表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

VR試験

「えー、それでは番号札30番から40番をお持ちの方、中へお入りください。」


「ひろ。呼ばれてるよ」


「おっ、マジで!?そんじゃ、お先に失礼しますよ怜先輩!」


ひろとは同学年だった筈だが、無邪気な子供のような笑顔で手を振るので、追求はしないでおこう。手を振りかえしてやると、つっかえない様にとすぐさま奥の方へと行ってしまう。


無表情でこそあるが、内心ではかなり期待している。場所は病院、内容はVR診断。話題のVRだが、たまに規格が合わなくて、人力による細かい調整をしなくてはいけないひとがいるらしい。だから、政府……というより、政府が技術開発した会社に送った支援金を、その会社がそのまま慈善事業に使っているため、日本に住んでる人は一般市民でも診断を受けることができる。正直、基本は細かい調整は必要ないということには驚きである。人間の脳って、皆おんなじ様な構造してるのかな。意外だ。


ちなみに、その会社は「皆にVRの素晴らしさを実感してもらいたい!」とかいうなんとも素晴らしい方針を掲げていて、世界中から送られてくる支援金の一部を、VR機器の低価格化の為に使っているらしい。

太っ腹というより、そんなことしてても支援金貰えるんだな、という感想が前に出て来る。まあ、それだけ世界中の国が期待してるんだろう。どこかの国は、「私の国が起源だ!技術を盗まれたんだ!」とか言っているが、まあ平常運転といえば平常運転だろう。


「えー、番号札41番から50番をお持ちの方、中へどうぞー。」


……どうやら呼ばれている様だ。番号札は46番。席から立ち上がって、6番カーテンの間を潜る。看護師さんが手を伸ばしていたので、そこに番号札をぽんと置いた。


CTスキャンの様な物で診断すると思っていたのだが、どうやら違うらしい。椅子に座らされ、赤いヘッドフォンの様な物を被らされる。


「これから、弱い電磁波を送りますので、痛みや目眩、嘔吐感等を感じたら左手を上げてください。」


どうやら、電磁波で体に不調が出ないかのテストらしい。すぐにヘルメットを被らされると思っていたので、すこし拍子抜けだ。とりあえず返事をする。


看護師さんがツマミを捻る。どんどん捻っていくが、体調不良は全くない。


「違和感などはありませんか?」

と聞かれたので、頷く。


「では、次にベッドに横になって、このヘルメットを着けて下さい。」


言われるままに、ベッドに仰向けになって白いヘルメットを被る。表面の何かをいじっている様だが、全くわからない。


「……それでは、VRテストプレイを開始します。」


その声を最後まで聞いたかわからないまま、意識がゆっくりと落ちていった。











「…………。」

壮観だった。声こそ出さないが、辺り一面の草原に目を奪われ、感動していた。

現代日本では、まず見られない、地平線まで見えるような広大な大自然だ。空も信じられない位青い。TVでしか見たこと無い様な、透き通るような青だ。


はっとして、しゃがんで地面を見てみる。草は青々として、まるで本物のようだ。が、触ってみると、現実にはない、妙な手触りが帰ってくる。どうやら、触覚はまだ不完全なようだ。

じっと見てみると、細かいがポリゴンのような物が見て取れる。なるほど、確かによく見れば現実じゃない。けど、限りなく現実に近い。テレビで言っていたのは、誇張表現でもなんでも無かったらしい。


「……成る程、これは凄いな…………。」


周りを見渡すと、他にも試験者だと思われる人影があった。ただし、ほぼ同じ、男と女の姿をしている。おそらく、試験用のキャラクターという事だろう。顔も格好も同じだが、身長だけは違うのが逆にシュールだ。


『試験を終了致します。問題がなければ、ログアウトボタンを押してください。』

アナウンスが流れる。周りの人もキョロキョロしているので、おそらくこのワールド自体に音声を流しているのだろう。

視線を落とすと、宙に浮かぶ、円形の半透明のボタンがある。中にはきっちり「ログアウト」と書いてあるので、これで間違いないだろう。

名残惜しいが、看護師さんを困らせるわけにもいかない。ちょっとだけ迷った後、その半透明のボタンに、指先を触れさせた。








「……何か異常はありませんか?」

機会的な声で、現実に戻る。なんだか変な気分だ。さっきのは、夢なんじゃないかとも思えて来る。しかし、まあ現実だろう。

今だに混乱している、というより感動している頭を無理やり持ち上げて、一言「大丈夫です」と返事をする。

そのまま、ヘルメットを脱がされる。視界には、看護師さんと赤いヘッドフォンと、ヘルメットしかない。


「……? 何か変ですか?」


じっとしているのを見て、不審に思ったのだろう。繰り返し、「大丈夫です。」と言う。

怪訝そうな顔をされたが、すぐ、「以上で試験は終了です、お疲れ様でした」と言う。どうやら先程ので最後だったようだ。起き上がって、入ってきた方とは違う扉を出て行こうとすると、呼び止められた。


「どうでしたか、VRは?」


少しだけ迷った後、こう答えた。


「怖かったです。」


僕は、部屋を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ