第3話
ん~っと、3話です。
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「だから、誤解なんだって!」
「ふん!知~らな~い!」
あの後風呂から出て幽霊だった奴も引っ張り出し、顔や体を拭かせるのは萌恵に任せ、今は萌恵の服(ギリギリ着れたらしい)を着せてリビングのソファに寝かせている。
道で追いかけられた時は、っていうか風呂の天井に現れた時は頬に穴が開いていたり手がなかったりしたが今は普通の女の子…というか銀色の髪で顔だちも整っており、さらに体型もすらっとしているのに出るところはきっちり出ており見れば見るほど美少女だった。
アレ?コイツ、幽霊だったよね?ね?
と言うわけでグロイところがなくなったのでそういうのがダメな俺にとってはよいことなのだがおかげで萌恵にいくら幽霊だと言っても信じてくれなかった。
それで冒頭のセリフである。
「だああぁぁぁーもう!なんで信じてくれないんだ!」
「こんな可愛い子が幽霊なわけないでしょ!」
「…ん…ふにゅ……くはぁ~~」
…………。
起きた。
幽霊が。
少しビクつく俺。
だって、ね?
さっきまで幽霊だったんだし。
萌恵が幽霊の寝ているソファに向かって歩いていく。
俺もおっかなびっくり萌恵についていく。
……。
そいつはソファから床にずり落ちていた。
萌恵が慌ててソファに座りなおさせる。
そいつはされるがままだ。
そしてこっちを見てきた。
出会ったときに血走っていた目は髪と同じように透き通るような感じだった。
しかも、萌恵よりも濃くて深い青色の瞳だ。長時間見ていると彼女の中に吸い込まれるような気がした。
と、ここで初めてそいつが喋った。
まるで鈴の音色のように綺麗で、聞いていて心地よい、そんな声だった。
「………ここ……どこ?」
と可愛らしく小首をかしげる。
「ここは私たちの家だよ。っていうか兄ちゃんに連れ込まれたんじゃないの?」
「………おにいちゃん?」
「まさかお兄ちゃん、名前も知らない女の子を連れ込んだの?」
「いやいやいや、だから俺は連れ込んでないんだって」
「あっそ。まぁいいや。私の名前は桜木萌恵。こっちは私のお兄ちゃんの桜木海翔。よろし
くね」
「……もえ?………おにいちゃん…?」
「お、おおお俺は…海翔。お前にとってはお兄ちゃんじゃないから海翔って呼んでくれ」
若干キョドってしまった。
幽霊相手だし仕方ないだろ。ヘタレ言うな。
「………かいと?…」
「あ、ああ。そうだ」
何だ。この、こいつと話してるとなんだか幼稚園児相手に話している気がする。
「それでね、お兄ちゃんがあなたの事を幽霊だって言うんだけど…そうなの?」
「…ゆう、れい?………!」
「お前、さっき俺を追いかけてきたよな?」
「さ、さぁ?……」
何か明らかに怪しいな。若干キョドってるし。
萌恵は気付いているのか?
「そうだよね!幽霊じゃないよね!」
全然気づいてねぇー!
それどころか「どうだ」と言わんばかりに偉そうな顔をしてるし。
「そう言えばまだあなたの名前を聞いてなかったね。名前は?」
「…な、名前……?…!…えと、確かみこと…珠琴………ひじり…聖珠琴
?」
何で自分の名前なのに『確か』なんだよ。
しかもなぜに疑問形?俺たちに聞くなよ。
「珠琴さんね…年は?」
「……じゅうご…さい?」
じゃあ俺と同じか。
その割には身長は一つ下の萌恵と大して変わらねぇな。まぁ、胸は萌恵より圧倒的に大きいが。…別に萌恵が小さいわけではない。たんに幽霊のが大きすぎるだけだ。
「やっぱり私より年上か…家はどこなの?」
「………うーん………あれ?…………うーん………………あれ?………………うーん…………………あれ?…………………うーん…………………どこだっけ?」
そんなに熟考しといて結局分かんねーのかよ…。
…つーかどーすんの?これ。
家が分からないし……名前も疑問形の時点で怪しいし………まず生きてるかどうかも怪しいし…。
「そっかーじゃあー仕方ないね。うん。ウチに泊めよう」
何をおまえはそんなキリッとした顔で言ってんだ。
「……うん。泊まる…」
お前ものるなよ。
「大体泊めるったってどこに泊めるんだよ。この家はもう満室だぞ」
そう、この家、大きい割に部屋数はあまりないのだ。
一階はキッチンやリビング、ダイニング、トイレ、バスルーム等で普通の部屋がなく、二階は俺、萌恵、父の部屋が仕事用と寝室用、さらに書庫と物置でふさがっている。
「ん~まぁその辺はできとーでいいんじゃない?」
「いやいやいやいやダメだろ」
「いーんじゃなーい?」
「お前ものるな!」
少し怖かったが幽霊…メンドーなので聖と呼ぼう…にチョップしてみた。
「て!」
相変わらず可愛らしい悲鳴をあげるな…
……ハッ!こいつは幽霊。幽霊幽霊幽霊幽霊幽霊。
きっとこちらを油断させるために…。
…クソッ!幽霊のくせになんて知能犯なんだ!?
色仕掛けか……しかし!俺は負けんぞ!!負けないからな!!!
などと考えているうちに萌恵と聖は仲良くなったらしい…。
一緒に笑い合っている………と、そこで聖が立ち上がり階段方面へ向かい、二階へ上がる足音が聞こえてきた。
「あれ?あいつは?」
「ん?お姉ちゃんは二階の好きなトコで寝て良いよって言っといた」
なんて勝手な真似を…!!
いつ襲って来るか分からないのに!
萌恵の奴…ここらで一発ガツンと言ってや――
「それよりおにい~ちゃ~ん?お風呂の事だけど」
「あ、はい。その件につきましてはですね、えーと……―」
兄の尊厳など、もはや跡形もなかった。
結果五時間ほど萌恵に説教され、最初の内は幽霊だと言い張っていたのだが、これでは拉致が明かないので途中から言い訳を変え、一部記憶喪失の女の子を道で拾ってきたという事にした。風呂場の件についてはチョロチョロと誤魔化しておいた。
萌恵は割合バカなのですぐに信じてくれた。
ただ物理的に五時間は精神的にキツイ三分よりも辛いのでとっとと寝ることにした。
幸い明日は土曜日なので学校はない。
よし!明日は一日中ダラダラするぞ!
聖も襲ってこなければ放置しておけばいいし。今は普通の女の子っぽいし…。
それとも幽霊ってのは俺の見間違いかもしれないし…。
そんなことを眠い頭で考えながら二階に上がり一番奥の自分の部屋に入った…。
「……………………………………………………………………………………………………………」
そこにいたのは、というか俺のベッドの上で聖が―
「………クゥ………スピー………クゥ………」
―寝ていた。
何故に聖がここに!?
ハッ!そういえばさっき萌恵は二階の好きなトコで寝ていいよとか言ってたっけ…てっきり萌恵の部屋かと…。いやいやいや。でもうら若き男女が一緒の部屋で寝ちゃダメだろ…萌恵はその辺、特に何も考えていないのだろうか…?
いずれにしても幽霊かもしれないヤツと一晩過ごせって結構キツくね?
はぁ…セミダブルベッドでよかった……って違うだろ…
ヤバイ。俺はどうやら錯乱状態のようだ…。
とりあえず寝よう!
うん!
そうしよう!
と言うわけで聖の横で仰向けになってみる。
ちなみに俺の右に聖がいる感じである。左側は壁。
その時、聖が寝返りを打って顔がこちらに向いた。
一瞬ビクつく。
………!!!!
アレだな。うん。やはり萌恵の寝巻を着ているのだが若干サイズが合っていない。
そのせいか寝返りの際、それまで窮屈そうにしていた胸元のボタンが二つ三つはずれ、男子諸君が夢見る二つの雄大な山の谷間が。
あ、ヤバイ、これ。鼻血出そう。
寝巻のズボンも暑かったのか太ももあたりまで捲れ、やけに艶めかしくないいている。
特にきめの細かい太ももに汗が若干出ているところとかもう、たまらない。
これはガチでヤバイ。
……ハッ!まさかこれも幽霊の罠!?
クソ!なかなかやるな!!
だが、負けんぞ!
しかしここで、俺は重大な発見をしてしまった。
そう、それはニュートンの万有引力並みの。
こいつ……ブラしてない!!!!
おそらく妹の下着ではサイズが合わなかったのだろう。
しかも寝巻なので若干生地が薄く二つの山の火口というか突起物が少し透けている!!!!
……………………………………………………………………………………………………………。
はい。私は今、色仕掛けに負けました。
俺の手はまるで別の生き物のように脳の指令を無視して聖の二つの山へと向かっていた。
……………………。
ただ、あと数センチというところでわずかばかりに残っていた理性が力を発揮して「やっぱりダメだ!こういうのは本人の許可を取ってからでなきゃ!」という気持ちが生まれ……理性のくせに結局は触りたいのかよ…………まぁとにかく胸はやめて代わりに柔らかそうなほっぺたをつついてみた。
ちょうど追いかけられた時に穴が開いていた場所だ。
これで突き抜けたり透き通ったりしたらどうしようかと割合本気で悩んだが杞憂に終わった。
ぷにゅん。
言葉で表すならこんな感じの感触だった。
「……ふにゅ……ん?…んう…う?」
起こしてしまったらしい。
「わ、悪い、起こしちゃって…」
「ふぇ?……かいと?」
その時、聖のお腹からぐぎゅ~~という音が聞こえた。
幽霊も腹が減るんだな…。
あ、顔が赤くなってる。
かわいーなぁー。
「おまえ、腹、減ってんの?」
すると聖は。
「うん………それと……おまえじゃなくて名前でよんで?」
実は脳内ではすでに聖と呼んでいたのだが話すときはおまえとなっていた。
何でだろうね?照れたのかな?それとも恥ずかしかったのかな?……男がテレるってキモイよね。
「…え?何で?」
「なんか……わかんないけど……おまえはイライラする」
名前ってなんだよ。先生が学校で言う『名前を書いてくださいねー』の事か?つまりフルネームで呼べと?それともアレか?彼氏みたいに『珠琴』って呼べと?恥ずかしくて俺が死ぬ。
仕方がないのでとりあえず苗字で呼ぶことにした。
「分かったよ。……聖」
すると聖はニコニコと笑いながら――
「うん。ありがと」
と言った。
何だよ。
笑うともっと可愛いじゃねーか。
やっとこさヒロイン登場ですね(というか喋った)。