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たとえ歪んでいようとも  作者: ACROSS
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魔獣の襲撃と柳季の実力 1

 柳季(りゅうき)の両目、瞳の部分に光輝く十字の紋章。勇者の証、聖痕である。

 村長は未だに信じられないといった思いと、伝説を目の当たりにした驚愕が混ざった複雑な表情をしている。


 柳季はそんな村長を見て、溜め息を吐く。というのも、柳季がレザベディアからの知識を整理していた時、聖痕については勿論あったのだが、申し訳程度にしか知識の中になかったからだ。


 (驚かれる事は予想していたが、予想以上に驚かれたな)


 何時の間にか柳季の目から聖痕の輝きはなくなっている。柳季は溜め息まじりに口を開く。



「言っておきますが、俺は勇者ではありません」


「っ?!その聖痕が勇者の証ではありませんか!」


「あくまで予想なんですけど、恐らく異世界人が神の手によってこちらの世界に連れてこられた場合に限り、聖痕が授けられるのではないでしょうか」


「勇者である異世界人だからこそ、ハ神様から聖痕を授けられるのではないのですか?」


「俺は勇者としてこの世界に来た訳ではないからですよ」


「ん?どういうことじゃ?」


「これは神様から直接言われたのですが、俺は手違いで向こうの世界に生まれてしまったらしいです。なので、本来の世界に連れ戻された形になります」



 (まあ、(レザベディア)さんは俺に何か隠している見たいだったが。情報が足りなさ過ぎて予想出来ない。追々考えよう)



「ハ神様が手違いを?そんな事があり得るのじゃろうか?」


「神様というのは忙しいんですよ。何をしているのかはわかりませんがね。俺は向こうの世界の神様にも何度か会った事がありますけど、忙しそうでしたよ。手違いの1つくらいあってもおかしくはないと思いますよ」


「む〜そうなのかの?ん?ちょっと待て。向こうの世界の神に会ったじゃと?!」


「そんな事より」


「そんな事?!」


「盗み聞きは感心しないぞ?」



 柳季が玄関に続くドアに向かって声をかけると、シルティが苦笑しながら入ってきた。



「シルティ!何時から聞いておった?!」


「良いじゃないですか。ほら、座って下さい」



 空いている椅子に座るよう促す。座るなり「実は最初から聞いてました!ごめんなさい!」と頭を下げるシルティ。



「聞いていたというよりは、見ていた。具体的には俺の武術鍛錬の時から」


「うぅ……そうです」



 村長は更に驚いた。シルティが見ていた事に全く気が付かなかったからだ。


 (儂にも悟られぬ術をシルティが身に付けていた事も驚きじゃが、リューキ殿は気が付いておったとは)


 村長は改めて柳季の実力を見誤っていた自分を恥じ、顔を赤くした。



「とんでもない話を聞いてしまいました」


「まあ…普通はそうだな」


「してシルティ。お主は何故そんなことを?」



 シルティはまだ話していなかった事を村長に話す。森で弟子にしてくれるよう頼んだが、断られた事。諦めきれず、隠れて柳季の後を追いかけていた事。



「なるほどのう」


「リューキさんには断られちゃいましたけど、私諦めてませんから」



 ぐっと拳を握りしめるシルティ。そんなシルティを見ていた柳季は、唐突に不発弾を掘り起こした。



「強くなりたいならどうして村長に頼まないんだ?」


「えっ?!」


「2人は俺の秘密を知った訳だし、ここからは素で喋るわ。いや〜、丁寧に喋るのって、正直堅苦しくて参ってたんだ」



 急に話し方を変えた柳季に少し戸惑う2人。だが、村長は戸惑うというより動揺している。



「村長は元Aランクの冒険者って言ってたよな?って事はある程度、名が売れてたはずだ。普通、村長の歳で俺の走るスピードについてこれるわけがない。それに、村長以外は獣人しかいない。この事から、ある程度の地位と人望、実力があるのはすぐにわかる」



 何でもないかのように柳季は言うが、普通そこまで分かるだろうか。村長が何か言おうとした時、柳季のマイペースさが発揮された。


ぐぅ〜。



「腹減った」


「ふえぇぇ?!」


「…確かに、そろそろ昼時じゃが。この流れでそれはないじゃろう」




◆◆◆◆◆◆




 (昨日もそうだったけど、森に近いだけあってキノコや動物の肉を使った料理が多いな。まあ、旨いから良いけど)



「あの…リューキさん?さっきの」


「ああ、その前に確認したい事があるんだけど」



 再びのマイペース。シルティは既に諦めているが、村長はこの段階で諦めた。そんな事よりシルティは話の続きが気になって仕方無いのだが。



「ホーンズベアーは村の近くによく出るの?」


「いや、1年に2〜3回程度じゃ。それがどうかしたかの?」


「もう1つ。狩りには毎日?」


「そうじゃ。まあ、天気が悪かったりすれば別じゃが」


「ん〜……となると、早ければ日暮れ前。遅くとも明け方かな?」



 柳季の呟きに2人がなんの事か聞こうとした時―――



 グガアアァァァァッ!!



「何っ?!」


「何じゃっ?!」


「早すぎだよ……」



 3人が慌て外に飛び出ると、そこは―――


 血の海が広がっていた。

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