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さぁ、本音を言おうか

作者: 桜 一色

・・・・・・・、ドロドロしたものが書きたくなりまして。

わかっていたことだった。


「どうしたの?有希。そんな思いつめたかおをして。」



そう穏やかに彼は訪ねる。



「ねぇ、昌吾しょうごもう疲れたわ。・・・・・・、そろそろ種明かしをしましょうか。」


だからゆっくりと私も笑って答えた。

この長く長く続いたくだらない芝居ごっこに終止符を打つために。


さぁ、本音を話そうか




彼、米津昌吾は私の幼なじみであった。昌吾は穏やかな人間だった。過去私は一度も彼が怒ったところを見たことがないという、不気味なほどに。


「・・・・・、もう嫌だ!!!!嫌だ嫌だぁ!!!!!!!

 なんで?どうして私だけしてはいけないのよぉぉぉ!!」


小さい頃から私はそれこそ人形のように可愛らしい顔をしていた。そんな私を両親は喜び蝶よ花よと育て上げるときめたらしい。ピアノにお習字、バレエ、ありとあらゆるいわゆる女の子の嗜みを私に習わせた。

そして、可愛い洋服をきせて可愛いお人形を持たせ、私を甘やかした。


私はそのどれもが嫌いで仕方なかったけれど。


「有希ちゃん、走るだなんて!!転んで怪我なんかしちゃったらどうするのよ。」


「・・・・・ごめんなさい、ママ。」


父も母も、私を甘やかしはしたが、可愛い女の子以外の行動を認めはしなかった。

むやみに走り回ってはいけない、男の子をようにズボンをはいてはいけない、乱暴な言葉づかいをしてはいけない、だって、

「有希ちゃんは女の子でしょう??」


それが母の口癖。


いつもいつも、そして年を追うごとに厳しくなる決まりに私は息苦しくて仕方がなかった。が、反抗はしない。子供心なりにもわかってしまっていだから。一度だけ言ってしまったセリフ、嫌だと。  

母は無表情となった。

それ以来そのセリフは消えた。わかってしまったから、母は可愛い女の子が欲しいのだと・・・・・、そしてそれ以外などいらないのだと。

やらなければ、捨てられるとわかってしまった私はそれからは無我夢中で、両親の望む女の子を演じつづけた。

けどなれることはない。

その全てのしわ寄せは彼へと真っ直ぐ向かった。


昌吾は怒らない。ただ、ただ穏やかに愚痴を吐き泣きわめき声を上げる私を慰め聞き役に徹する。

いったいいつからだったたろうか、否定の言葉ばかりを吐き続ける私を見ながら彼が優越の瞳で見ていることに、気づいたのは

いつからだっただろうか、私と彼がこんなに歪んだ関係になってしまったのは、



「・・・、そうかい、残念だったなぁ。僕はもう少しこの楽しい関係を築いていきたかったのに。」


本当に残念だ、そう眉を潜める彼の眼は反対に愉快そうに細められる。

彼と反対に不快で、眉間を寄せてしまっているのを感じた。



「・・・・・、楽しい??、楽しいですって?いいえ、こんな歪んだ関係なんて最初から間違えていたのよ。

 だからもう終わりにするの。そう決めたの。」


そうはっきりと告げる私に、彼から表情が消える。


ああ、初めて彼の穏やかな顔以外の表情を見たなぁ、と思う。そしてあれだけ一緒にいたのに、こんな表情すら初めてみる自分に思わず笑いすら起こしてしまいそうたっだ。


「終わる?終わりになんてできると思うの?僕なしでは壊れてしまう君に。」


昌吾はゆっくりと私に近づきそっと私の頬に片手を添えた。

振りほどくことはなくそのまま彼と視線を絡めた。


「ねぇ、昌吾。愉しかったでしょうね。自分からは何もできずただうるさく泣きわめくことしかできなかった馬鹿な少女をみるのは。

 ほんとに馬鹿よね・・・・・、見下されているとも知らないでただ一人だけ本音を吐いていたなんて・・。」


またゆっくりと息をはくように笑いがこぼれた。あぁ、これはもはや自分に失笑してしまっているのか。

彼はまだ私から眼を逸らしたりしない。じっと、射抜くように、捕えるように私を見つめ続けている。


「・・・・・、見下す、ねぇ?・・・・。」


「ああ、まったく笑える話だよ!!!

 昔から、お前にしか本音なんて話せたことなんてなかった!

 いつも私の話を聞いて微笑んでうなずくお前はずっと、それこそ一生私の味方だと思っていたんだ。

 ・・・・・・ほんといつからだっけな。

 お前のその穏やかな顔の中に優越の眼が混じっていることに気付いたのは、

 いつからだったでしょうね、私を見て安堵を浮かべていることに気付いてしまったのは

 お前も私と同じ仮面を被っていたことに気が付いたのは!!!・・・・・」


嗚呼、一度崩壊してしまったからには


もう感情があふれて止まらない。


「私がお前に自分の醜さを吐き出して自分を保っていたように、お前も私の醜さをあざ笑って自分を保っていたんだろう!!?」


いつのまにか狂いだした歯車は止まらなくって

いつしかこんな歪んだ関係になってしまった。


互いに醜さを吐き出し見ることでしか、理性を保っていられないなんて共依存を生み出して


「・・・・・・・・、もう終わりにしてあげる。こんなくだらない関係をはじめたのは私だから、こんな歪んだ貴方を作り上げてしまったのも私だから。

 だったら、最後も私の手で終わらせるわ。」


それが、きっと貴方に私が唯一してあげられる確かで最良なこと。

「ぐッ!?!?!?!・・・・・・・!!!」


急に昌吾は私の顎を手で強引にあげ、さらに視線を近づける。


「そう。そこまで言うの。・・・・・・・・、さて種明かしねぇ。

 いいよ、そこまで君が言うんだ。教えてあげる。」






さぁ、本音を言ってやろう。




幼いことから、僕はなんでもできた。自慢などではなくただの事実。

だから周囲が望む自分を演じてやることなんてわけなかったし、こんなことは大人になれば皆誰もがしていることだと知っていたので、とくに罪悪感も不快感も感じなかった。

まぁ、僕の可愛い小さな幼なじみはそれが我慢できないようだったけれど。


泣く、叫ぶ、喚く。

僕にだけが唯一みれる彼女はいつだって痛みを抱え必死に隠そうとする獣のようだった。

いつもは可愛く可憐でまさに理想の女の子を言われている彼女が、だ。


愚かで醜い彼女。それをただひとり知る僕。


彼女の醜い様を見るたびに、僕は安堵した。

あぁ、僕はまだ大丈夫だと。いつも笑顔を絶やさない生活にまったくのストレスがないわけではなかったが、同族の彼女がもがき苦しむ姿をみるたびにまだ有希のようではないと。


「確かに君の言う通り歪んだ優越感を感じていたのは嘘じゃない。」


そういうと、腕の中の彼女はくしゃりと顔をゆがめてしまった。


「でもね、それだけしゃ君はここまで追い詰められはしなかっただろうね。」


そう。確かに僕は優越感を感じたのは事実。

だけどそれ以上に有希が可愛らしくて仕方なかったよ。


僕だけに醜さをさらけ出す。本音を吐く。そんな愚かしい君が、愛おしくなった。

きっとこれから君はこの先も本音を吐き出し続けられるのは僕だけしかいないだろう。


だから僕は進んで堕ちて行った。

君が僕なしでは生きていけないように、お互いの存在が鎖のごとく縛られるように。


だから、順調に外堀まで埋めていった。

片や可憐で誰もが認める才色兼備な彼女に片や非の打ちどころがないと他人に言わしめる穏やかな青年。


すべてがまやかしの幻想ではあったけど、周りはお似合いだと勝手に言わずともはやし立ててくれる。


彼女がやんわりと否定してもまわりは勝手に恥ずかしがっているのだと勘違いをしてくれていた。

有希も僕が離れていくことは、避けたかったからそのうち否定もしなくなった。

ただ苦しかったのだろう。

自分の見られているすべてが偽物であることも、実際お互いに告白なんてしていなかったから恋人であるという嘘の関係が上書きされてしまったことも。


その姿にほの暗い優越を感じた。

きっと、僕から離れたいのだろう。けど離れられない。そんなことをすれば、本音がたまりきって爆発してしまうことを彼女は知っている。

全てに嘘が上塗りされ続けて、彼女の周りは嘘ばかりだ。

滑稽にも周りはそんな彼女にちっとも気づかない。本当の彼女を知るのはきっと一生僕だけだろう。


とても楽しかった。愉しかったよ。

終わりにしたいなら勝手にすればいい。

ただ終わったところで何も変わりはしないよ?僕も君も依存しきってしまっているんだから。


さぁ、君に僕は初めて本音を話した。

君にとっては、僕の嘘を暴いて互いを解放しあうつもりだったんだろうけど残念だったね。

とっくに君の外も中も僕らがばら撒いた嘘で満ち溢れてるよ。


「ねぇ、好きだよ?」








初めて口にした昌吾の言葉に有希は静かに涙を流していた。


「こんなの間違ってるわ。おかしいのよ。・・・・・・・・、その言葉だって嘘だ。好きだなんてこんな感情が綺麗なはずがない!!・・・・・、ただの執着じゃないか。・・・もういいだろ、これ以上おかしくさせないでよ。」


「もういいかげん諦めたら?わかってるんでしょ?おかしいのはとっくにお互い様なんだよ。

 綺麗じゃない?そうかもね。むしろお互いを縛り付けるドロドロの鎖みたいなんだろうね。

 名前なんてどうでもいいや。

 愛だろうが恋だろうが執着だろうが独占欲だろうが何だろうが。



  ねぇ有希。ずっと、一緒にいてくれない?」


有希は昌吾におとなしく抱き締められているままだった。

どのくらいそうしていただろう。有希はぽつりと呟いた。


「ずっと?」

「うん。」


「昔みたいに?」

「うん。」


「いいの?」

「いいよ。」


「駄目じゃない?」

「駄目じゃない。」


「おかしいよ。」

「知ってる。」


「・・・・・・、一緒がいい。」

「そう。」


そう言って昌吾は微笑む。何十年と見続けた穏やかな笑顔で。


こうして嘘で固めて依存した関係は本当の依存へと変貌した。

予想外ではあったのだけれど。


「有希。」


始めてみる本物の昌吾の笑顔に

(・・・・・、なんて顔してるのよ。)


眩しすぎて目が眩んだ。

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