を何処か遠い目で見ながら溜息混じりにそんな言葉を呟く事がこれまで何度かあった。そんな時は、いつもより気持ち少しだけ丸まっている巽の背中を景気よく張り倒す事にしている。最初はビックリしていた巽も、翔子と顔を合わせると大抵いつもの晴れがましい顔を見せてくれる。それが嬉しかった。気持ちの切り替えが早いんだね。何気なくそう言った時、それまで顔を綻ばせていた巽が途端にギクシャクした。訝る翔子に、巽はしきりに鼻の下を人差し指で擦りながら翔子から顔を背けていた。少し寂しい思いがしたが、それも最初だけだった。そうやって必死に照れるのを隠そうとするのも、そしてそれを悟られまいとしてバレバレなのも、そのどちらも噛み殺そうとした笑いで口元がわなないてしまうくらい可笑しくて、それ以上に可愛かった。そしてそんな巽が誰よりも愛しかった。その場で抱き締めてキスしなかったのは人目があったからだ。部屋で二人きりだったら間違いなくそうしている。

 巽は自分の目標を叶えるべく、日々ボールを追い続けている。たまにパスを取りこぼしたり、上手くあがったセンタリングに合わせられなかったりする事もあるけど、カウンターと取られた時は真っ先に自陣に戻り力士がマワシを取って組み合うようにどっしりと身構え、攻める時は誰もいない場所を常に観察し、誰よりも早く動き回って相手を撹乱する。決して器用ではないけど、それでも自分なりに工夫して全力で走り続けている。そんな後ろ姿が好きだった。 

 作者別に五十音で振り分けられた棚の前を通った時、一際分厚い本(文庫本サイズだ)を見かけて思わず手に取ってしまった。巷ではレンガ本とかサイコロ本と呼ばれていると聞いた事がある。それほどまでに分厚く、そして読み応えもある。一説によると、彼は三作目の本をおよそ二、三ヶ月ほどで脱稿したらしいけど、あれほどの量をたったそれだけの期間で書けてしまう集中力はちょっと尋常ではない。本を読みはしても、文章を書く事など翔子も殆どしない。あるとすれば夏休みの読書感想文か、課題でレポートを提出しなければならない時くらいだ。それでも原稿用紙を十枚書くのに四苦八苦する。それを、あれだけの量をたったそれだけの期間で書き上げてしまうというのだから驚くしかなかった。思わず頭をナタで割って脳ミソを覗き込んでみたい衝動に駆られた。そして、量は勿論だけど彼の作品の凄さはその極めて個性的かつ特異性のある内容、論理の構築、そしてストーリー全体の構成にある、と彼の本の熱心な読者である友人は以前学校の図書館で熱く語っていた。特に二作目の真相が判明するラスト場面では「全身に鳥肌が立った」らしい。曰く冒頭で、ある小説のワンシーンが断章的に描かれているらしいのだが、それが実は架空の話ではなく実際に起こった出来事だ、というのが最終的に判明するというのだ。その衝撃が凄まじい、との事だった。実際どの程度凄まじいのか読んだ事のない翔子には解らないけど、それでも興味をそそられた事は確かだった。でも、彼の本が印象的な理由はそれだけではない。

 以前、こうして巽と二人で本屋に立ち寄った時、翔子が今そうしているように本棚に収まっていた彼の本を手に取った巽は、うんざりしたように溜息を吐いた。少なくとも、ここまで分厚い本を好んで読んでいる人間の反応とは明らかに違っている。

「どうしたの? 溜息なんか吐いて」

 声を掛けた翔子に、巽はギッシリと活字で埋め尽くされたページをパラパラ捲りながら相変わらずげんなりした様子で本を睨んで言った。

「こんな本を楽しんで読めるヤツの気が知れない」

 眉間の皺を一層深くすると、汚いものでも見るような眼で本を棚に戻した。でも本気でそう思っているようには見えなかった。確かに嫌な事は嫌なのだろうけど、それを巽自身上手く表現出来ないから、まるで照れを隠すようにぎこちないものになってしまっている。巽はそれに気付いているのだろうか。訊きたい気持ちが半分、笑ってしまうのが半分、そのどちらを取るかは既に決まっている。その時も翔子はヒクヒクし始めていた口元を咳払いをする振りをして隠しながら何も言わずに巽の横顔を見た。

「そういう理由だけじゃない気がするな」

 一瞬気まずそうな目で翔子を見たけど、巽はすぐに視線を前に戻した。翔子は追い討ちをかけるように言葉を続ける。

「巽、普段から結構本読んでるじゃない。確かにあそこまで分厚くはないけど、私と同じでミステリーとか好きだし、エッセイなんか読みやすいから好きだって前にも言ってたよね」

 トイレによく本を持ち込んで用を足しながら読んでいる、と以前巽から聞いた時、翔子は思わず笑ってしまった。翔子の家でもトイレが皆の図書館になっているからだ。父にしても母にしても、皆が皆めいめい好きな本を最低でも二冊は持ち込んでいるので棚の上には常に五、六冊の本が並んでいる。翔子の最長記録は二時間だった。巽はそれほどではないにしろ、ノックされるまで気付かなかったと前に言っていたからそれなりの時間をそこで過ごしているハズだ。全く読書の習慣がない人間がそう言うなら話は別だけど、普段から積極的に活字に接している巽が単に活字が多いだけという理由でその本をそこまで嫌うのは少し不自然に思えた。

 翔子の意図を察したのか、巽は観念したように溜息を吐くと、やっぱりうんざりしたように言った。

「この小説に出てくる主人公、冴えない作家なんだけど、俺と同じ名前なんだよ」

 空手の有段者が壇上で割ってみせるブロックくらいに分厚い文庫本を手に取った巽は、土埃で少し乾燥している指先でページをパラパラと捲った。背後からそっと本の中を覗き込む。ジュニア小説と違って挿絵の類は一切ない。巻頭のプロローグ(と思しき箇所)に、薄気味の悪い水墨画の女が恨めしそうな顔をしてこちらを睨んでいただけだった。成程、これがその妖怪か。よくこういう不気味なものをテーマに本を書こうと思うものだ。その発想が既に普通とは明らかに違う。そう感じている翔子自身、普通とか一般的といったアヤフヤな概念が大嫌いだった。一体誰がそんな事を決めているのだろう。そういう感覚が自分という限られた人間の限られた経験や常識で勝手に形作られているとしたら、人の数だけ普通や一般的といった解釈が存在する事になる。一体それの何処に普遍性があるというのだろう。少なくとも、そういう状態を普通と言えるとすればこれ以上いい加減な事もないだろう。

 それでも、彼の書いたこの本はぶらりと街を歩く百人にどんな本を書いてみたいか聞いたみた場合、誰一人としてこういう本を積極的に書こうとなどといった答えは返って来ないと思う。それだけ個性的で特徴的だった。積極的に何かを書こうと思う人の方が遥かに少ないかも知れないけど、それでも翔子の中で彼の著したものはそれだけ異質で独特だった。

「でも、どうしてそれがそんなに嫌なの?」

 肩越しに巽の横顔を窺いながら翔子は悪戯っぽく言った。

 当の巽は心持ち少しだけ唇を窄めたまま、拗ねた子供のような顔をしてその本の背表紙を黙って睨んでいた。

「元々鬱病持ちの失語症だし、いい年こいて人前ですぐ赤面するわ探偵役の古本屋からは終始ボロクソ言われるわ、気の毒すぎるくらい痛過ぎなんだよな、キャラが」

 今度は背表紙を右手の人差し指で弾く。真新しいブックカバーに爪の跡が微かに残った。それよりも気になる事があった。

「古本屋が探偵役?」

「それが本業。副業で憑物落としをやってて、それが探偵役として事件を解決する訳よ」

 古本屋が本業で副業が憑物落とし。ストーリーの構成や内容如何よりも、そのキャラクターの設定が既に個性的過ぎる。そもそも、憑物落としが何をするものなのかも翔子には解らない。少なくとも、翔子の頭の中にはそれほど特徴的な発想は今のところない。そしてこれ以降も絶対に出ない。

「どういう話になるのかサッパリ解らないわね」

「密室殺人あり、連続猟奇殺人事件あり。純然たる推理小説だよ」

「登場人物が個性的過ぎるのよ」

「大丈夫。一応警察とか探偵もいるから。もっとも探偵は一般的な観念で捉えた場合間違いなく変人に入る部類だけど」

「その探偵が事件を解決に導く事はないの?」

 巽は少し考えるようにしばらく顎に右手を添えていたが、やがて翔子の方を見るを肩を竦めて首を振った。

「読んでみれば解るんじゃない?」

 しばらく背表紙に指を這わせていたけど、突然ハッとしたように巽の横顔がぎこちなく固まった。翔子は思わず声を上げて笑い出しそうになった。慌てて口元を右手で抑え付ける。肩を震わせながら巽の背中を叩く。

 全く、どうして気付かなかったのだろう。ここまで詳しく知っているのだから、当然巽もそれを読んでいるのは明白だった。それを必死に隠そうとするのがまた可愛い。どうして素直に「面白いよ」と言えないのだろう。

 少し前の出来事を懐かしく思い出しながら、翔子は本棚に並べられているそれを抜き出して手に取ると、パラパラとページを捲った。冒頭の数ページに不気味な化け物(恐らく妖怪だろう)の水墨画が描かれているだけで、他は全て活字だった。しかも、これでもかとばかりにページ全体を綺麗に埋め尽くしている。それに少しだけ安堵する。会話ばかりで引っ切り無しに改行されているような本は正直読んでて面白くない。翔子に言わせれば、本を読んでいる意味がない。活字に触れてこそ初めて読書をしているという感覚を得られる。会話ばかりでは到底そんな感覚にはなれないし、それではむしろ漫画に近い。

 手にした本をレジに持って行く。前に並んでいた客に忙しくお釣りを渡した店員は、翔子を目にすると「いらっしゃいませ」と愛想よく会釈した。

「カバーはいかがなさいますか?」

「お願いします」

 店員は手馴れた様子で文庫本をカバーに包んで行く。その手捌きを見ても、まだは二十歳そこそこの彼女が相応の経験を積んでいるであろう事が容易に見て取れた。時折見かけるが、入って間が日が浅い店員の手の遅さには正直いつも閉口する。どうしてお札を一枚一枚数えたりするのだろう。何故レジからスムーズに小銭を出せないのだろう。もっともこれは本屋に限った話ではないが、早く続きを読みたい身からすれば目尻が引き攣るくらい苛々する。堂々と「まだ入って間もないもので」と口にしていた学生のバイトと思しき男がいたが、悪びれもせずに客に言う科白ではない。

「袋は?」

「いえ、結構です」

 軽く手を振った翔子に、彼女は感じよく笑って両手で本を手渡した。好感の持てる対応だった。気持ちを動かされる異性がいてもおかしくない。巽だったらどんな反応をするだろう。ニッコリ笑って手を振り返したりするのだろうか。まあいい。その時はその時だ。もしそうしたら背中を思い切りつねってやるか爪先を革靴の踵で踏んづけてやればいい。

暑くないのか、陽射しに晒される事を厭う様子もなく巽は相変わらず雑誌コーナーに突っ立ったまま熱心に雑誌を読んでいた。と思ったら、不意にバッグからペットボトルを取り出したかと思うとそれを一息で半分以上空けた。額の辺りに滴っていた汗を指先で掬うとジーンズのお尻で拭う。全くもう。そう思いながらも内心では微笑んでしまう。こういうところも可愛い。「さっきから何読んでるの?」

肩越しに雑誌を覗き込むと、巽の手にそっとハンカチを握らせる。巽はハンカチを握り締めたままページに載せられている写真に目を落としていた。スポーツシューズだった。靴の裏には大きなボツボツが幾つもついている。スパイクシューズだろうか。

巽の手からハンカチを抜くと、それで額を濡らしている汗を拭う。

「汗、拭いた方がいいよ」

「ああ、ありがとう」

余程熱中していたのか、巽は夢から醒めるように意識を取り戻すと翔子のハンカチを手に取って汗を軽く拭った。翔子に軽く微笑むと参考書を吟味する受験生のような顔で雑誌を読み始めた。止まらない状態なのだろう。翔子にも何度かそういう経験があった。だから巽の気持ちもよく解る。

「随分熱心に読んでるのね」

「まあね」

 最初、何故巽が苦笑いしたのか解らなかった。今度は悔しそうに溜息を吐く。少しだけ背伸びすると、巽の頬を人差し指で軽く突っついた。

「予選近いからなあ」

「夏休み明けには始まるんでしょ?」

「だからそろそろスパイクも新調したいなーなんて考えてるんだけどさ」

 そこでもう一度溜息を吐いた。大方想像はつく。

「親父に頼んで小遣い前借しようかな~」

「貯金を下ろせばいいじゃない。前にお年玉がまだ少し残ってるって言ってなかった?」

 巽は難しい顔をしたまましばらく黙っていた。汗が一筋額を流れて落ちる。大方もう使ってしまったのだろう。全くもう、本当にしょうがないなあ。そう思いつつも巽のそういう処がいつも可愛く思えてしまう。

「貸してあげようか?」

「いや、それはいい」

 即座に首を横に振る。

「そういう事したら、翔子とはきっとこういう風に過ごせなくなる。だからいい」

 雑誌を棚に置くと、巽は翔子の手を少しだけ汗ばんだ手で軽く握った。

「気持ちだけ受け取らせて」

 それだけで充分。そんな顔で笑って見せた。

 軽率な発言を恥じる以上に、それを見越したかのような巽の言葉が嬉しかった。冷房が効いているのに背中や顔がポッと熱くなる。それを悟られるのが恥ずかしくて、翔子は無意識に下を向いた。巽に手を引かれるままに店を出る。

 夏の陽射しが容赦なく肌を焼く。それに少しだけホッとするものを感じる。原付のシートの下に入れていたメットを出すと、巽はそれを翔子に投げて寄越した。

「流石に少し腹減ったな」

「そうだね」

 シートに跨った巽の腰に手を回す。どういう訳か、この瞬間が翔子は一番緊張する。硬くなる必要もないのに、自然な形で巽にくっつけるこの時が一番好きな反面、それが却って自然過ぎて体が意識してしまう。それが今は尚更だった。

 いつも思う。どうしてこういう時、自分の気持ちに素直になれないのだろう。まだ心の何処かで巽に遠慮している自分がいるのかも知れない。そんな思いを振り払うように、翔子は巽の腰に回した両腕に殊更に力を込める。

 何処に行くかも具体的に話していない。だがそれを気に掛ける様子もなく巽はバイクを発進させた。風に任せて気ままに走る。何処に行くかなど、走りながら考えればいい。少なくとも、それが決まるまで何も出来ないよりは遥かにマシだと翔子は思う。それを適当と呼ぶかいい加減と思うかはその人の感性次第だ。勿論、翔子の答えは既に決まっている。

 大通りに入った原付は、第一車線の左側を何台も乗用車に追い抜かれながら街の中心に向かって進んでいく。エンジン音が大きくて会話には難儀するが、それでもこうして巽の背中に体を預ける事が出来る。だからそれに身を委ねよう。

 巽が声を掛けたのはそんな時だった。

「なあ、翔子」

 地面に下ろした右足で車体を支えながら少し大きな声で巽は言った。橋の上は渋滞していて信号が青に変わってもなかなか前に進めない。原付ならば隙間を抜けていけそうなものだが、前の方で車幅の広い車が左に幅寄せしているのでそれもままならない。二人を乗せた原付は渋滞の最後尾、橋の袂の辺りで焼けるような陽射しに晒されながら信号が青に変わるのを黙って待ち続けていた。

「後ろの車なんだけど、何かあったのかな?」

「何かあったのかなって?」

 背中にくっつけていた頬を離すと顔を上げる。首を後ろに曲げていた巽と目が合った。

「何か、さっきからずっと尾けられてる気がするんだけど……」

「尾けられるって、何でそんな事されるのよ」

「俺が聞きたいよ。だから今聞いてるんだろ」

 言われるままに翔子は首を後ろに捻った。信号で隔てられた交差点の向こう側の最前列に、白いカローラが止まっていた。カローラ自体は差して珍しい車でもない。大衆車の代名詞のような車体は特別誰の目を引く訳でもなく、誰一人気にかける事もせずその脇を通り過ぎていく。車体の白さが夏の陽射しを反射して一際光っているが、まず目に付いたものはそんなものでなく右のフロントバンパーにあるヘコミとオレンジ色のペイントの跡だった。母が去年の暮れに近所のスーパーの自販機で擦ったのもその辺りだった気がする。誰もいない助手席には細身のゴルフバックが立て掛けられている。それが練習用と知ったのはつい最近の事だった。確かに、近所の打ちっ放しにいくだけでコースに持っていくようなあんなにゴッツいバッグを持ち運ぶのは確かに少しみっともない。手段としては決して賢明とは言えないだろう。そもそも、どうして自宅にあるはずのそれがその車の助手席にあるのだろう。

 隣の運転席に何気なく視線を投げた。

 ハンドルを握り締めたまま、父が上目遣いでこちらを睨んでいた。


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