第5話
ちょっと長くなっちゃったよ……
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朝、なぜか異常に体が重いなぁと思い目を覚ました。
するとそこには…。
「God morgon! お兄ちゃん♪」
「かいと……おはよう」
俺の上に萌恵と聖が乗っていたというかまたがっていた。
どうりで重いはずだ。
……あっ。
実は今。気が付いたことがある。
萌恵は俺の腹の上あたりに乗っているのだが、聖はその後ろに乗っているのだ。
ここで一つ問いたい。健全な男子高校生が朝、アレがあんなふうになる確率ってどのくらいだろうか?
たぶん五〇パーセント以上だと俺は思うのだが…。
まぁ、ともかくアレがあんなふうになっているところの上に聖が乗っかっちゃっているのである。
うん。これはアレしてるみたいだね。騎乗セッ(以下自主規制)。
しかもアレがあんなふうなっているので聖にとっては座り心地が悪いらしく身じろぎするので余計に刺激が…あっ❤
――とヤバイ状態になってきたのでそろそろ声を掛ける。
「ちょっ、お、重い…降りて!…と、特にひ、聖ってあー!!う、動くな…聖…だめ……ダメ……くっ………あっ…………ら、らめぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
俺は『男が使うとキモイワードランキング』で上位に入りそうな言葉を口にしてしまった。
†
――で、結局俺の部屋に何をしに来たのか萌恵に問うと、
「んーとね。お姉ちゃんの服を買いに行こうと思ったの」
だ、そうだ。
「つまり…横浜か渋谷らへんに行くってことか?」
横浜はJR東海道本線で一駅、渋谷とかも湘南新宿ラインの快速とかで四十分前後だ。
「ううん。明日は横浜に行くつもりだけど、今日は戸塚で済ませようと思うの」
「ふーん。で?」
「いや、だからお兄ちゃんも来るんだよ?」
ん?…は?…どこが『いや、だから』なんだ?
何で戸塚だと俺が行くことになるんだ?
…………あっ、もしかして…………。
「俺の金で服を買うつもりか……?」
「当たり前じゃん。だってお姉ちゃんはお兄ちゃんが拾ってきたんでしょ?」
ぐ……拾ったわけじゃないんだけどなぁ…。
「まぁ、明日は私が払うけど。だから今日は頼んだぞ!」
あぁ、そういう意味か。
まぁ、萌恵も払うんならそれでもいい――なんか今、悪徳商法の詐欺かなんかにひっかかった気が……気のせいか。
と、いうわけで本日はトツカーナやモディ(両方とも複数の店舗が入った複合商業施設)に行くことにした。
とりあえず現在の時刻を伝えとくと……九時だ。
……六時間は寝たという事か………。
で、その後服を着替えたり朝食を摂ったりして出発した。
†
モディ、トツカーナは両方とも戸塚駅と連絡通路で繋がっているので便利である。
聖はとりあえず母の服を着せた。ただ、若干大きいのでダブッとした…というよりはもこもこした感じになってしまった。
その聖がさっきからキョロキョロしている。
萌恵はMP3プレイヤーでお気に入りの曲なのかノリノリで聴いているので放置し、聖に近づいて声を掛けた。
「なぁ、聖…どうかしたのか?」
「…この道…見たことある……」
そう言われ俺も辺りを見回す。
………………………………。
あー、あれか。
「た、たぶん…この道は……この間……つーか昨日……聖が俺を…追っかけてきた…」
覚えていないのだろうか?
昨日の事を覚えていないのだとすると聖の生前の身元も判明できるかどうか怪しい。
しかし、そんな俺の考えは杞憂に終わった。
「……?…………………!……思い出した……あの時、かいと逃げた。わたしを一人ぼっち
にして……さびしかったのに」
としょんぼりした様子で聖はつぶやいた。
対する俺の感想は「知らねーよ!!」である。
だってねぇ。
このしょんぼりした顔はそれなりに可愛いが……あんなゾンビみたいな格好で夜追っかけられたらそりゃ誰でも逃げるわ。
まぁ~しかし…この事を聖に言ってまた泣かれたら面倒だし、適当に返しておくか…。
「ごめんな。もう一人ぼっちにさせないから、な?」
「うん……」
そう言ってにこっと、ほっとしたように笑う聖。
その、何だ…聖って何言っても好感度が上がりそうな気が……。
と、それまで先頭を歩いていた萌恵が振り返ってこちらに向かってきた。
「お兄ちゃん達、遅―い!もっと早く歩いてよ。あとお兄ちゃん!お姉ちゃんばっかじゃなくて私とも話してよ。私が寂しいじゃん」
「いやおまえ…さっきまで音楽聴いてただろ……」
というわけでそんな感じのやりとりをしていたらはと広場に着いた。
はと広場というのは戸塚駅東口のバスターミナルの上にある広場の事である。
その名のとおり、鳩が多い。
まぁ、そんな事はどうでもよく、さっそくモディに入った。
モディは地下一階がまるい食遊館、一階が惣菜やお土産店、銀座コージーコーナー、スタバなど食べ物関係。二階はエースコンタクト、コーヒー店、ホビー店、薬局などが多く、あまり服を売っている店がない。
はと広場が二階に繋がっており、そこの入り口から入り三階へ向かう。
三階は服飾、雑貨店が入っており、萌恵が聖を連れて歩き出す。
俺は一緒に居てもつまらないので、ある程度良さげな服が決まったら萌恵が俺の携帯にメールするなり、電話するなりして俺を呼び寄せ聖に試着させ萌恵と俺で評価する手はずだ。
というわけで俺は四階に向かった。
四階はフロアの半分をユニクロ、半分を有隣堂が占めており、有隣堂がかなりデカイ。
横浜にある有隣堂よりも大きいんじゃなかろうか。
おっとすまん。有隣堂ってのは本屋の事だ。
早速俺は文庫コーナーへ向かった。
†
一時間半が経過した頃、萌恵からメールの着信があったので再び三階に向かう。
やはり金髪と銀髪は目立つ。
そこに俺が混ざったものだからさらに目立つ。
というかざわめいた。
――あいつ、あんな可愛い娘を二人も――ぶっ殺す!――明るい未来にためにヤツをこの世から消し去るのだ!!――えっ!?おまえ糞踏んだの!?うっわキタな!!――リア充爆発しろ!!――SHI☆NE!!――ちょっと山田君!何で私じゃなくてそこの金髪と銀髪の子見てんのよ!もう知らない!私たち別れましょう。じゃあね山田君――えっ!?ちょっま、待って!――。
と、耳を澄ませば色々と聞こえてきた。
まぁ、アレだな。俺が言えることは…がんばれ!山田君!
と、萌恵が俺の腕に自分の胸を押しつけるようにして(おそらく本人は無意識)引っ張ってきた。
むぅ……俺の妹の胸がこんなに大きいわけがない。という意味不明なタイトルが浮かんでくるあたりヤバイな……俺はシスコンじゃないぞ!!
「ホラ、お兄ちゃん。よそ見してないでこっちを見てよ」
「あ、あぁ悪い」
というわけで聖を試着室に押し込んだ。
「アレだな…聖は何かイメージだとパステルカラーの服が似合いそうだな」
「うん。私もそう思ってそういう服も集めたんだけど…何かそれだと普通すぎるっていうか
つまらないというか…当たり前すぎる気がするんだよね。っていうか何でお兄ちゃんはお姉ちゃんの事を『聖』って呼んでるの?昨日までは『おまえ』とか『そいつ』みたいなカンジで呼んでたのに…」
「あ、あぁ。いや、それはだな…」
さすがに失礼だろ、と続けようとしていたのだが萌恵の声によって遮られる。
「はっ、ま、まさかお兄ちゃん…昨日の夜同じ部屋で寝てたからもしかして……その…え、えっちな事を…」
と言ってポッと頬を赤らめる萌恵。
ヤバイ。店員がこっちを睨んでる気が…。
「え!?いや、ちがくて…ア、アレだよ…」
「だって昨日の夜…お姉ちゃんの泣いてる声まで聞こえたんだよ!?」
「ちょっおま…声デカイ…」
クソ!普段はバカな妹のくせに着眼点が鋭いぞ!!
とかやってたら…。
ヤ、ヤべぇ!!店員が増えた!!
しかも一人、店員が電話してる!俺をチラチラ見ながら!!
このヤバさはアレだな…。
昔、日本がまだ戦時中だった時の話だ。
というか日本が段々と負けてきているぐらいの時に起きた事故なのだが…。
実は日本にも装甲列車(本当に簡単に装甲列車について説明すると、戦車の列車バージョンみたいなやつだと思ってくれればいい)というのがあり、それが普通列車と正面衝突したんだ。
装甲列車は本来、金属で頑丈に作られるのだが材料不足でその当時は木を使って作られていたらしい。で、普通列車の方はまだ電車というものが存在しておらず蒸気機関車(SL)が牽引していたんだ。
SLは蒸気の圧力を使って走るので金属で頑丈に作られていた、というかつくらないとボイラーがぶっ飛ぶと思う。
というわけで衝突した結果は装甲列車は粉々に大破し、線路には木片ばかり。一方の普通列車のSLはほぼ無傷で脱線しちゃった☆みたいなカンジである。
で、結局どこがヤバイんだ?と聞かれると自分でもよく分からなくなってきたのでこれはもしかして現実逃避ってヤツか?と思い始めていた時、試着室のカーテンが開かれた。
そうだ!!
「な、なぁ聖。いきなりで悪いんだが昨日の夜、俺何もしなかったよね!?な?!」
「きのうのよる……?」
と言って顔を赤らめる聖。
オイ、なんで赤くなってんだよ。アレか?泣いたことが恥ずかしかったってことか?
「かいと……わたしを傷物にした。…でも優しくしてくれた」
何!?傷物って!?
「だからわたし、うれしかった」
これ完璧にヤバイよね!?
わざとか?ワザとなのか!?
クッソォぉおおおお!
俺を社会的にぶっ殺すつもりか!?
見ろ!
萌恵なんか耳まで真っ赤になって完全にオーバーヒートしてるぞ!
店員なんか『本人が喜んでるならまぁいいか』的な感じで生暖かい視線を送って来てるんスけど!?
「お、お願いです聖様…もう、イ、イジメないでください…」
聖は首を傾げているので今のは天然ってことか…。
コイツ、油断するとかなり危険だな…。下手をすると命落とすぞ(社会的に)。
†
あの後、萌恵がオーバーヒートしたまま自動復旧しそうになかったのでとりあえずチョッップして手動復旧させた。
で、事情をきちんと説明し、えっち云々は適当にチョロチョロと誤魔化しておいた。
萌恵は比較的バカなのですぐに納得してくれたが店員はまるでゴキブリのように逃げて行ったので説明できなかった。
うん。
アレだね。
この店にはもう二度と来れないな。
で、何をしに来たか忘れかけていたが思い出した。
聖の服を買いに来たのだ。
と、いうわけで改めて聖を見てみる。
………………………………ほほう?
なかなか似合ってるじゃないか。
冒頭部分で萌恵が普通すぎてつまんないとかほざいていたがそんなことはない。
そうだな、普通を通り越して逆にスゴイ感じかな。
可愛らしい春を感じさせてくれるような水色のワンピース。その上に白色のブラウス。それに淡い青色のショートパンツ。
とてもシンプルではあるが、それゆえに聖の銀色の透き通るような髪や青い瞳と合わさってとても魅力的である。
というか、かなり可愛い。いや、可愛いでは表せられないほど綺麗だ。
これには萌恵も驚いたようで目を見開いていた。
「可愛いな…」
無意識に言葉が出てしまった。
言った自分自身にも驚いた。
俺は日常生活において他人に対しそういったことはあまり言わないからだ。
一方聖は俺に可愛いと言われたことが嬉しかったのか頬をほんのりと上気させモジモジしながら「………あ、…あ、ありがとう……えへヘぇ」と笑っていた。
その姿もまた可愛くて……って一体幽霊相手に何言ってんだ.
これが世に言うマインドコントロールってやつか…。
あやうく惚れるところだった。
と、ここで今までフリーズしていた萌恵が再起動したらしく「へぇ~」や「可愛い~」と褒めまくり始めた。
それに比例するかのように聖は赤くなっていく。
元が白いだけにとても分かりやすい。
よし、俺も褒めてやるか。
するとさらに聖は真っ赤になっていき、耳まで赤くなってきた。
褒め始めて二~三分は「あぅ~」とか言っていたが四分ぐらい経過したところでついに聖が「ふにゅ~~~~~~~ぅ」と言ってその場に崩れ落ちた。
よし!勝った!!
…。
何が『よし!』だ。どこもよくねぇよ。っつーかコレ、どうすんの?
†
自宅。
無事買い物は終わり何とか家までたどり着いた。
聖は疲れたのか俺の部屋のベッドで寝てしまった。
ほんわりとした感じの寝顔は猫みたいだ。
アレ?コイツ、幽霊だよね!?
あまりにも可愛かったのでベッドに近づき、聖の顔にかかった髪を指先で払って髪を梳かす。
………。
ほっぺたを指で突っついてみた。
ぷに。
「にゅ」
ぷに。
「にゅ」
ぷに。
「にゅ」
ぷに。
「にゅ」
むぅ。これはクセになるな。アレに似てる…えーっと…あ、そうそうプチプチだ。
あの何度も押したくなる感じが似ている。
余談だが、東海道新幹線に乗っていると、とある地点に「プチプチ」と書かれた看板があるんだ。
実はこれ、プチプチを作っている会社の広告なのだ。
もうメーカーすら「プチプチ」という名前を使っているので公式名称と言ってもいいのかもしれない。
ちなみにプチプチの正式名称は「気泡緩衝シート」だ。
その後、しばらく聖のほっぺたを弄り一階へ降りた。
現在時刻は一六時。
リビングのソファに寝転がりテレビをつける。
…………。
つまらない。
一七時くらいなるとニュース番組とかが始まって多少は面白くなるんだが。
西向きの窓から夕陽が差し込む。
くだらないテレビ番組がだらだら流れているのを横目にソファに寝転がっていた俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
はぁ、はぁ、はぁ、書くの…っつーか打ち込むの疲れた…。量が多いよ…はぁ~~~~~。