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勇者と女神の二人旅~勇者の日記~

作者: みくた

今日、女神様より魔王討伐の命が下された。

とうとうこのときが来たか・・・

さて、旅立ちの準備だ。



旅立ちの前日、仲間を誘ってみたが誰も集まらなかった。

所詮、現実なんてこんなものだ。

正義のナントカ剣の手入れをして今日は早く寝よう。



旅立ちの日、自国を出てすぐ女神様に出会った。

側近の妖精とおやつを巡るトラブルで家出して来たらしい・・・

そして、身分を隠して旅に同行したいと言う。

いや、お帰りください。



国を出て三日目、森の中にある集落に着いた。

ここに来るまで何度か魔物と遭遇したが、女神様が出会い頭に全て瞬殺している為、損耗は無し。

・・・もう帰ってもいいですか?



集落を出て数日、手持ちの水と食料が尽きたので、以前読んだ本の知識を基に魔物や野草、川などから水と食料を調達している。

しかし、調達を始めてから女神様はあまり食事を取らなくなった。

聞けばゲテモノは苦手で食事を取らなくても生きていけると言う。

もうあんた一人で魔王討伐に行けよ。



朝から腹痛がひどい。

どうやら昨日食べた野草が良くなかったらしい。

耐えきれず吐き戻してしまったら、女神様が治癒魔法を掛けてくれた。

無茶はダメだと怒られた。

ありがとう女神様。



ようやく街にたどり着いたと思ったら、街へ入ることを断られた。

勇者のパーティーは魔物に狙われるというのが向こうの言い分だ。

街への強行突入も考えたが、女神様と悪態混じりの話し合いをした結果、そのまま進むことになった。

まったく、誰の為に旅をしてると思ってんだ。



あれから次の街を目指し、ただひたすら歩いている。

魔物や野草の味は悪くはないが、そろそろ普通の食事が恋しくなってきた。

女神様は相変わらずのほほんとしている。

正直、癒される。



今日は野生のリンゴを見つけた。

久しぶりに甘いものを食べたので、女神様との会話もいつも以上に弾む。

これも神の思し召し・・・あ、その神様と旅をしてるんだっけ。



街に到着した。

この街は海に面した王都で、周辺地域を治める王がいる。

街に入るとすぐ、明日に王との面会を命ぜられた。

面倒なことを言われなければいいが、美味しいものを食べてベッドで休めることを思うと、そんなことは最早どうでもいい。



王と面会をして来た。

うん、面倒くせぇことになった。

王の話はこうだ。

「現在、海向こうの国と開戦直前にあるため、海向こうの国へ船を出すことは出来ない。だが、君たち勇者一行が参戦して戦争を早期に終わらせれば終戦後すぐに船を出そう。しかし、君のような美しい女性(女神様)が城のメイドになってくれるのなら、明日にでも船を出してやらんこともない。」・・・だそうだ。バカかこいつは。

一体何様のつもりだ。

・・・とは言っても海向こうの国に行けないのは困るし、女神様を差し出す気もなければ、戦争に参加する気もない。

酒場にてほろ酔い気分で解決策を模索中だが、女神様は既に出来上がっており、王に対する暴言を垂れ流しておられる。

今日はもう宿に戻ろう。



今日、街を出た。

勿論、あの田舎者の王がそんなことを許してくれるはずも無いので、古い地下水路からの脱走だ。

昨日、酒場で有力な人物に出会い、渡海に協力してもらうことになったのだ。

その男の案内で水路を移動中、いろいろなことを聞いた。

なんでも、彼は海賊でこうして地下水路から街に入り、物資などを調達しているらしい。

そういえば、俺たちの物資を調達するの忘れてた。



海賊船の船長に事情を話したところ、快く海向こうの国までの乗船を許可してくれた。

そんな俺は船室にて船酔いでダウン・・・

文字を書くのが辛い・・・

女神様も同様に船酔いだが、酒と聞くと話は別なようで絶賛酒盛り参加中である。

一体どういう神経してんだよ・・・



海向こうの国に到着した。

久しぶりの地面だ。

船を降りるとき、船員にひどい顔をしていると笑われたが、女神様の方はもっとひどい事になっている。

嘔吐物を垂れ流しながら歩くその姿は、最早、女神様とはとても思えない。

というか思いたくない。



昨日は王宮の客間に泊めてもらい、今朝、どういう訳か王が直々に朝食を運んできた。

長い船旅で疲れているだろうというありがたい心遣いだ。

王の話によると、俺たちを運んでくれた海賊達は、海向こうの街で情報収集をしていたこの国の兵士だった。というところから始まり、海向こうの街から宣戦布告をされている為、あなた方を戦争に巻き込むわけにはいかないので、準備が整い次第、すぐに出発して欲しいとのことだった。

どこぞの田舎者と違ってなんと素晴らしい王様だ。

そして、女神様は隣の部屋で屍のようになっていた。



今日は朝から兵士達が慌ただしく動き回っている。

港にテントを設営する者、船に乗り込む者・・・戦争が始まった訳ではない。

海向こうの街に巨大な流れ星が落ちたのだ。

それを受け、王は兵士達に海向こうの街の人々の救助を命じたのだ。

宣戦布告をしてきた敵国を助けるとは寛大なお方だ。

しかし、流れ星の真相を俺は知っている。

間違いなく女神様の仕業だ。

全身から脂っこい汗を流し、目を泳がせながら否定するその姿を見れば一目瞭然だ。

というか昨日、表で禍々しいオーラを放ちながら祈りを捧げる女神様を見たのだが・・・まあ、どちらにしろ別にいいんだけどね。

俺もあいつ嫌いだし。



王から贈られた馬車に物資を積み込み、今日は出発だ。

一応、王に救助活動の支援を申し出たが、普通に断られた。

まあ、当然だ。

さて、次なる国は砂漠にあるということで、大量の水を中心とした物資を受け取った訳だが、積み込みの途中で女神様がいきなり水をぶちまけやがった。

今後、水の取扱いは俺がやるとしよう。



出発して二日目、周りから緑が消え、砂と岩に覆われた砂漠地帯にさしかかった。

射すような太陽の光にじりじりと体力が奪われていく。

そして、この辺りは強い魔物がうようよいる。

一瞬たりとも気が抜けない状況だ。

女神様は砂漠地帯に入った途端、暑い暑いと貴重な水をがぶ飲みしている。

こいつ、マジで殺し《ここで血の跡とともに日記が途切れている。》



気がついたら砂漠の国の教会にいた。

どうやら、俺は死んでいたようだ。

女神様は「勇者よ、死んでしまうとは情けない」と言う。

うるさいよ。

死因は魔物による背後からの一撃らしい。

女神様の目が泳いでいないところを見ると、本当に魔物の攻撃のようだ。

不覚にも背中を取られるとは・・・

そして、正義のナントカ剣が折れてしまった・・・やはりプラスチックの剣ではダメか・・・



今日は教会の宿舎にて療養中。

蘇生直後は体力の低下がひどい。

女神様は国王の命により、国の東にある洞窟へ魔物の討伐に行っている。

女神様によれば、ここの王も嫌な奴らしい。

蘇生、療養に関する請求書を見れば、確かに嫌な奴だと分かる。

法外な額の請求書を盾にとり、俺たちを飼い殺そうとする魂胆が見え見えだ。

女神様は魔物を討伐に行き、さらに命令をするようなら脱出をすると言っていた。

そして、俺は女神様には悪いが、宿舎にて療養ライフを送らせて貰うとしよう。



え~と、何から書こうか・・・

うん、すごく疲れてるから明日にしよう。

とりあえず、今は砂漠の先にある山岳地帯にいる。



今日は砂漠地帯から山岳地帯までの経緯を書こう。

まず、俺は教会宿舎で療養をしていたら突然、国の兵士が現れて連行、投獄された。

理由は魔物討伐から戻った女神様が、王に意見具申したことによる国家反逆罪らしい。

女神様が何を言ったかは知らんが、とんでもない独裁者だ。

そして、その日の深夜、ドラゴンが街を襲った。

ドラゴンの圧倒的な力を前に、なす術もない兵士達は俺たちを釈放し、支援を求める。

勿論、こんな独裁国家に手を貸す気はさらさらなく、正義のナントカ剣の代わりの剣を手に入れた後、隙を見て逃走。

一晩掛けて砂漠地帯を馬車で走り抜け、現在に至るという訳だ。

逃走中に女神様はあのドラゴンは自分のペットで、どういう訳か神殿から脱走してしまったと半笑いで言っていた。

そういうこともあるんだなぁ。

おお、怖い怖い。

まあ、絶対的な正義によって悪の国が滅びたんだから、良しとしよう。



さて、山岳地帯に入って数日、食料等の物資が心許なくなってきた。

補給もせずに着の身着のままで逃げて来たのだ。仕方がない。

また当分の間、魔物を食べるとしよう。



今日は幸運にも商隊と出会うことが出来た。

物資の調達をしようと取引を持ちかけたら法外な額を提示して来やがった。

しかし、ここで女神様の値切りスキルが発動。

八時間にも及ぶ交渉の末、俺たちはタダ同然で大量の物資を調達する事が出来た。

まあ、商隊の人達は全員泣いていたが・・・



大量の物資のおかげで、快適な旅を満喫しているところ、遠くに人間界最後の国が見えてきた。

もうすぐ山岳地帯を抜ける。

山を下っている途中、人間界最後の国の兵士達に出会った。

彼らはこの辺り一帯の斥候活動を終え、国に帰るところだと言う。

目的地は俺たちと同じなので、同行させて貰うことにした。

さすがは人間界最後の国に所属する兵士。

魔物への対処が洗練されている。



兵士達と行動を共にし、人間界最後の国にたどり着いた。

入国後、宿で宿泊の手続きを済ませると兵士がやってきて、明日に王との謁見を命ぜられた。

この国は人間界の最果てに位置し、魔界に最も近い為、最強の軍事大国として名高い。

果たしてどんな王だろう・・・



今日の謁見は疲れた。

だが、嫌な気分ではない。

まず、謁見に訪れると王は俺たちを快く歓迎し、自らのことを王ではなく、将軍と呼ぶように言った。

そして、将軍と側近の案内の下、国の施設を見学し、それが終わると、広場に集まった沢山の兵士の前で演説をした。

最後に執務室で将軍に我が国の一員となり、共に未来を築かないかと誘われた。

悪くない誘いだと思ったが、女神様から威圧感全開の刺すような微笑みを背後に受けていたので、泣く泣くお断りした。

すると、将軍はそう言うと思ったと笑いながら、ミスリルの剣をくれた。

それでその場はお開きとなった。

疲れているにも関わらず、長文を書いてしまった・・・もう寝よう。



出発の日、盛大なパレードと共に、俺たちを送り出してくれた。

俺たちの旅はここからが本番になるだろう。

明日は魔界に入る。




俺たちは今、魔界の森にいる。

魔界の森といっても人間界の森と大した違いはない。

ただ、襲ってくる魔物は強い。

しかし、女神様とミスリルの剣はもっと強い。



今日、野営をしていたら魔族の男が現れた。

攻撃をされた訳ではない。

酒瓶を片手に「一緒に呑まないか?」・・・とのことだ。

敵意は感じられなかったので、警戒しつつも承諾する。

男は酒を呑みながら、気さくにいろいろなことを話してくれた。

自分はハンターをやっているとか、魔族と人間が争っていたのは昔話だとか、自分が住んでいる街まで案内してやるとか、一通り話し終わると、酔いが回ったのか、眠りこけてしまった。

この男の話がどこまで本当かは分からないので、警戒態勢を維持するとして、ひとまず明日はこの男の街へ行ってみるとしよう。



魔族の街に到着した。

驚くことに、勇者一行である俺たちを魔族達は歓迎した。

どうやら男の話は本当だったようだ。

だが、それだと魔王討伐を命じた女神様の話と矛盾が生じる。

宿で女神様に問い質すと「魔王は恐ろしい事を考えている」の一点張りだ。

とにかく、真相を確かめるべく、魔王の所に行くとしよう。



問題が発生した。

宿代を払うときに、手持ちの通貨は使えないと言われた。

そもそも通貨単位が初めて聞くものだった。

人間界と魔界では使用通貨が違うようだ。

その事に困惑していると、店主は宿の近くにある両替所という施設を教えてくれた。

そこで人間界の通貨と魔界の通貨を交換し、宿代を支払うことが出来た。

この両替所は人間界との交流に向けて作られた施設という。

魔界は想像以上に発展している。



街を出た俺たちは、酒場で出会った魔族の商人の案内で、魔王の都を目指している。

現在地は街と都の中間に位置する小さな魔族の町。

ここでも俺たちは歓迎された。

魔王の考えている恐ろしい事とは何なのだろう。



魔王の都に到着した。

都の入り口で商人と別れた俺たちは、都の兵の指示で、その場に待たされた。

そして、数十分後に勲章だらけの制服に身を包んだ、魔王四天王の一人が兵を引き連れてやって来た。

四天王の一人はねぎらいの言葉を掛けると、魔王城の客室に俺たちを案内した。

魔王は公務により、不在の為、戻るまでここで待っていて欲しいとのことだ。

街では歓迎され、都に至っては要人扱いだ。

ますます訳が分からなくなってきた。



今日、世界が滅びかけた。

何が起こったか?それは、昼食後に魔王が公務から戻った為、俺たちは玉座の間に呼ばれた。

そこで、魔王は俺への挨拶もそこそこに、身分を隠している女神様の正体を見破り、大いに喜びながら女神様との挙式の準備を一方的に始めだした。

魔王の考えている恐ろしいこととは、つまり、女神様に対する一方的で過剰な求婚だったのか・・・

そうすると、俺はくだらない茶番に振り回されていたことになる。

怒りがこみ上げて来た。

しかし、他の言葉に聞く耳を持たず、挙式の準備をする魔王に対し、女神様がキレるのが早かった。

禍々しきオーラを放出させながら女神様は「もうよい、貴様などこの世界ごと葬り去ってくれる」と言い放った。

これには魔王も流石にまずいと思ったのか、暗黒騎士の剣を俺に渡すと「一緒に女神を止め、世界を救ってくれ」と言った。

そして、魔王と共同戦線を張って女神様を止めることに成功した。

流石の魔王もこれには懲りたようで、女神様に謝った。

女神様もまたやりすぎたと謝った。

・・・で、一番の被害者である俺に対しての謝罪は?



女神の怒りによる世界滅亡の危機を脱した後、俺は人間界と魔界の交流に向けて、人間界の各国と魔界を行き来する多忙な日々を送っている。

この手記を記すのも今日が最後になるだろう。

しかし、俺の旅はこれからも続く。


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