Cloudy Day
今日が晴れなら良かったのに。
今日が雨なら良かったのに。
でも、今日は曇り。
太陽が雲の隙間から覗くような薄さの雲ではなく、
雨が落ちてくるような雲の厚さでもない。
良くも悪くもない天気――
僕の心境と同じような、はっきりとしないグレイの空が広がる日。
今日は君が、他の男の元へと嫁ぐ日――
~~~~~~~~
三つ年上の君。
僕が生まれた時から、君は僕の傍にいた。
幼馴染。
親同士が仲が良くて、いつも傍にいた。
泣いて笑って喧嘩して、一緒に育った。
三つも年上なのに、君はそんな事をひとつも感じさせなくて、いつの間にか僕は君に恋をしていた。
でも、三つの年の差は、追いつきたくても追いつけなくて。
幼馴染という距離は、近付く事も遠くなる事もなくて。
年の割に幼い所のある君は、男に騙されてその度に僕の胸の中で泣く。
僕も段々と年を重ねて、大人の身体に近くなってきてからは、そんな君を抱き締めながら苦しい想いを重ねた。
君にはっきりと恋をしていると自覚してから、僕も何もしなかった訳ではない。
泣いて僕に縋りつく君の耳に、何度も自分の気持ちを囁いた。
熱く甘く、好きだ、と。
しかし、その度に君は突き放す訳でもなく、僕を受け入れる訳でなく、曖昧な返事を繰り返した。
イエスでも、ノーでもない……
白でも黒でもない……
灰色な、グレイな僕らの関係。
はっきりしない関係、曖昧な態度、期待させる距離――
そんな君を諦められなくて、僕は君を追いかけて同じ大学へと進んだ。
そして、僕は、
決して僕には向けられる事のない、柔らかに幸せそうに微笑んで、僕でない男の傍にいる君の姿を目の当たりにしてしまった。
「結婚するの」
何度も同じ事を繰り返して、君がそう告げに来たのは僕が社会人になった直後。
ようやく君と同じく社会に出て、肩を並べられたと思っていたのに……
輝くような笑顔を僕に向けて、君は僕を真っ暗な世界に突き落した。
「そう、なんだ……」
曖昧なグレイな関係に、突然終止符を打った君の言葉。
長い間の僕の想いは、笑顔ひとつで片付けられた。
~~~~~~~~~~
そして、今日、君が永遠に他の男のモノになってしまう日――
今日が抜けるような青空なら、太陽の光の下で幸せに輝く君を祝福出来たのに。
今日が真っ黒な雲に覆われた雨の日なら、この涙を雨の雫と一緒に流せてしまえたのに。
でも、今日は曇りだから。
君と僕との関係と同じ、はっきりとしないグレイな空だから。
ずっと、君を諦められずにいた、僕の心の中と同じ色だから。
だから、すべてこの空の色の所為にしてしまおう――
「おめでとう、綺麗だよ」
「ありがとう」
花嫁の控室で、幸せに輝く笑顔を僕に向けながら、君は真っ白な美しいドレスに身を包んでいた。
その美しく着飾った姿は、僕のためのモノではない……
別の男のモノ。
「もっと、綺麗にしてあげるね……」
僕はいつもと同じように笑いながら、君の傍へと歩みを進める。
ポケットに入っている、固く鋭く光るモノを握りしめながら。
きっと、赤と白のコントラストの中で、僕の腕で眠る君は、もっと美しいだろう。
今日が、晴れなら良かったのに。
今日が、雨なら良かったのに。
でも、今日は良くも悪くもない曇りだから、永遠に僕だけのモノになって――
【Cloudy Day】
end。