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たとえ歪んでいようとも  作者: ACROSS
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カミングアウト

「それで…リューキ殿。先程の話なのじゃが」


「分かってますよ」



 2人は朝食をとり終え、客間のテーブルで向かい会っていた。先程の柳季(りゅうき)の武術について話すためだ。



「村長。話が長くなるので飲み物をお願いします」


「うむ」



 暫くすると村長が木製のコップを2つ持って戻って来た。すると、部屋に良い香りが漂い始める。



「良い香りですね。不思議と落ち着きます」


「これはケラクルという木の葉じゃ。帝国には至るところにある。建材としても使え、葉は煎じればこのように茶にも出来るのじゃよ」


「余すところの無い優秀な木という訳ですね」



 一口含むとなかなかの芳醇な香りと紅茶に似た味わいで、柳季はほぅと息を吐く。



「話が逸れました。村長がお聞きになりたいのは俺の武術について。ですね?」


「そうじゃ」


「………では今からお話しする事は他言無用でお願いします」


「構わんよ。それよりも儂は早くあれについて知りたい!」


「まあまあ、落ち着いて。俺の使う武術は【神然(しんぜん)流】という千年前から伝わる古流武術です」


「千年となっ!」


「はい。元々は人の身で神を補佐するに相応しくなるために一部の地域で祭事をする際に独自に行った舞いが始まりと伝わっています」


「舞い?つまり最初は武術では無かったのじゃな」



 村長は少し納得していた。先程の柳季の動きを見て、一瞬踊っているようだと思ったからだ。



「その通りです。ですが、その者達の中から神の補佐ではなく、神の意を汲んで神の手を煩わせないようにするべきという考えに至る者達が現れました」


「なるほど。その者達がリューキ殿の武術を」


「はい。しかし、時が経つにつれて当初の目的は次第に薄れていき、ある目的に変化しました」


「ある目的?」


「自らが神に成り代わる為に神を……殺す」


「馬鹿なっ!八神様を殺すじゃと!」



 (恐ろしい。よりにもよって大罪中の大罪を目的にする等と!どうかしておる!)


 憤慨しつつも、ここで村長は違和感を感じた。いや、違和感を認識し始めていた。柳季と自分の間にある決定的な“ズレ”を。



「ですが、周囲が止めようとした時には既に遅く、もう誰にも彼らを止める事は出来ませんでした。時の権力者でさえ」


「なんと……」


「ですが、ある日を境に神然流は廃れ始めました」



 それを聞いた村長はあからさまに安堵した。この世界は八神によって創造され、八神によって存在を保たれている。これは紛れもない事実なのだ。

 神を殺すというのは世界の破滅、そのものを意味しているのだから。



「廃れ始めた理由ですが、実に単純です。彼らの武術は才能が必要なのですよ。それも天才という、常人を遥かに越える才能を」


「……読めたぞ。天才というのは一握りの神に愛された者にしか与えられない物。そうポンポン流派を受け継ぐ者が居なかったという訳じゃな?」


「そうです。そして、乱世の時代に1人天才が現れました」


「…ふむ」


「その天才は、当初の目的を忘れて暴走する彼らを打ち倒しました。彼は、瞬く間に頭角を現し、乱世……戦国の世を歴史の裏で終わらせました」


「…まて。せんごく?」


「その後、彼は才能が無くとも正しく力を使える者全てに授けられる技という技を授けました。やがて彼は長い間、禁忌とされ、その名を口にすることも憚れるその名を改めて名乗りました」


 柳季は茶を一口飲むと再び口を開いた。


「それが神然流です。しかし、世は平和になり、武の出番は無くなり、伝えられる者が居なくなり、江戸時代前期に消滅しました」


「まて!リューキ殿!儂には貴方が何を言っているのか分からん!」


「村長」



 柳季が話を切り、村長の目を覗きこむ。まるで試されているようだと村長は思った。全身から汗が噴き出す。



「ここから先……聞きたいですか?」


「……くっ!えぇい!儂も男じゃ!続けてくれっ!」


「俺が今語ったのはね、村長。この世界とは違う世界の話なんですよ。俺はその世界から来た異世界人です」



 村長は混乱する頭で何とか柳季の言葉を理解しようとする。納得出来る部分は確かにある。しかしそれ以上に、理解出来ない部分があるからだ。


 (仮に…仮にじゃ。リューキ殿が言っている事が事実だとしよう。しかし、異世界じゃと?とても信じられぬ!)


 ここで村長は1つ、思い当たるものがあった。有り得ないと叫ぶ理性を押さえ付けながらも、まさかと。だが、否定しようと思えばいくらでも否定出来る。まだ証拠を見ていないのだから。



「しょ証拠は!証拠はあるのか?!」


「証拠ですか。では村長、証拠をお見せしましょう」



 柳季が静かに目を閉じると、客間の空気が変わった。と同時に、柳季が光に包まれた。余りの光量に思わず腕を使って目を庇う村長。光が収まった時、村長は有り得ないものを見た。


 それは、一部の古文書にのみ記されている伝説。かつて“勇者”と呼ばれた3人に刻まれた神に選ばれた証。古文書を読み解いたある高名な学者の著書には、こう記されている。



 証ヲ持ツ者


 神ノ代行者也


 (あまね)ク世界ヲ救ウ力ニテ


 破滅ヲ(もたら)ス者ヲ滅ボシ


 絶望ヲ希望ニ変エル者也


 証ハ瞳に刻マレシ十字ニ輝ク紋章也


 神ニモ負ケヌ勇ヲ持チ


 等シク奇跡ヲ起コスダロウ


 故ニソノ者ヲ勇者ト呼ブ


 勇者ノ証ハソノ目也


 ソノ目ニ輝ク十字ノ紋章ハ


 勇者ノ証“聖痕”也


 聖痕持チシ者


 異ナル世界ヨリ神ニ選バレシ者也



ミュルゲイン=グリースト著

【神代ノ記録】第ニ章、7節

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