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笑顔の裏に

今回は恋愛モノです。



薄い雲に隠れた月が、ぼんやりと暗い空の中に浮かんでいる。


春の宵はまだ少し肌寒い。


しかし、軽くアルコールの入った身体には、その肌寒さも心地よく感じられた。


今日は大学のサークルの飲み会があった。


気の合う仲間と楽しくお酒を飲んだため、酔いのまわった私は夜空を見上げながら、すっかりいい気分に浸っていた。


「随分と上機嫌だな」


私が鼻歌混じりに静かな住宅街を歩いていると、前を歩いていた高校からの友人の祐二が声を掛けてきた。


「うん! 今日は楽しかった」


「そうか、良かったな」


彼は立ち止まって振り返ると、私の頭をクシャッと撫でた。


そして、いつものようにニコニコと穏やかな笑顔で私を見つめている。


祐二はいつもこうだ。


背の高い彼は、いつも私を見下ろしてニコニコと笑っている。


そして何かあると、チビの私の頭を子供をあやすようによしよしと撫でる。


高校で一緒のクラスになってから、何故か彼とは趣味も話もあって、お互いに彼氏や彼女がいても続いてきた腐れ縁。


偶然、大学も一緒になった。


趣味も合うしサークルも一緒。


だから自然と一緒にいる時間が多くなり、こうして遅くなったりした時は送って貰う事が多かった。


『一応、お前も女だからな』


と言う、私をまるでバカにしたような彼の言い方。


失礼しちゃうと思いながらも、一応女な私は彼の好意に甘えていた。


私がそんな態度の祐二に文句を言っても、いつも彼は笑いながら余裕な態度で受け流していた。


今も私の頭を撫でながら、彼は笑顔を崩さない。


付き合いは長いと言うのに、穏やかな性格の祐二の怒った顔はほとんど記憶にない。


過去を思い返しても、いつも変わらずに笑っている顔しか思い出す事が出来ない。


そして、そんな祐二の顔を見ていて、ふと疑問に思った。


いつも笑って私を見ているその顔の下で、彼は何を考えているのだろう。


「ねえ、祐二はいつも何を考えているの?」

「は? 真希、お前突然、何言ってんの?」


私の突然の質問に、祐二は余程驚いたのだろう。


穏やかな笑顔が、一転して怪訝そうな表情に変わった。


「だって、いつも笑ってるから、何考えてるのかなって不思議に思ったの」

「……はぁ、お前っていつも突然だよな~」


祐二は溜息をついた後、困ったような顔をしている。


滅多に見ない祐二のその顔に、私はにんまりと笑った。


いつも、からかわれる事が多いので、彼の困った顔を見て、私は何となく気分が良くなった。


「いいじゃん、教えてよ!」


調子に乗って、彼に近寄る。


「ふ~ん、そんなに知りたい?」

「うん!」


私が元気よく返事をすると、薄ぼんやりとした月の光を背負った彼は、ゆっくりと口を開いた。


「……そうだな、今はまず、お前をどうやって俺の部屋に連れ込もうか、考えている……」

「は?」


想像もしてなかった言葉が、祐二の口から飛び出してくる。


「それから部屋に連れ込んだ後、お前をその気にさせて、キスして、ベッドに押し倒して、服を一枚一枚脱がせて……」


とんでもない事を言っているというのに、彼の口調はいつもと変わらず淡々としていて、その表情は余裕たっぷりの笑顔のままだ。


「ちょっ、ちょっと祐二!」


私は慌てて彼の言葉をさえぎろうとしたが、祐二はおかまいなく続けてゆく。


私は自分の頬が、熱を帯びてカッと赤くなっていくのがわかった。


「服を脱がせた後は、お前の首筋に唇を当てて、段々と下の方に舌を這わせてだな……。胸を触って、愛撫して……」

「ちょっと、祐二!」

「お前をたっぷり可愛がって啼かせて、愛したい……って考えている……」

「ストップ! 祐二、ななな、なんて事を言ってるのよ!」


おもいっきり動揺して、声が震えてしまう。


「だって、お前が考えている事を言えって言ったんだろ」

「じょ、冗談はやめてよ!」

「冗談の訳ないだろ。男なんて、好きな女とこんな夜に一緒にいたら、考える事なんてこんなモンだよ」

「は?」


思わず、間抜けな声を上げてしまう。


好きな女って……?


今まで、そんな素振りを見せた事なんて無かったのに。


「真希、今はお前、俺の事を友達としか思ってないだろ? だから、すぐに実行する訳じゃないし、お前が望まない事はしない。大丈夫、俺は気が長い方だから。……お前がその気になったら遠慮しないけど。まぁ、そのうちな」


そのうちって……


そのうち実行するんですか!


「それまでは、精々お前の周りに近付く男は追っ払っておくから、安心して俺を好きになってくれ」


祐二が唇の端を上げてニヤリと笑って言ったその言葉に、湯気が出そうになるほど顔が熱くなる。


金魚のように口をパクパクとさせて、何も言い返す事が出来なくなってしまった。


「……高校の時、お前に彼氏が出来たって聞かされた時、気が狂うかと思うほど、嫉妬した」


ボソッと聞こえるか聞こえないかの小さい声で言った後、急に照れたような顔をした彼が、何故かいつもと違って見えて。


すぐに笑顔に戻った彼の顔を見上げると、心臓が急にドクンと強い鼓動を打ち始めた。


突然に聞かされた、笑顔の裏に隠れていた彼の本音――



実に生々しいストレートな男の言い分で、甘い告白とは程遠くて驚いたけれど。


その彼の正直さを、何故か悪くはないと思っている自分がいた。



【笑顔の裏に】



end。





この話は、他サイトで長編として公開しています。

元々、こうした短編だったお話です。

次話はまたダークで。(笑)

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